- 期間
- 2026年4月6日〜5月15日(デモ機を3週間ずつ。きっかけは3月10日、購入後の様子は8月28日まで)
- 対象
- 材料置き場の現品票(1日30枚前後・手書き)を、据置型とハンディ型のラベルプリンタで打ち替えて比べた
- 体制
- 品質保証の管理職である私と、受入検査の検査員1人、製造の材料係1人。デモ機は販売店から2台借りた
- 結論
- 朝の受入分は据置型、突発の分割ロットはハンディ型と役割が分かれた。据置型1台では手書きが週4枚ほど残り、2台にして初めて手書きが0になった。
受入検査の記録用紙に、検査員がロット番号を書き写そうとして手を止めた。3月10日の火曜、朝の受入が終わったあとだった。材料の袋に付いた現品票のロット番号は「260217」のはずなのに、納品書には「260211」とある。どちらかが間違っている。現品票をめくって光にかざすと、手書きの「7」の横棒が薄くて、「1」に見えた。書いたのは材料係で、油性ペンのかすれだった。
検査員が納品書と突き合わせたから、別のロットの記録に数字が載ることはなかった。ただ、私はその現品票を机に置いたまま、しばらく次の仕事に移れずにいた。過去3か月の受入検査記録を戻ってめくると、ロット番号の書き直しが4件あった。4件とも「読めなかったので聞き直した」という但し書き付きだ。読めた気になって書き写した分は、当然ながら記録に残らない。
手書きの現品票をやめよう、と決めたのはその日の昼だった。昼休みの食堂で、検査員に「あれ、読めましたか」と聞くと、「読めた気がしたので怖いです」と返ってきた。読めた気がする、が一番危ない。
2機種を借りるまで
材料置き場には棚が24本あり、受入のたびに現品票を付ける。品番と数量、ロット番号、受入日、それに受入検査の合否欄。材料係が油性ペンで書き、検査員が合否欄に印を押す。1日30枚前後で、内訳は朝の受入で20枚ほど、残りの10枚ほどが分割や移し替えで日中に発生する分だ。
ラベルプリンタを買うのは簡単に思えた。購買に相談すると、機種が2つ返ってきた。パソコンにつないで印刷する据置型と、本体にキーボードが付いていてその場で打てるハンディ型。どちらも販売店がデモ機を貸してくれるという。私は2台とも借りることにした。カタログで決めると、置き場で使ってから「思っていたのと違う」が出る。それは以前、共有スマホを現場に置いたときに学んでいた。販売店の担当者には、置き場の写真を送って、油の付いた金属容器と紙袋の両方に貼ることを先に伝えた。
条件は先に紙に書いて、検査員と材料係に渡した。同じ材料置き場で、同じ2人が使う。期間は3週間ずつで、据置型が4月6日から24日まで、ハンディ型が4月27日から5月15日まで。測るのは4つ。1枚を発行するのにかかる時間、貼ったラベルがはがれた枚数、ロット番号の読み違いと打ち間違い、それと「結局手書きに戻した現品票の枚数」だ。
発行時間は週に2回、月曜と木曜の朝に私がストップウォッチで10枚ずつ測る。はがれは金曜の夕方に材料係が棚を1周して数える。読み違いと打ち間違いは、検査員が納品書と突き合わせたときに見つけた件数。手書きに戻した枚数は、現品票の束から油性ペンの分を抜き出して数えればいい。
この4つ目が、あとから一番効いてくる。

据置型の3週間
据置型は検査室のパソコンにつないだ。ラベル幅は50ミリの感熱紙で、画面で品番を選び、ロット番号と数量を打ち込んで印刷する。1枚あたりは平均21秒だった。10枚まとめて打つと、選ぶ手間が減って1枚18秒まで縮む。
問題は場所だ。パソコンは検査室の窓際にあり、材料置き場までは廊下を挟んで40メートルほど離れている。朝いちばんはパソコンの起動を待つ時間もあって、材料係は納品書を持ったまま画面の前で立っていた。朝の受入分は納品書を持って検査室で20枚まとめて打ち、束にして置き場へ持って行く。これで往復を含めて9分ほどだった。手書きで20枚書いていたころは、材料係が袋の前でしゃがんで1枚1分弱かけていたから、朝の分だけなら半分以下になった。
日中の分割ロットは別だった。袋を2つに分けるとき、現品票が1枚要る。そのために置き場から検査室まで歩いて、パソコンを起こして、1枚打って戻る。測ると往復込みで1分50秒。材料係は3日目から、その1枚を油性ペンで書くようになった。責める気にはなれなかった。私が同じ立場でも書く。
3週間で手書きに戻った現品票は14枚あり、うち11枚が日中の1〜2枚の分割分だった。
はがれは別の話として出てきた。1週目の金曜に材料係が棚を回ると、はがれかけたラベルが4枚あった。4枚とも金属容器に貼った分で、容器の表面に薄く油が残っていた。2週目からは貼る前にウエスで一拭きするルールを足し、2週目は2枚、3週目は1枚。3週間の合計は7枚だった。読み違いと打ち間違いは0件。印字された数字は、かすれようがない。
据置型を返す前日、材料係が「朝は楽になりました。昼は前と同じです」と言った。その言葉を、そのままハンディ型の3週間に持ち込んだ。

ハンディ型の3週間
ハンディ型は本体に小さなキーボードと画面が付いていて、ラミネートされた18ミリ幅のテープに印字する。電源は単3電池6本。材料係のポケットに入る大きさで、置き場の棚の端にフックで掛けておいた。初日、材料係はそれを手に取って軽さに驚き、そのまま作業着の胸ポケットに入れて歩き出した。
フックは飾りになった。
この3週間は連休を挟んだので、稼働日は11日だった。据置型より4日少ない。件数を比べるときは、この差を頭に置いておく必要がある。
1枚の発行時間は平均46秒だった。品番8桁とロット番号6桁を小さなキーで打つ。据置型のようにパソコンの画面で品番を選べないので、毎回打ち込むことになる。朝の受入20枚を打つと15分を超えた。据置型の9分と比べると、朝の分は明らかに遅い。材料係は2週目から、朝の分を打ちながら「これ、前のやつでよくないですか」と言うようになった。
日中の分割分は、逆の結果になった。袋の前で立ったまま50秒で1枚出る。歩かない。手書きに戻った現品票は3週間で3枚だけで、3枚とも電池が切れた日の午後に集中していた。単3電池6本で1週間半ほどしかもたず、期間中に2回交換している。
はがれは0枚だった。ラミネートテープは金属容器の油にも紙袋の毛羽にも負けなかった。ただし、打ち間違いが2件出た。ロット番号の下2桁が入れ替わっていたのと、品番の1桁が抜けていたのと。どちらも検査員が納品書と突き合わせて見つけている。手書きのかすれとは違う種類の間違いが、キーボードには潜んでいた。

予想と違った点
借りる前の私の予想は、ハンディ型1台で全部まかなえる、だった。歩かなくて済むのだから当然だと思っていた。据置型は保険のつもりで借りている。外れたのは朝の分で、20枚をキーで打ち込むだけで15分を超えた。据置型は同じ20枚を、置き場までの往復を入れて9分ほどで終える。逆に据置型は、置き場から離れているというだけで、日中の1枚のために手書きが復活した。
はがれの差も予想の外だった。据置型の感熱ラベルは、油を拭けば大半は付くと分かったが、それでも3週間で7枚がはがれかけた。ハンディ型のラミネートは0枚。棚の現品票は3か月から半年は付いたままにするので、はがれは読み違いと同じくらい怖い。はがれた現品票の袋は、どのロットか分からなくなった袋だ。
費用は販売店の見積もりで比べた。据置型は本体が4万円台、感熱ラベルは1枚あたり3円ほど。ハンディ型は本体が2万円台で、テープは1本1,200円前後で60枚ほど打てるので、1枚20円ほどになる。月に600枚打つとして、ラベル代は据置型が月1,800円、ハンディ型が月12,000円。本体の安さは、テープ代で2か月ほどで逆転する。
打ち間違いは、正直なところ数えるまで頭になかった。手書きの読み違いを消したくて始めたのに、キーボードで別の間違いを2件作った。手書きの読み違いは3か月で4件、打ち間違いは3週間で2件。数え方の期間が違うので、どちらが多いとは言えない。印字された数字は読み違えようがないぶん、打ち間違いに気づく手がかりも消える。納品書との突き合わせをやめるわけにはいかない、というのが3週間の一番大きな学びだった。
費用の計算の方は、6月に自分で確かめ直すことになる。

買ったのは1台、あとから1台
5月の第3週に、私は据置型1台の購入を上位者に出した。朝の受入20枚は据置型で打ち、日中の分割分は油性ペンで書く。手書きが残るのは分かっていたが、ハンディ型のテープ代を毎月1万円以上払う根拠を、その時点では出せなかった。「2台とも」は却下されると読んで、最初から1台にした。
据置型は6月8日に届いた。そこから7月末までの8週間近く、私は手書きに戻った現品票を毎週数え続けた。合計35枚。週に4枚から5枚のペースで、デモ機のときの14枚を3週間で割った値とほぼ同じだった。読み違いのヒヤリは7月14日に1件出ている。分割ロットの手書き現品票で、今度は「3」と「8」だった。検査員が納品書で拾った。
この1件を添えて、8月の第1週にハンディ型の購入を出し直した。テープ代は月12,000円ではなく、日中の分割分だけなら月200枚で4,000円ほどになると数字を直した。据置型が朝の分を受け持つ前提があって、初めてこの数字が出る。1台目を使ってから2台目を頼む順番は、結果として正しかった。
ハンディ型は8月17日に届き、28日までの2週間で手書きに戻った現品票は0枚だった。はがれは据置型の分で2枚、ハンディ型の分で0枚。打ち間違いは1件あり、検査員が納品書で見つけている。

2台になってからの置き場
いまの材料置き場では、朝の受入分は検査室の据置型で20枚まとめて打ち、日中の分割分は棚の端に掛けたハンディ型で打つ。材料係のポケットには油性ペンが今も入っているが、8月の後半、それで現品票を書いた日はない。
検査員の納品書との突き合わせは残した。これは減らさない。印字にしてから読み違いは0件になったが、打ち間違いは据置型で0件、ハンディ型で通算3件出ている。現品票の数字が正しいかどうかを最後に決めるのは、機械ではなく突き合わせだと、この半年で腹に落ちた。
費用については、正直に言えばまだ迷いがある。ハンディ型のテープ代は月4,000円ほどの見込みで動いているが、分割ロットの数は月によって倍近く動く。半年後に集計してみて、見込みと違えば据置型の予備ラベルを置き場に置く運用も考える。据置型1台で足りると言えなかった以上、2台目の費用もどこかで見直しの対象になる。
3月10日に机に置いた、「7」が「1」に見える現品票は、いまも私の引き出しにある。捨てる理由がないので置いてある。ラベルプリンタの稟議を書いたときも、この1枚を添付した。数字の説明より、かすれた横棒の方が伝わった。

紙からラベルに替えても、識別のルール自体は何も変えていない。付与ルールと記録の残し方は、ものづくりハンドブックのT13 トレーサビリティ設計(ロット管理・識別の作り込み)の側に書いてある。今回の記事は、その下で道具だけを替えた記録にあたる。
参考書籍(PR)
起きなかった事故をどう数えるか、という話で本棚から畑村洋太郎『失敗学のすすめ』を出した。3月の「7」と「1」は事故にならなかったが、記録に残らない読み違いが何件あったかは誰にも分からない。残らないものを数えに行く姿勢は、この本から借りている。
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免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。ラベルプリンタの機種・価格・消耗品の費用は販売店の見積もりと自社の使い方に基づく概算で、時期や条件により異なります。導入の判断は各社の運用に合わせてご判断ください。