品質保証の仕事を人に説明するとき、いつも詰まる一言

期間
直近1年ほどの「仕事は何をしているのか」と聞かれた場面の記録
対象
自分と社内の後輩が、品質保証の仕事を人に説明した合わせて19回のやり取り
体制
品質保証の管理職である私が、一人で言い方を試行錯誤し、途中から後輩にも聞いて回った
結論
相手が知っている「検品」を否定せずに入り口へ変えたら、最後まで話を聞いてもらえる回数が増えた。

「品質保証です」と答えると、たいてい「検品の人ですね」で会話が終わる。「いえ、それだけでもなくて」と続けようとした頃にはもう次の話題に移っていて、結局何も伝わらないまま握手して終わる。この1年でそういう場面が何回あったか、あるとき数えてみたら11回だった。

目次

「検品ですか」で終わる自己紹介

数えてみると内訳がはっきりした。「検品の人ですね」で止まった相手が7人、「品質を守る仕事です」と言い換えても反応が薄かった相手が3人、最後まで聞いてくれたのは1人だけだった。自分では毎回違う言い方をしているつもりだったのに、結果はほぼ同じところに落ち着いていた。

仕事を聞かれた11回の内訳 ※筆者の運用記録(対象:直近1年に「仕事は」と聞かれた11回・期間:直近1年)
仕事を聞かれた11回の内訳 ※筆者の運用記録(対象:直近1年に「仕事は」と聞かれた11回・期間:直近1年)

私は検査員から始めて生産技術、品質管理、新規事業を経て、いまは品質保証の管理職をしている。その分だけ仕事の中身は広いのに、一言で説明しようとすると必ず「検品」という一番狭い部分に吸い込まれていく。若手の頃はそれでも構わないと思っていた。詳しく話す機会もなかったし、詳しく話したところで喜ばれる話でもない。

入社3年目の頃、初めて配属された検査室で先輩に「うちの仕事、外の人にどう説明してる?」と聞いたことがある。先輩は少し考えてから「説明しなくていい。分かる人にだけ分かればいい」と笑って答えた。当時はその答えに納得していた。

だが管理職になり、取引先や家族、子どもの授業参観の保護者同士の自己紹介など、説明を避けられない場面が増えた。避けられないのに、うまい答えを持っていないことに、あるときはっきり気づかされた。

後輩の結婚式で、詰まった30秒

その考えが変わったのは、後輩の結婚式の披露宴だった。会場は郊外のホテルの宴会場で、私の席は新婦側の親族と相席になる並びだった。隣の席になった親族の方に「お仕事は」と聞かれ、いつもの調子で「品質保証です」と答えた。相手は「ああ、検品ですね」と笑顔で返してきて、私は「まあ、そうですね」と流してしまった。

会話はそれで途切れた。

30秒もなかったと思う。披露宴の余興が始まって話題が変わり、私はグラスを持ったまま、自分がいま相手に何も伝えられなかったことに気づいた。相手の職業を聞かれたら私はきっと詳しく聞き返しただろうに、自分の番になると同じことをしていなかった。

披露宴が終わって歩いて駅に向かう道すがら、後輩から「今日はありがとうございました」と声をかけられた。「品質保証の仕事、親族の方にちゃんと説明できました?」と聞かれ、私は思わず黙ってしまった。後輩は笑いながら「私も同じです。毎回困ってます」と返してきた。困っているのは、自分だけではないようだ。

言い換えを3回試して、3回とも外した

翌週から、意識して言い方を変えてみた。まず試したのは「品質を守る仕事です」。抽象的すぎて、相手はうなずくだけで質問が続かなかった。次に試したのは「クレーム対応と検査をやっています」。これは検品の部分だけを拾われて、結局「検品ですね」に戻ってしまった。3回目は「出荷したあとに困らないようにする仕事です」。少し興味を持ってもらえたが、今度は保険の営業と勘違いされた。

3つとも空振りだった。

それぞれの言い方には理屈があったのに、相手の頭の中では別の職業に変換されてしまう。私の言葉が悪いのか、それとも品質保証という仕事自体が説明しにくいのか、しばらく判断がつかなかった。

言い換えを3回試した流れ ※筆者の運用記録(対象:3回の言い換え試行・期間:披露宴の翌週から授業参観まで)
言い換えを3回試した流れ ※筆者の運用記録(対象:3回の言い換え試行・期間:披露宴の翌週から授業参観まで)

3回目を試したのは、子どもの授業参観のあとの保護者懇談だった。相手の保護者は「保険の営業さんですか、うちも見直したくて」と話し始め、私は訂正するタイミングを逃したまま世間話を続けた。帰り道、子どもに「パパの仕事、なんて説明したらいいと思う?」と聞いたら、「工場でものを作ってる人でしょ」と即答された。子どもの説明のほうが、私の言い換えよりずっと的確だった。

同じ悩みの後輩が、社内に何人もいた

披露宴の帰り道で聞いた後輩の一言が気になって、翌週、部署の後輩5人に同じことを聞いてみた。「自分の仕事、外の人にどう説明してる?」という質問に、5人中4人が「うまく説明できたことがない」と答えた。残る1人は「検品ですと答えてそれで終わらせている」とのことだった。

後輩たちの答えを合わせると、自分の11回に、8回分の経験が積み上がった。合わせて19回のうち、最後まで話を聞いてもらえたのは私の1回だけで、後輩たちにも似た経験はなかった。

ただ、面白い工夫をしていた後輩がいた。彼は「検品よりもうちょっと手前から見ている仕事です」と説明していて、相手の頭に浮かんだ「検品」のイメージを否定せず、位置をずらすだけで済ませていた。この言い方には、あとで自分も助けられることになる。

後輩5人に聞いた結果 ※筆者の運用記録(対象:社内の後輩5人への聞き取り・期間:披露宴の翌週)
後輩5人に聞いた結果 ※筆者の運用記録(対象:社内の後輩5人への聞き取り・期間:披露宴の翌週)

否定してから直そうとしていた

気づいたきっかけは、3回目の失敗を妻に話したときだった。妻は「検品って言われて、それ違うって否定するところから始めてない?」と言った。言われてみればそのとおりで、私の説明はどれも「検品だけじゃなくて」という否定の形から入っていた。相手が持っている唯一の手がかりを、最初に取り上げてしまっていたことになる。

相手にとって「検品」は間違ってはいない。

私の仕事の一部分ではあるし、外から見て一番想像しやすい部分でもある。否定から入れば、相手は自分の理解を訂正された気分になり、そこで会話への関心が下がる。いまも正解かどうかは分からないが、少なくともこの仮説は次の場面で試す価値があると思えた。

振り返ると、入社3年目の頃に先輩から聞いた「分かる人にだけ分かればいい」という言葉も、根っこは同じ構造だったといまは思う。説明を諦めることと、否定から入ることは、どちらも相手の手がかりを受け取らないという点で似ている。

否定型と肯定型の言い方の違い ※概念図(実測データではありません)
否定型と肯定型の言い方の違い ※概念図(実測データではありません)

「検品」を入り口にする言い方

それからは、後輩の「検品よりもうちょっと手前から見ている仕事です」を手がかりに、相手の言葉を先に認める型に変えた。「検品もしますね。ただ検品だけだと、出荷したあとに問題が出るので、その前の工程からおかしなところを直す仕事もしています」という順番だ。否定を挟まず、相手の理解に1つだけ言葉を足す形にした。

この言い方に変えてから聞かれた5回のうち、最後まで話を聞いてくれたのは4回だった。以前とは、はっきりした差が出たと思う。もちろんまだ記録の数としては少ないので、たまたま相手に恵まれただけかもしれない。それでも、否定から入っていた頃には一度も起きなかった変化ではある。

そのうち1回だけ、また「検品ですね」で止まった相手がいた。相手は仕事の休憩中で、長い話を聞ける状況ではなかった。型を変えても、相手の状況までは変えられない。そこは切り分けて考えるようにしている。

「検品」を入り口にする言い方の型 ※概念図(実測データではありません)
「検品」を入り口にする言い方の型 ※概念図(実測データではありません)

1か月後、同じ後輩たちにもう一度聞いてみた。3人が同じ型を試していて、そのうち2人は「以前より会話が続くようになった」と答えた。残る1人は「まだ検品で止まっている」とのことだったが、これは相手ではなく自分が古い言い方に戻ってしまっていたと本人が振り返っていた。

半年後、もう一度数え直してみた

この型に変えてから半年が経ったので、あらためて数え直してみた。半年間で仕事を説明する場面は9回あり、そのうち7回は最後まで話を聞いてもらえた。残る2回は、相手が急いでいて途中で切り上げた場面だ。「検品ですね」だけで会話が終わったのは、型を変えた直後の1回きりで、それ以降は起きていない。

型を変えたあとの半年の結果 ※筆者の運用記録(対象:型を変えてから半年間に説明した9回・期間:半年間)
型を変えたあとの半年の結果 ※筆者の運用記録(対象:型を変えてから半年間に説明した9回・期間:半年間)

数字だけを見ると成功のように見えるが、そう単純でもない。

型そのものは同じでも、相手によって刺さり方は違う。子どもの友達の母親には「検品もしますね」の一言で十分だったが、取引先の営業担当には「検品もしますが」のあとに、具体的な事例を1つ添えないと最後まで聞いてもらえなかった。相手が何を知りたがっているかによって、足す言葉の量を変える必要があった。

後輩からは「型を覚えたら、逆に説明が長くなった」という感想ももらった。否定しないことと、言葉を足しすぎないことは、別の話だと2人で話した。ここはまだ自分でも試行錯誤の途中にある。

結局のところ、私が変えたのは説明の中身ではなく、相手の最初の一言の扱い方だった。「検品」という言葉を訂正すべき誤りとして扱っている限り、その先の話は始まらない。相手が口にした言葉のどこかに、自分の仕事とつながる部分は必ずある。

言葉にする練習の途中で何度か開き直したのが「伝え方が9割」だった。相手の中にある言葉を先に受け止めるという考え方は、この本で読んだ内容とも重なっていた。

相手にどう伝わっているかを一人で確かめるのは難しいので、ポータルの「言語化スキル自己診断」で自分の言い換えの癖を確かめてから話す場面に臨むのも1つの手だと思う。診断ページを見る →

参考書籍(PR)

相手の言葉を先に受け止める型を考えるときに読み返した1冊。

【PR】伝え方が9割 [ 佐々木 圭一 ]

次に読む

後輩に品質保証の仕事を引き継ぐとき、最初に渡した3枚 ― 配属初日の後輩に、渡す物を3枚に絞ったときの話。

QC検定に受かってから、現場の見え方はどう変わったか ― 資格そのものより、それをどう語るかで周囲の反応が変わった話。

ここまでは私個人の経験に基づく記録であり、同じ言い方が誰にでも刺さるとは限らない。そのまま真似るのではなく、自分の現場の言葉に置き換える参考として読んでもらえたらと思う。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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