AI外観検査を入れたら「見逃し」は減ったのに、今度は「鳴りすぎる」で困った話

外観検査にAIを入れる、と決めたとき、頭にあったのは「見逃しをどう減らすか」だけでした。人の目だけでは長時間の検査でどうしても集中力が落ちるし、機械での画像判定を組み合わせれば、もっと安定するはずだ――そう思っていました。

実際、見逃しは減りました。ただ、代わりに別の悩みが出てきました。「アラートが鳴りすぎる」問題です。今回はその顛末を、恥ずかしい失敗も込みで書いておきます。

目次

導入直後に起きたこと

AI検査機を稼働させて最初の数日、ラインの停止回数がむしろ増えました。原因を確認しに行くと、多くは実害のない「グレー」判定でした。生地のわずかな濃淡ムラ、照明の反射、糸くずのような微小な浮遊物――人が見れば「これは問題ない」と一瞬で判断できるものを、AIは律儀に止めてしまいます。

最初は「精度が上がれば自然に収まるだろう」と楽観していました。ところが1週間、2週間と経っても、誤って止まる頻度はあまり下がりません。むしろ現場からは「またか」という空気が漂い始めました。

「オオカミ少年」化のほうが怖かった

数字の話より先に書いておきたいのはここです。誤検出が積み重なると、検査員がアラートを軽く扱うようになります。最初のうちは律儀に一つひとつ確認していた担当者も、鳴りすぎるアラートに慣れてくると、「どうせまた誤反応だろう」と確認が雑になっていきました。

これは想定していなかった副作用でした。

見逃しを減らすために入れた仕組みが、運用の仕方を間違えると逆に「本当に危ないアラート」を埋もれさせるリスクになる。精度の数字を追うより先に、この空気の変化に気づけたのは、現場に張り付いていたからだと思います。

闇雲に閾値をいじって、一度失敗した

焦った私が最初に手をつけたのは、検出の閾値を緩める調整です。誤検出の件数は目に見えて減り、ラインの停止も落ち着きました。「よし、これでいい」と思ったのも束の間、その週の後半に、本来なら止めるべき不良を一件見逃してしまいました。

閾値を緩めるというのは、見逃しと誤検出のバランスを、誤検出側に寄せているだけなんですよね。当たり前のことなのに、目の前の「鳴りすぎ」を止めたい一心で、そのトレードオフを軽視していました。ここは素直に反省点です。

効いたのは学習データの底上げ

閾値を元に戻したあとは、もう少し地道なやり方に切り替えました。誤って止まった画像を毎日ためておき、週に一度まとめて「これは良品」としてAIに再学習させる作業です。特に効果があったのは、季節や時間帯で変わる照明のクセ、ロットによって出やすい特定の模様パターンを、良品側のデータとして厚くしたことでした。

地味な作業でしたが、1〜2か月かけて続けるうちに、誤検出の頻度は体感で半分以下まで落ち着きました。ここは自分たちの工程での実感値であり、一般的な数字として保証できるものではないので、その点は割り引いて読んでいただければと思います。

「なんとなく減った気がする」を信じない

もうひとつ、途中で自分に課したルールがあります。「誤検出は減った気がする」という感覚を、そのまま信じないことです。

現場感覚は大事ですが、誤検出のように毎日じわじわ変化するものは、感覚だけで判断すると簡単に見誤ります。そこで、1日あたりの停止回数と、そのうち実際に不良だった件数を、簡単な記録用紙に手書きで残すようにしました。大げさな管理表ではなく、検査員が数字を書き込むだけの簡単なものです。

週単位で並べてみると、「良くなった」と思っていた週が実はほとんど変わっていなかったり、逆に「まだまだ」と感じていた時期に着実に改善していたりと、体感とのズレが何度もありました。地味な記録ですが、これがあったおかげで、闇雲な閾値いじりに逆戻りせずに済んだと思っています。

閾値をきびしくすると見逃しは減り誤検出は増える、というシーソーの関係を示した概念図
閾値をどちらに振っても、必ずもう一方が増える。数字の正解ではなく「どこで折り合うか」の問題だった ※概念図(実測データではありません)

AIが疑い、人が確認する形へ

もうひとつ効いたのが、判定の使い方そのものを変えたことです。当初はAIが「不良」と判定したら即ラインを止める設計でしたが、途中から、微妙な判定は「保留」として画面に表示し、検査員が数秒で目視確認してから止める・流すを決める運用に変えました。

即断即決を手放すのは、最初は「AIを入れた意味が薄れるのでは」と抵抗がありました。ただ実際にやってみると、検査員の負担は思ったほど増えず、むしろ「誤検出でいちいちラインが止まる」ストレスが減ったことで、本当に危ないアラートへの反応が早く丁寧になりました。全部を自動化しようとせず、人が最後に一枚かむ設計にしたのが、結果的にはよかったと感じています。

AIが判定して即ライン停止する運用から、AIが疑いを出し検査員が数秒の目視で最終確認する運用に変えた流れ
「AIが止める」から「AIが疑い、人が最終確認する」へ。実際に変えた運用の流れ ※筆者の運用記録(対象:AI外観検査の判定運用)

いまも「ちょうどいい線」を探している

正直に言うと、誤検出はゼロにはなっていません。季節が変わって照明の入り方が変化したり、新しいロットで見慣れない模様が出てきたりすると、また誤検出が増える時期があります。そのたびに、学習データを見直し、必要なら運用のルールも微調整する。終わりのない調整だと思って付き合っています。

これから同じような検査の自動化に取り組む方に伝えたいのは、「導入して終わり」ではなく、「鳴りすぎたときにどう向き合うか」まで含めて設計しておいたほうがいいということです。特に、誤検出への対応が遅れると現場の信頼を失い、せっかくの仕組みが形骸化してしまう。数字の精度以上に、現場がアラートをどう受け止めているかを、私は定期的に見に行くようにしています。

検査の自動化やAI外観検査の導入手順そのものについては、ものづくりハンドブックの「検査の自動化・AI外観検査導入の進め方」にまとめがあるので、体系的に知りたい方はそちらもあわせてご覧ください。

参考書籍

AIに任せる範囲と人が見る範囲の線引きを考えるときに参考にした一冊です。【PR】AI vs.教科書が読めない子どもたち [ 新井 紀子 ]

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免責:本記事は特定の一現場での体験に基づく個人的な記録であり、記載した数値・傾向は一般値や保証値ではありません。導入効果や誤検出率は設備・素材・照明条件・運用ルールによって大きく変わります。実際の導入検討にあたっては、装置メーカーや専門家に個別にご相談ください。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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