4月に配属になった新人が、独り立ち判定の面談で「正直、何を覚えたか自分でもよく分からないです」と、うつむき気味に言った。面談は薄暗い会議室の隅で、いつもの評価シートを挟んで座る形だった。OJTのチェックリストは全部埋まっていたし、教育記録にも印は押してある。それなのに本人にも私にも、腹落ちした手応えが無かった。
新人研修の空白期間
うちのOJTは、①安全教育②品質の基本・ルール③OJTという順で回している。各ステップの終了は先輩がチェックリストに印を付ける形で、内容を理解しているかどうかを確かめる場面は実はどこにも無かった。
印は「教えた」の記録であって「分かった」の記録ではない。
独り立ち判定も、決められた作業を一人でこなせるかを見る実技チェックが中心で、知識の理解度そのものを測る項目は組み込まれていなかった。指摘されて初めて、そこが空白だったと気づいた。
チェックリストの限界
チェックリストを見返すと、22項目のうち理解度を本人に確認する項目は0だった。教えた側の自己申告と、教わった側の自己申告がずれていても、書類の上では気づけない仕組みになっていた。

クイズを試しに出してみた
ちょうどその頃、勤務外に自分で書き溜めているものづくりポータルに、理解度クイズの機能を作ったところだった。ハンドブックの内容から、カテゴリごとに10問出題され、答え合わせのあとに解説ともとのページへのリンクが出る作りだった。社内教育のために作られたものではないが、新人にそのまま解かせてみることにした。休憩室のパソコンを使い、就業後の15分だけ時間をもらった。画面を見せると「テストですか」と身構えられたので、点数は評価に関係しないと先に伝えてから始めた。
4問中3問が同じ理由だった
結果は「A. 定例・マネジメント」カテゴリで10問中7問正解、「B. 異常対応」カテゴリで10問中6問正解だった。
数字だけ見れば悪くない。
だが不正解の内訳を紙に書き出して見ると、B異常対応で落とした4問のうち3問が、初動と原因究明の優先順位に関する設問に集中していた。教えたつもりで、実は伝わっていなかった箇所がはっきり出た格好だった。画面の前で本人も「あれ、ここ全部同じ話でしたっけ」と首をかしげていた。

解説を読ませてみると
不正解だった設問の解説とリンク先を、その場で読ませてみた。5分ほど画面を見つめたあと、本人が「これ、初動のときに止めるのが最優先だと思ってました」とつぶやいた。優先順位を取り違えていたことに、教える側も答え合わせをするまで気づいていなかった。OJTでは「まず止める、それから連絡」という順番で口頭で伝えていたつもりだ。ただ本人に聞き直すと、頭に残っていたのは「止める」の一語だけで、その先の初動対応の優先順位はきれいに抜け落ちていた。伝えた内容と、伝わった内容の間には、思っていた以上の隙間があった。
間違えた設問を並べてみる
面白かったのは、間違えた設問を一覧にして並べたときだった。バラバラに見えていた不正解が、実は「初動で何を最優先するか」という一本の軸でつながっていた。OJTのチェックリストでは工程ごとにバラバラに教えていたため、この軸のつながりに教える側も気づいていなかった。付箋に間違えた設問の要点を書き出し、ホワイトボードに並べてみると、4枚のうち3枚が縦一列に並んだ。是正報告のなぜを5回掘るのと同じで、間違いを並べて初めて見えてくる構造があるのだと思った。

もう一人でも試してみた
翌月、別の新人にも同じことをしてみた。今度は「A. 定例・マネジメント」で10問中9問正解、「B. 異常対応」でも10問中8問正解と、最初の新人よりずっと点数が良かった。ただし喜んだのも束の間で、この新人は現場での実技評価では逆に苦戦していた。ペーパー上の理解と、実際に手が動くかどうかは別物だと、当たり前のことをあらためて思い知らされた。
この二人目のケースでは、クイズの結果からは特に有効な手掛かりが得られなかった。点数が高いことは分かっても、なぜ実技でつまずくのかは選択式のクイズでは見えてこない。実技の指導担当に聞くと、手順は頭に入っているのに、実際の異音や見た目のわずかな違いを判断する場面で迷いが出るという。これは知識の問題ではなく経験の問題で、クイズが測れる範囲の外にある。道具を当てはめれば何でも解決するわけではないという、都合の悪い事実も一緒に書いておく。

現場で聞いてみると
他の先輩にも聞いてみると、似た経験があった。ベテランの検査員は「新人に一問一答で聞いても、覚えている風に答えられてしまう」と言っていた。選択式のクイズなら、うろ覚えでも正解できてしまう可能性はある。実際、今回の7問正解のうち1問は、後から聞くと勘で選んだだけだったと本人が白状した。クイズの点数を鵜呑みにするのは危ういという指摘は、そのとおりだと思う。別の先輩からは「うちの若い頃はクイズなんて無かった、現場で覚えるものだ」という声も出た。否定はしないが、覚える速さも人によって違う今の時代に、その言い方だけで押し通すのも難しいと感じている。

教育計画に組み込んでみた
それでも、教えた側と教わった側の理解のずれは目に見える形になった。道具として使う価値はあると判断し、新任者の30日目にクイズを解かせる工程を教育計画へ正式に追加した。品証グループの月次ミーティングでこの案を出すと、「わざわざ社外のサイトを使わなくても」という声も出た。社内で同じ物を一から作る手間を考えると、まず既にある物で試すほうが早い。そう言って押し切った。
今のところ対象は2人だけだが、2人とも初動対応のカテゴリで似た傾向の不正解が出ている。まだサンプルが少なすぎて、これがうちの教え方の癖なのか、たまたまなのかは判断できていない。
点数を評価に使わない約束
導入にあたって決めたのは、クイズの点数を人事評価や独り立ち判定の合否に使わないという一点だった。点数が評価に響くと分かった瞬間、答えを覚えるための勉強に変わってしまい、本来の目的である理解の確認が骨抜きになる。あくまで教え方の抜けを見つける道具として使う、という位置づけにしている。この約束は口頭だけでなく、教育計画の書式にも「評価対象外」と明記した。書いておかないと、忙しい時期には誰かが忘れてしまいそうだったからだ。
やり方も少し変えた
最初の実施では就業後にやらせてしまったが、疲れている時間帯だと集中力が落ち、結果が実力より低く出る恐れがあると気づいた。二人目からは始業直後の15分に変更した。時間帯を変えただけで結果がどこまで変わるものかは、まだこの二例だけでは判断できていない。就業後と始業直後、条件をそろえて比べたわけでもないので、今の段階では感覚的な判断に近い。次の新人が入ったら、同じ時間帯で三例目を取ってから比べてみるつもりだ。
それでも埋まらない差
クイズで見つかった抜けをOJTで埋め直しても、次の新人でまた別の抜けが出てくる。同じ手順書、同じ内容を同じ先輩が教えても、聞き手が変わればつまずく場所も変わる。クイズは「どこでつまずいているか」を教えてくれるが、「なぜそこでつまずいたか」までは教えてくれない。そこから先は結局、面談で本人に直接聞くしかなく、この二段構えを面倒に感じる先輩もいる。実際、二人目の指導担当からは「クイズの結果を見た後、また面談で同じことを聞き直すのは二度手間だ」という声も出た。正直、私もまだ、毎回このやり方を続けられる自信は無い。
教える側の力量にどこまで頼るべきか、道具にどこまで任せてよいか、現場でも意見は割れたままだ。ベテランの検査員は今も懐疑的だし、正直なところ自分も半分は同意している。それでも、面談だけでは見えなかった「初動の優先順位」というつまずきの軸が一つ見つかったのは、今回の収穫だと思う。次の新人が入るのは秋の予定で、そこで三例目のデータが取れたら、就業後ではなく始業直後に解かせた場合の差も含めて、またこの続きを書きたい。教えたことが伝わったかどうかを何で確かめるのが正しいのかは、自分の中でもまだ決まっていない。
教育・力量管理の基準や手順そのものは、ものづくりポータルの「A5 教育・力量管理/新任受け入れ」にまとめているので、あわせて参照してほしい。
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免責:本記事で紹介した理解度クイズは、ものづくりポータルのハンドブック内容から出題される社内教育の副次利用であり、正式な資格認定や公的な力量評価の代替にはならない。事例中の人数・設問数は特定を避けるため一部を丸めて記載している。