『トヨタ生産方式』を読み返して、なぜ5回の甘さに気づいた話

月曜の朝礼が終わってすぐ、品証の後輩に呼び止められた。「先週の4M変更の是正、また差し戻されました」。手には赤ペンで印の付いた報告書が握られていた。同じ工程で三度目だった。原因欄には毎回違う言葉が並んでいるのに、読み返すと結局「作業者の確認不足」という同じ結論に着地していた。なぜ確認しなかったのか、その先を誰も聞いていなかった。

目次

何度目かの「なぜ」で止まった

経緯を追うと、テープ材の仕入れ先を変更した際、粘着力の仕様は確認していたが、貼り付け後の目視確認の手順は旧版のままだった。是正報告には「作業者が新旧の違いに気づかなかった」と書いてあり、一見それで説明が付いているように読めた。だが、なぜ気づかなかったのか、なぜ手順書が更新されていなかったのか、なぜ更新の担当が決まっていなかったのか。三段目あたりで筆が止まっていることに、後輩の報告書を読みながら気づいた。付箋を貼って、翌朝もう一度話そうと決めた。

読み返すほど同じ結論

過去半年分の4M変更の是正報告をさかのぼって読み直してみると、似た着地点が何件も見つかった。数えてみると全12件のうち9件が、なぜの二段目か三段目で「注意喚起した」「再教育した」という言葉に着地していた。なぜ注意が抜けたのかまで書かれているものはほとんどなかった。原因が浅いところで固定化されている、という感覚は前からあったが、数えてみて初めて実感が伴った。

本棚の奥から出した一冊

その晩、本棚の奥から『トヨタ生産方式』(大野耐一、ダイヤモンド社)を引っ張り出した。入社して間もない頃に買って、「なぜを5回」のくだりだけ覚えて満足していた一冊だった。十年近く経って読み返すと、当時読み飛ばしていた前後の文脈のほうが重く感じられた。大野耐一は、機械が止まった理由を一度の「なぜ」で片付けず、現象の奥にある仕組みの欠陥まで掘るよう繰り返し書いている。「作業者の不注意」で終わる説明は、そのほとんどが二段目か三段目で止まっているだけだ、という指摘は、そのまま私の是正報告に刺さった。

「なぜ」を5回たどった経路の図 ※筆者の運用記録(対象:4M変更の是正報告1件・本文の段を簡略化)
「なぜ」を5回たどった経路 ※筆者の運用記録(対象:4M変更の是正報告1件・本文の段を簡略化)

5回のなぜ、を数えてみる

翌朝、後輩と一緒に是正報告を最初からやり直した。ホワイトボードに段数を①から⑤まで書き、付箋を貼りながら一段ずつ確かめていった。気づかなかった理由は単純で、貼ってある手順書が旧版のままだった。その旧版が残っていたのは、仕入れ先変更の連絡が品証止まりになり、手順改訂の担当まで届いていなかったからだ。連絡が届かなかったのは、4M変更の連絡ルートに手順改訂を含めるという取り決めがそもそも無かったためだ。ここでようやく四段目に届いた。五段目まで詰めると、その取り決めが無かった理由は、去年の組織変更で手順書管理の担当が変わった際、旧担当者の引き継ぎ資料に4M変更との連携が書かれていなかったことに行き着いた。

引き継ぎ資料の空白

引き継ぎ資料を実際に見せてもらうと、たしかに空白だった。書かれていないことは、誰かに悪気があって外したわけではなく、単に誰も気づかなかっただけだった。後輩は「これ、誰の責任なんですかね」とつぶやいたが、責任の所在探しよりも、空白を埋める作業のほうが先だと二人で決めた。

現場に戻ってやり直した

原因が引き継ぎ資料の空白まで届いたことで、対策は「作業者への再教育」から「4M変更連絡票のフォーマットに手順改訂の要否チェック欄を追加する」に変わった。効くのはどちらか、比べるまでもなかった。フォーマット変更後の三か月、同種の見逃しは今のところゼロだ。ただし件数がもともと年に数件の工程なので、この数字だけで「直った」と言い切るのはまだ早いとも思っている。

対策が再教育から連絡票のチェック欄に変わったことを示す図 ※筆者の運用記録(対象:4M変更の是正1件・期間:変更後3か月)
対策が「再教育」から「チェック欄」に変わった ※筆者の運用記録(対象:4M変更の是正1件・期間:変更後3か月)

別の是正でも試してみた

同じ月のうちに、もう一件試す機会があった。検査記録の記入漏れが、決まって月末の最終便で発生していた。最初の是正案は「記入漏れの見落とし防止のためダブルチェックを追加する」で、これも一段目で止まっていた案だった。なぜ月末に集中するのか、と後輩に聞かれて初めて、自分たちも理由を数えていなかったことに気づいた。

現場に立って夜勤明けの検査員に聞くと、月末の最終便だけ出荷の都合で検査台数が普段の1.4倍に増えることが分かった。なぜ増えるのか、月末締めの出荷を優先する慣習があったから。なぜその慣習があるのか、営業側の月次売上の締め日と製造の出荷計画がずれたまま運用されてきたから。ここまで来ると、対策は検査員の注意力の話ではなく、月末に検査台数が偏らないよう出荷計画を平準化する話に変わった。

営業側との調整はまだ途中で、完全に平準化できたわけではない。ただ最終便の検査台数を1.4倍から1.15倍程度に抑える暫定運用は決まり、記入漏れは実施後の二か月で0件が続いている。件数がまだ少ないので、たまたまなのか効果なのか、正直まだ見極めきれていない。

月末に記入漏れが集中した理由を5段でたどった図 ※筆者の運用記録(対象:検査記録の記入漏れ・夜勤明けの検査員に聞き取り)
月末に記入漏れが集中した理由をたどる ※筆者の運用記録(対象:検査記録の記入漏れ・夜勤明けの検査員に聞き取り)
是正報告12件のうち止まっていた段数を示す棒グラフ ※筆者の運用記録(対象:4M変更の是正報告12件・期間:過去半年)
是正報告12件、止まっていた段数 ※筆者の運用記録(対象:4M変更の是正報告12件・期間:過去半年)

数字が動いた、が全部ではない

是正の差し戻し件数は下がった。だが、なぜを5回徹底してみて分かったのは、原因が一つに収束しない場合のほうがむしろ多いということだった。今回のケースも、引き継ぎ資料の空白だけが原因ではなく、連絡票のフォーマット自体が元々粗く、改訂要否を書く欄がどこにも無かったことも重なっていた。本には「なぜを5回」としか書かれていないが、実際にやってみると、五段目で止まらず枝分かれすることのほうが普通だった。全部を本の通りに再現できたわけではない。

読み方が変わった三箇所

読み返して印象が変わった箇所は他にも三つあった。ひとつは「自働化」の説明だ。異常が起きたら機械を止める仕組みそのものより、止めた後に人がどう動くかのほうに紙幅が割かれていた。もうひとつは「見える化」。単なる掲示板の話としては書いていない。数字を貼り出すことより、異常に気づいた人がすぐ動ける状態を作るのが目的だと繰り返す。三つ目はジャスト・イン・タイムの章だ。「必要な物を、必要な時に、必要なだけ」という標語だけが独り歩きしがちだが、本文はその手前の「工程の同期」に長く紙幅を割いていた。標語だけ覚えて読んだ気になっていた私に、少し恥ずかしくなった。付箋を貼った箇所を数えたら、初読のときの3枚から今回は21枚に増えていた。

読み返して印象が変わった三箇所と付箋の枚数を示す図 ※筆者の運用記録(対象:『トヨタ生産方式』の再読・付箋の枚数)
読み返して印象が変わった三箇所 ※筆者の運用記録(対象:『トヨタ生産方式』の再読・付箋の枚数)

止まらなかった機械の話

逆にうまくいかなかった話も書いておく。別の工程で自働化の考え方を真似て「異常があれば止める」設備改造を提案したところ、見積りが80万円を超えたところでコストの都合により見送りになった。止める仕組みだけを移植しても動かない。現場の判断基準や体制まで一緒に変えないと機能しなかった。本には書かれていない手前の壁だ。予算が付く来年度にもう一度出すつもりでいるが、今もこの提案は保留のままで、次にどう持ち込むかは決めきれていない。

それでも迷うところ

なぜを5回に統一のやり方があるわけではないというのが、今のところの実感だ。工程によっては三回で本質に届くこともあれば、五回では足りず七回目でようやく組織の話にたどり着くこともある。回数を目的にすると、また新しい形骸化が始まる気もしていて、正直なところ、そこは今も正解が分からないまま手探りで続けている。二件とも「これで本当に最後の段まで届いたのか」という自問は、報告書を書き終えた後もしばらく残った。自分たちは何段目で止まりやすいのか、是正報告を読み返しながら今も数え直している。

後輩に貸してみた

是正が一段落した週末、最初に声をかけてきた後輩にこの本を貸した。「なぜを5回のところだけ読めばいいですか」と聞かれたので、まずは自働化と見える化の章から読むよう勧めた。二週間後に返ってきた本には、四段目・五段目のあたりに付箋が増えていた。感想を聞くと「なぜ2、3で止めていいと思っていた自分に気づいた」と言っていて、それは半年前の自分とほとんど同じ言葉だった。刺さり方は人によって違うだろうし、この本を読めば誰でも同じところで止まらなくなるとまでは言い切れない。ただ、少なくとも自分たちのチームでは、報告書の「なぜ」の段数を意識して数える癖が付いたのは確かだ。会議の場でも「それ、何段目ですか」と誰かが聞くようになった。

4M変更の連絡ルート整備そのものの基準・手順を確認したい方は、ものづくりポータルの「C1 4M変更管理」も参考にしてほしい。

参考書籍

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トヨタ生産方式 脱規模の経営をめざして [ 大野 耐一 ](大野耐一、ダイヤモンド社)

次回は別の一冊で、是正処置の報告書の書き方に迷ったときに読み返している本を取り上げる予定だ。

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免責:『トヨタ生産方式』(大野耐一、ダイヤモンド社)は個人として読んで現場に持ち込んだ内容であり、本記事は会社としての見解や推奨を示すものではない。事例中の工程名・数値は特定を避けるため一部を置き換えている。引用や解釈に誤りがあれば原著を確認してほしい。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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