- 期間
- 2026年7月13日〜8月14日(運用開始から1か月。9月上旬の様子にも触れる)
- 対象
- 成形の2ラインで出た不良品の報告。現物の持ち込みから、共有スマホの写真へ
- 体制
- 品質保証の管理職である私と、現場リーダー3人、検査員4人。共有スマホは2台
- 結論
- 現物を確かめに現場へ行く回数は半分以下に減った。写真だけで判定できたのは6割で、残りは現物が要る。
品質保証の部屋は、成形ラインから廊下を1本はさんだ先にある。ドアを開けると正面が私の机で、その端に、黄色い荷札を付けた成形品が3個並んでいた。荷札には日付と工程名、それに「キズ」の2文字だけ。持ってきた人はもう現場に戻っていて、どの面のどのあたりのキズなのか、荷札からは読み取れない。私はそれらをひっくり返しながら、電話で聞くか現場まで行くかを考えていた。
7月の第2週、この荷札の運用を写真に変えると決めた。
荷札3枚から始まった
不良品の報告は、長いあいだ現物と荷札の組み合わせでやってきた。検査員か現場リーダーが不良品に荷札を付け、品質保証の机まで持ってくる。私が現物を見て、隔離するか手直しに回すかを決め、必要なら紙の不適合報告書を書く。この流れ自体は悪くない。現物を見て決めるという原則は、今も変えていない。
困っていたのは、持ってくる側の時間と、私が席にいない時間のずれだった。現場から品質保証の机までは、歩いて片道数分かかる。持ってきたときに私が会議で席を外していれば、荷札付きの現物は机の上で待つことになる。戻ってから荷札を読んでも「キズ」としか書いていないから、結局は電話をかけるか現場へ行く。6月を数えると、荷札付きで持ち込まれた不良品は40個前後、私が現物を確かめに現場へ行った回数は週に12回前後だった。
電話で聞けば済む、と最初は思っていた。実際には「右の角のあたり」「光を当てると見える」という説明を電話で聞いても、私の頭の中の像と現物は毎回少しずれていた。
そこで、まず写真を送ってもらうことにした。ラインごとに、会社で契約している共有スマホを置き、撮った写真をファイルサーバーの共有フォルダに入れて、社内チャットで一言知らせる。決めた翌週の月曜日、7月13日から始めた。
ところが最初の1週間で、写真の運用は写真そのもので詰まった。
1か月の見取り図
先に、全体の流れを図にしておく。始める前に描いた計画ではなく、終わってから週ごとに何が起きたかを並べ直したものだ。

1週目は撮り方でつまずき、2週目に撮り方を決め、3週目は写真の量に押されて置き場所を分け、4週目に写真で足りる物と足りない物の線を引いた。計画どおりだったのは「最初の週は様子を見る」という部分だけで、それ以降は毎週、前の週に出た困りごとを片づける形で進んでいる。
この見取り図を最初から持っていたわけではない。持っていたのは、机の端の荷札と、写真にすればたぶん楽になるという見込みだけだった。
1週目、ピントが合わない
初日の朝、共有スマホを渡すときに伝えたのは「不良品が出たら撮って、フォルダに入れて、チャットで一言」だけだった。撮り方は決めなかった。決めすぎると誰も撮らなくなると考えたからで、この判断自体は今も間違いだったとは思っていない。
最初の1週間で共有フォルダに入った写真は11件。そのうち私が撮り直しを頼んだのは9件だった。
撮り直しの理由はピントと大きさだった。手のひらに載せた成形品を近くから撮っているので、キズにピントが合わずに指紋の方がくっきり写っている。大きさの方は、写真だけ見ても、そのキズが1mmなのか5mmなのか分からない。荷札のときに「キズ」の2文字で困っていたのと、困り方の中身はほとんど同じだった。
そのうちの1枚は、キズの代わりに撮っている人の影が写っていた。蛍光灯の真下で手に載せて撮ると、手と共有スマホの影がそのまま製品に落ちる。撮った本人は現場の明るさに慣れているので、画面の暗さに気づいていなかった。
木曜日の午後、現場リーダーが「撮ってるのに、結局持ってこいって言われるなら前と同じですよ」と言いに来た。言い返せなかった。撮る手間が増えて、持ってくる手間は減っていない。この時点では、そのとおりだった。
金曜日、撮り直しになった写真を並べて、翌週に何を決めるかを考えた。
2週目、撮り方を3つに絞った
決めたのは撮り方の約束を3つだけにすることだった。荷札を先に写す。良品を隣に置いて、定規かボールペンを一緒に写し込む。寄りで撮るが、寄りすぎない。共有スマホの背面に、この約束を書いたラベルを貼った。
良品を隣に置くのは、検査員からの提案だった。「限度見本と並べて見るのと同じですよね」と言われて、その場でラベルに書き足した。寄りすぎないという言い方は曖昧だったので、実際にはスマホを置いた机の高さから撮るように伝えた。机の高さなら、だいたい20cmほど離れる。
ラベルは名刺くらいの紙をラミネートして、背面のケースに両面テープで貼った。数日で角がめくれてきたので、今は透明なケースの内側に挟んである。共有スマホを手に取るたびに目に入る場所に置く、というのが狙いで、掲示板に貼るのはやめておいた。

2週目の投稿は17件で、撮り直しは3件まで減った。3件はどれも、荷札の文字が影で読めないか、良品が隣にない物だった。ピントと大きさの問題は、この週にほぼ消えた。
ここで初めて、写真だけを見て「手直しに回してください」と返せた案件が出た。7月22日の水曜日、成形品の端に付いた小さな白化で、良品と並べた写真を見れば範囲がはっきり分かった。返信までにかかった時間は、チャットの記録で4分。返信を打ちながら、これで机の上に現物を待たせずに済む、と思ったのを覚えている。
3週目、写真が流れていく
撮り直しが減ると、今度は量の問題が出てきた。3週目の投稿は19件で、多い日は4件入った。チャットは新しい書き込みが上に積み重なるので、朝に判定した写真が昼には画面の下へ流れていく。「これ、もう見ましたか」と聞かれて、見たかどうかを自分でも思い出せない案件が2件あった。
これは写真の問題ではなく、置き場所の問題だった。共有フォルダの中を「未判定」「判定済み」「現物待ち」に分け、私が判定したらフォルダを移す運用にした。チャットは知らせるためだけに使い、判定の結果はフォルダの場所で示す。分けたのは7月29日で、その日のうちに未判定フォルダは空になった。空になった画面を見て、ようやく回り始めたと感じた。

4週目は16件で、合計は63件になった。6月の荷札運用が40個前後だったから、件数としては1.5倍以上に増えている。不良が増えたわけではなく、荷札を付けるほどでもないと判断されて報告に上がらなかった物が、写真なら送られてくるようになった。この差は、始める前には見えていなかった。
ただ、写真が増えるほど、写真だけでは決められない物も一緒に増えた。4週目は、そこに線を引く週になった。
4週目、写真で足りる物と足りない物
63件を、写真だけで判定できた物と、結局現物を見に行った物に分けて数えた。写真で完結したのが38件、現物が要ったのが25件。割合にすると6割が写真で済んでいる。

現物が要った方の中身は、寸法に関わる物、光沢や色味の差、それに手触りで判断する物だった。寸法は写真に定規を写しても、0.1mm単位の話になると写真では決められない。光沢と色味は共有スマホのカメラが自動で明るさを補正するので、実物より良く写ることもあれば悪く写ることもあった。手触りは論外で、写真にできない。光沢の判定では、同じ写真を窓際で見るのと蛍光灯の下で見るのとで印象が変わった。写真は同じなのに、見る場所で答えが揺れる。
逆に、写真で済んだ方はキズ、白化、バリ、異物の混入といった、形として写る物ばかりだった。
この分け方を現場リーダーと検査員に伝えて、寸法と色味と手触りは「写真を送ったうえで現物も持ってくる」に決めた。写真を送るのをやめるのではなく、写真で私が事前に見ておけば、現物を受け取ってからの判定が速くなる。実際、8月の第2週に現物が来た7件は、どれも受け取って2分以内に判定できた。
やめたこと、残したこと
終えてみて、荷札の手書きはやめた。荷札に書いていた日付と工程名は、写真の最初に荷札そのものを写せば済む。荷札は付けるが、書くのは日付だけにした。
紙の不適合報告書は、隔離が必要な物だけ残した。紙を書いたのは7件だけで、6月は持ち込みのほぼ全部に書いていたから、書く量は大きく減った。残りは、共有フォルダの写真と判定済みフォルダへの移動が記録になっている。監査のときにこの形で通るかどうかは、正直まだ試していない。監査員がフォルダの移動を記録として認めるかどうかは、そのときに聞くつもりでいる。

残したのは、現物の隔離箱と、金曜日の現物レビューだった。隔離箱は前からある。金曜日のレビューは新しく始めた物で、その週に現物待ちになった物を15分だけ現場リーダーと一緒に見る。写真で判定した物のうち、あとから現物を見て判定を変えたくなる物がないかを確かめる場でもある。8月半ばまでの4回で、判定を変えた物は1件あった。白化だと思っていた物が、実物では薄い割れだった。写真では白化と同じ白い筋に見える。爪で軽く押すと筋がわずかに開いて、そこで初めて割れだと分かった。写真に写らないのは手触りだけではなかった。
この1件があったから、写真だけの判定を全面には広げていない。
1か月の集計
6月の荷札運用と、写真運用のひと月を並べる。

報告の件数は40個前後から63件へ増えた。私が現物を確かめに現場へ行った回数は、週12回前後から、8月第2週は週5回になった。紙の不適合報告書は月40枚前後から7枚へ。撮り直しの依頼は、前に書いたとおり9件から1件まで減っている。
現場へ行く回数が減った分がそのまま自分の時間に戻ったかというと、撮る手間が新しく増えているので、差し引きは私の見積もりでしかない。ストップウォッチで測ったわけではない。ただ、現場リーダーは「持って行って戻るあいだ、機械を止めずに済むようになった」と言っていて、私が数えている回数より、そちらの方が現場には効いているらしい。
始める前に想像していたのは、現物の持ち込みがほとんどなくなる姿だった。実際には4割は現物が要るし、写真の置き場所や撮り方で毎週の手直しが要った。それでも、机の端で荷札3枚を眺めながら電話するか歩くかを迷っていた時間は、8月にはなくなっている。
9月に入ってからは、共有スマホを塗装のラインにも置いた。そちらは色味の判定が中心になるので、写真で済む割合は成形より低くなると見ている。何割になるかは、また数えてから書く。
不良品の報告と現物の扱いについては、ものづくりハンドブックのM5 不良・ヒヤリの報告とトレーサビリティにもまとめている。報告の型や記録の残し方から知りたい人は、あわせて読んでもらえるとよいと思う。
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写真を共有フォルダに置いただけで報告の件数が増えた理由を、あとから言葉にする助けになったのが遠藤功『見える化』だった。見えるようにすることと、見せることは別だという整理が、3週目のフォルダ分けの話とそのまま重なる。
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現場の掲示物をQRコードに変えたら、かえって見られなくなった話 — 道具を変えれば見てもらえるはずだという見込みが外れた記録。今回の1週目と、外れ方がよく似ている。
音声入力で検査記録を取ってみたら、方言と現場の騒音でどうなったか — 記録の道具を変えたもう1つの試み。タブレットの音声入力は、写真とは別の場所でつまずいた。
免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。件数や時間は自社の現場で数えた値で、写真による判定の範囲は製品や不良の種類によって異なります。実際の運用は各社の品質基準に従ってご判断ください。