仕入先の工場へ品質の監査に行く側の、計画から指摘を閉じるまでのガイドです。私は品質保証の仕事で、仕入先への監査の計画と、仕入先から届く是正の回答の確認をしています。参照した資料の改版があれば書き直します(確認日:2026年10月7日)。
- 場面
- 新規の仕入先を決める前、重い不具合のあと、定期の見直しの時に、仕入先の工場で品質の仕組みを確かめる
- 対象
- 取引先が仕入先へ行う品質の監査(第二者監査)。工程・現物・記録を見る。認証機関の審査と自社の内部監査は含めない
- 使うもの
- 自社の要求事項(品質保証協定・要領)、事前の質問票、監査計画、指摘書、仕入先の工程図と記録
- 要点
- 行く理由と範囲を決めて事前に送り、当日は書いてあることを現物と記録で確かめる。指摘は事実と根拠で書き、回答の効果を書類か臨時の訪問で確かめた日に閉じる
仕入先監査は、仕入先の品質の仕組みが、書類にあるだけでなく現場で回っているかを確かめる作業です。公開されている取引先向けの品質保証マニュアルには、行く理由、事前に送る資料、回答の期限を決めているものがあります。
進め方は4つに分けます。行く前に、目的と範囲を決めて資料を送る。当日は、工程を流れの順に歩き、記録を現物と突き合わせる。終わったら、指摘を事実と根拠で書く。回答が届いたら、書類か臨時の訪問で効果を確かめる。回答の期限と指摘の区分は会社ごとに違います。客先の要領か契約にあればそれに従い、無いときは、数え始めの日、期限、区分の段数、仕入先との合意の順に決めます。
監査で確かめること
確かめるのは、決まりが書いてあるかと、そのとおりに行われているかの両方です。見る所は、工程、現物、記録の3つです。
ジャパンディスプレイの供給者向けガイドラインは、監査の確認事項を2つ挙げています。1つは、事前に出した質問票に基づく、規定の有無と実行の記録です。もう1つは、受入から出荷までの工程の、管理の実行状況です。アーレスティの取引先向けマニュアルは、監査の狙いを、表に出た不具合点と潜んでいる不具合点を明らかにして、改善を指導することとしています。
監査は、行う側で3つに分けられます。第一者は内部監査です。第二者は、顧客など組織に利害をもつ者が行う外部監査で、仕入先への監査はここに入ります。第三者は、認証機関など独立した組織が行う審査です。この記事が扱うのは第二者です(ISO 19011:2018 の用語による)。
監査の進め方の一般的な手引きは、ISO 19011 です。ISO の公式ページでは、2026年5月に第4版が出て、2018年版は廃止されています。日本規格協会のページ(2026年10月7日に確認)では、JIS Q 19011:2019 が有効で、直近の確認は2024年10月21日です。ISO 19011:2026 は英・日対訳版として売られていて、2026年版に対応する JIS は見当たりません。
いつ行くか
行く理由は先に決めます。公開されている要領の例です。
| 発行元 | 監査に行く場面 |
|---|---|
| アーレスティ | 新規取引時、新製品の立上げ時、定期的な体制の確認、不具合が出たときの工程確認、再発防止対策のあとの継続確認、年度方針による活動や工程変更など |
| 住友電気工業 | 新規採用時、新製品の立ち上げ時、工程変更時、不良多発時、重要不良の発生時、定期的 |
| 日本黒鉛工業 | 不適合製品を発生・流出させた供給者、新規の供給者、顧客の要求で必要になった供給者、ほか必要と判断した供給者 |
| タイコエレクトロニクス ジャパン | 定期監査は、品質実績・納入実績・過去の監査結果・自主監査の内容からリスクを判断して計画する。臨時監査は、重大な顧客クレームの時などに行うことがある |
頻度の例です。アーレスティは、同社が重要と定めた工程(機能保証工程)を、最低3年に1回、同社の商品営業部が監査します。機能保証工程とは、同社の工程監査チェックシート(帳票10)の「重要項目」欄に○が付いた工程です。タイコエレクトロニクス ジャパンは、定期監査を原則3年に1回としています。
自動車向けの IATF 16949 の FAQ(2025年11月版)は、仕入先への第二者監査をリスクで決めるとし、材料に認証の状況、品目の複雑さ、新製品の立ち上げ、品質と納期の問題を挙げます。
工程変更の申請は、4M変更の連絡の手順にまとめました。
行く前に送るもの
送るものは、監査計画と事前の質問票です。質問票の呼び名は、ジャパンディスプレイが「品質監査チェックシート」、日本黒鉛工業が「品質保証体制チェックシート」、住友電気工業が「監査シート」(自主監査用)です。
監査計画に入れる項目の作例です。近い定めのある要領を括弧に付けました。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 目的 | 行く理由を1行で(新規取引、不具合のあと、定期など) |
| 範囲 | 見る工程と製品。守秘で見せられない所は、事前に相談して外す(タイコエレクトロニクス ジャパンは、一部を対象外にできるとする) |
| 日程 | 仕入先と調整し、事前に同意を得る(ニチコンの基準)。通知は原則1か月前(日本黒鉛工業の基準書) |
| 立ち会う人 | 仕入先の責任者と、工程と記録を説明できる人。自社の顧客を同行させる可能性があれば伝える(ニチコンの基準) |
| 見たい記録 | 工程図、品質記録など、当日に見る資料の名前(住友電気工業は、事前の資料提出を依頼する場合があるとする) |
| 回答の期限 | 指摘書に日付で書き、数え始めの日も決めておく |
質問票は、決まりの有無と記録の名前を組にして聞きます。ジャパンディスプレイの要領は、コメント欄に対象の文書名や記録名を書かせています。設問の作例です。
| 設問の作例 | 回答に書いてもらうもの |
|---|---|
| 受入検査の手順書の有無 | 文書名、版、直近の記録の名前 |
| 工程図(QC工程表)の最新版 | 文書名、版、改訂の記録の名前 |
ジャパンディスプレイの要領は、トラブルの解決が主な臨時の監査では、質問票を使わない場合があるとしています。作例として、臨時でも、そのトラブルに関わる記録の名前だけを聞く2〜3項目の質問票を送ります。
当日の順番
見た範囲の取引先の要領には、当日の進行を細かく決めたものが無かったので、この節は手順の作例です。JIS Q 19011:2019 の目次には、初回会議、最終会議、監査のフォローアップの項があり、始めと終わりの打ち合わせはこの並びと同じです(日本規格協会の説明会資料)。
| 順 | すること | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | 始めの打ち合わせ | 目的、範囲、日程、立ち会う人を確かめる。撮影や記録の持ち出しができるかも聞く |
| 2 | 工程を歩く | 受入から出荷まで、流れの順に歩く。作業者の手元の作業標準が、最新の版かを見る |
| 3 | 記録を現物に当てる | 質問票で挙がった記録を出してもらい、日付とロットを、そこにある現物と照らす |
| 4 | 終わりの打ち合わせ | 見つけた指摘を読み合わせ、事実に誤りがないかを仕入先に確かめる |
記録だけを見て終わらせません。その場で判定できない項目は後日報告します(ジャパンディスプレイの要領)。
指摘の書き方
指摘は1件ずつ、4つの欄で書きます。次の欄は書式の作例です。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 事実 | 何を、どこで、いつ見たか。記録の名前、日付、ロット。推測は入れない。例は「出荷検査記録の測定値の欄に、空白の日がある」 |
| 根拠 | 何に反しているか。自社の要求事項、仕入先の社内手順書、品質契約の該当の箇所 |
| 区分 | 指摘の重さ。名前の例はあるが定義は公開されていない。仮置きの作例は次の節 |
| 回答の期限 | 指摘書に日付で書く。数え始めの日も書く |
回答の期限と指摘の区分
公開されている要領の、回答の期限の例です。
| 発行元(箇所) | 回答の期限 | 単位と数え始め |
|---|---|---|
| タイコエレクトロニクス ジャパン(品質管理共通仕様書 Automotive 2.5) | 改善計画は1週間以内、改善結果は1か月以内(証拠資料つき) | 営業日か暦日かの記載なし。数え始めの記載なし |
| KSR International(Supplier Handbook) | 監査の完了から1週間後。遅れると月次の品質評価から10点を引くことがある | 週。数え始めは監査の完了 |
| Tupy(MAN 007の9.2) | 最大15営業日以内に行動計画で回答。遅れると、同社の手続き(9.4項)に入ることがある | 営業日。数え始めの記載なし |
| アーノッツグループ(ベンダー要件マニュアル12.1.1) | 重大は5暦日以内。重要と軽微は30暦日以内 | 暦日。重大は監査日から、重要と軽微は是正措置計画の受領から |
日数を書かない要領もあります。日本黒鉛工業は回答期限までの提出を、住友電気工業はすみやかな是正報告を求めるだけです。単位と数え始めが会社ごとに違うので、日数だけを並べて比べることはできません。
客先の要領も契約も無いときは、自社で次の順に決めて、仕入先に書面で伝えます。順は作例です。
- 数え始めの日(監査日か、指摘書を渡した日か)
- 期限の日数と単位(暦日か営業日か)
- 区分の段数と名前
- 仕入先との合意(品質協定か通知の返信で)
指摘の区分も会社ごとです。アーノッツグループは、重大・重要・軽微の区分を使い、重大だけ期限を短くしています。監査の指摘の区分の定義は、見た範囲では書いてありません。認証機関の審査では、ISO/IEC 17021-1 が、重大な不適合をマネジメントシステムが意図した結果を出す力に影響する不適合、軽微な不適合をその力に影響しない不適合と定義しています。これは認証の決定に使う区分なので、仕入先監査の区分は、客先の要領か自社の取り決めで決めます。
区分を決める判断軸の作例は、製品への影響、仕組みの欠落か運用のずれか、同じ指摘の再発か、の3つです。2段の作例は次のとおりです。
| 区分 | 当てはめる指摘 |
|---|---|
| 重大 | 製品の品質や安全に影響する指摘、決めた仕組みが動いていない指摘、同じ指摘の再発(例:検査をしていない) |
| 軽微 | 仕組みは動いていて、記録の不備や運用のずれにとどまる指摘(例:記録の記入漏れ) |
指摘の閉じ方
指摘は、回答を受け取っただけでは閉じません。効果を確かめた日に閉じます。4つの段取りは作例で、近い定めのある要領を右に付けました。
| 段取り | 中身 | 近い定め |
|---|---|---|
| 回答を受ける | 原因、処置、証拠資料を確かめる。発生原因と流出原因が分けてあるかも見る | ジャパンディスプレイ(証拠文書と併せて報告)。住友電気工業8.3(納入後の不具合の是正報告書に発生原因と流出原因を記載) |
| 書類で効果を確かめる | 処置のあとの実施状況と結果を報告してもらう。回答に確認の予定日を書かせる | タイコエレクトロニクス ジャパン(改善結果を証拠資料つきで報告)。ニチコン(改善後の実施状況と結果の報告を求められる) |
| 臨時の訪問で確かめる | 書類で見きれない指摘は、次の定期監査を待たず、臨時に訪問して現物を見る | アーレスティ(再発防止対策のあとの継続確認を、行く理由の1つにしている) |
| 次の定期監査で見る | 閉じたあとも、前回の指摘を最初に見て、継続を確かめる | ジャパンディスプレイ(有効性と継続性を確認) |
記録が残っていても、現物が直っていなければ閉じません。
出典(規格):ISO 19011:2026 公式ページ/日本規格協会 JIS Q 19011:2019/同 ISO 19011:2026/同 規格改正説明会資料/セルビア規格協会 用語集(3.1)
出典(各社の要領):アーレスティ「品質保証マニュアル【商品】」第2版 13章/住友電気工業「品質管理ガイドライン」版B/日本黒鉛工業「品質保証要求基準書」第二版/ジャパンディスプレイ「品質保証ガイドライン」17章/ニチコン「品質保証基準」改訂8 20章/タイコエレクトロニクス ジャパン「品質管理共通仕様書」Rev A 2.5/KSR International「Supplier Handbook」2025年1月改訂/Tupy「Supplier Manual」MAN 007 Review 03/アーノッツグループ「ベンダー要件マニュアル」バージョン002
出典(自動車向け規格と認証の審査):IATF 16949:2016 FAQ(2025年11月)/欧州認定協力機構 EA「FAQ 39.1」/IAS 公開の ISO/IEC 17021-1:2015 第3章
私なら、行く前に、理由と範囲と回答の期限を1枚の監査計画にして、質問票と一緒に仕入先へ送ります。
指摘への回答の書き方を、ものづくりポータルの是正処置報告の様式(Excel・8D のシートつき)に置いています。国内の形と8Dの形があり、仕入先に回答を書いてもらう欄の見本にも使えます。
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顧客監査の指摘を、ほかの工程や製品へどこまで横展開するかを決める4つの判断基準。

指摘への回答として出す是正処置報告で、分けて書く3つの欄と差し戻される3つの所。

免責:このページは、仕入先監査の手引きと、書式・手順の作例です。期限と区分は、引いた各社の要領の数字で、自社の取引にそのまま当てはまるとは限りません。客先の要領と、仕入先との品質契約で確かめてください。