- 期間
- 2026年1月19日〜8月31日(通知書が届いてから、代替グレードの受入5ロットで項目を絞り、その後9ロットを流すまで)
- 対象
- 成形品1品番に使う樹脂材料の、現行材から代替グレード(メーカーの言う同等品)への切り替え。受入検査と初物確認に何を足すか
- 体制
- 品質保証の管理職である私と、受入検査の検査員1人、成形の現場リーダー1人、生産技術の担当者1人。購買が材料メーカーとの窓口
- 結論
- 最初の5ロットだけ5項目を足し、6月からは成形品の重量10個と乾燥時間の記録の2つに絞った。以後9ロットで客先の指摘は0件。
A4の通知書が1枚、購買から回ってきた。材料メーカーのロゴの下に「グレード変更のご案内」とあり、本文の3行目に「同等品」の3文字が太字で入っている。いま使っている材料は6月末で生産を終え、代わりのグレードを案内する、という内容だった。添付は規格表の比較が1枚。日付は1月19日で、私の机に届いたのはその翌日だった。
同等品、という言葉を私は信じていない。信じていないというより、何をもって同等と言っているのかを、通知書は書いていない。規格表の比較を見ると、密度も灰分も同じ値で、色の欄は「同等」とだけある。違っていたのは1行、流動性の指標の規格幅だった。中心値は同じで、幅が上下に1ずつ広がっている。
その1行を指で押さえたまま、検査員を呼んだ。
足せる項目を全部並べた
いまの受入検査は3項目しかない。材料メーカーの試験成績書の数値を規格表と照合すること、ペレットの色と異物を限度見本で見ること、数量。成形した後の初物確認で、寸法3か所と外観を見る。長く問題が出ていなかったので、これで回ってきた。
検査員と2人で、足せる項目を紙に全部書き出した。乾燥後の含水率、成形品の重量、寸法を3か所から5か所へ、色差計での色の測定、流動性の外注試験、引張の外注試験。6つ。外注の2つはそれぞれ1回あたり1万5千円ほどで、納期が7日かかると購買が調べてくれた。2つとも毎ロット出せば、月3ロットとして年間で108万円になる。受入のたびに7日待つのも現実的ではない。
全部足せば安心できる、と検査員は言った。私も半分はそう思っている。ただ、足した項目は減らしにくい。一度「測っている」と客先に言ってしまえば、やめるときに理由が要る。足す前に、どこまで足すかを決めないといけなかった。
在庫の現行材は2か月半ほどあった。切り替えは4月の頭になる。決めるまでに使える時間は、2か月ある。

4つの基準を順番に並べた
1月23日の金曜、生産技術の担当者と成形の現場リーダーに来てもらって、基準を先に決めた。項目を決める前に基準を決める。順番を逆にすると、思いついた項目に後から理由を付けることになる。
一番上に置いたのは、客先が困る特性に効くこと。この品番で客先が見ているのは寸法と外観と、落としたときに割れないことだ。2番目は、切り替えで変わり得るもの。規格表で幅が広がった流動性と、それに引きずられる重量と寸法、それに材料メーカーが「乾燥条件は現行と同じでよい」と回答した含水率がここに入る。3番目は、社内でその日のうちに測れること。4番目が費用で、ロットごとに続けられる金額でなければ続かない。
この順番には、あとで自分でも迷った箇所がある。費用を4番目にしたのは、上位者に説明するときに「金額で決めた」と思われたくなかったからで、正直なところ半分は見栄だった。ただ、順番を決めたおかげで、外注試験を毎ロット出す案は3番目で落ち、費用の話をする前に消えた。
選択肢は3つに整理した。今までどおり何も足さない。6項目を全部足す。最初の5ロットだけ集中的に足して、そのばらつきを見てから絞る。
紙の上で3つの案に4つの基準を当てていくと、3つ目が残った。検査員がその紙を見て、「5ロットで足りますか」と聞いた。分からない、と私は答えた。足りなければ10ロットにする。
会議室の窓の外は、まだ1月の雪が残っていた。

5ロットに絞って足した
足したのは5項目。成形品の重量を1ロットあたり10個、寸法は3か所から5か所へ、色差計で限度見本との差、乾燥機出口での含水率、それと流動性の外注試験を1ロット目と5ロット目の2回だけ。引張の外注試験は落とした。客先が見ている「割れない」は、初物の落下確認で代える。
色差計と水分計は自社にない。生産技術が持っている分を、5ロットのあいだだけ借りた。借用書の返却予定日の欄に、5ロット目の受入予定日を書いた。日付を書いておくと、絞ると決めた自分に期限がつく。
客先2社には、材料メーカーは変わらずグレードが変わる旨を2月に文書で連絡した。1社からは初物のサンプル提出を求められ、もう1社からは「変更点の一覧を送ってほしい」とだけ返ってきた。
代替グレードの1ロット目は4月6日に届いた。検査員が試験成績書を規格表に照合し、成形の現場リーダーが初物を打ち、重量10個を電子天秤で量る。平均24.3グラム、10個の幅は0.9グラムだった。現行材の最後のロットで同じ10個を量ったときの幅は0.4グラム。規格には入っている。ただ、幅が倍以上に広がった。
寸法5か所はすべて規格内、色差は限度の1.5に対して0.7、含水率は乾燥後で現行材と同じ水準だった。流動性の外注試験は7日後に戻り、値は幅の中央よりやや上。この1ロット目の数字を、私は「基準の行」として紙の一番上に書き込み、その紙を検査員の机の壁に貼った。

3ロット目で色が動いた
2ロット目は4月17日で、重量の幅は0.8グラム、色差は0.6。3ロット目は5月8日の金曜だった。初物を見た現場リーダーが、限度見本と並べて首をかしげた。色差計で測ると1.4。限度は1.5で、規格には入っている。入っているが、前の2ロットの倍だ。
その場で成形を止めた。止めた判断は今も正しかったと思っているが、止めた瞬間の根拠は「倍」という感覚だけで、数字としては規格内だった。
含水率を測ると、乾燥後で現行材の倍近い値が出た。乾燥機の温度と時間は現行材と同じ。材料メーカーの「乾燥条件は同じでよい」を、私はそのまま受け取っていた。生産技術の担当者が、乾燥時間を2時間から3時間に延ばして再度打つと、色差は0.7に戻り、含水率も1ロット目の水準に戻った。
この日の午後、私は乾燥時間を3時間に固定すると決め、材料メーカーには「同じでよい」の根拠を購買経由で問い合わせた。返答は2週間後に来て、代替グレードは吸湿がやや早いため「保管状態によっては乾燥時間の延長を推奨する」という1行が添えられていた。通知書には書かれていなかった1行だ。
4ロット目は5月19日、5ロット目は5月29日。乾燥3時間で、色差は0.6と0.8、重量の幅は0.7と1.0グラム。5ロット目の流動性の外注試験は、1ロット目より少し低い値で戻ってきた。どちらも規格の幅の中で、どちらも現行材より散っている。

6月に落とした項目、残した項目
6月1日の月曜、5ロット分の紙を机に並べて、検査員と現場リーダーと3人で絞った。残したのは、成形品の重量10個と、乾燥機の温度と時間の記録の2つ。重量は5分で量れて、流動性の散らばりを一番早く映す。乾燥時間の記録は、3ロット目の色が乾燥の問題だったからで、含水率そのものは月1回、水分計を借りて確かめる形にした。
落としたのは、寸法の5か所(3か所に戻した)、色差計(限度見本に戻した)、流動性の外注試験(年2回に)。色差計を返すとき、現場リーダーが「あれがあると安心なんですけどね」と言った。私もそう思う。ただ、色差計で見ていたのは乾燥の失敗で、乾燥時間を記録するようにした今は、限度見本で足りると判断した。
6月から8月末までに代替グレードは9ロット届いた。重量の幅は0.6から1.0グラムのあいだで動き、客先2社からの指摘は0件。重量を量る5分は、検査員が朝の受入の最後に組み込んでいて、いまは誰も特別なこととは思っていない。乾燥3時間は、成形の朝の段取りを1時間早く始めることを意味していて、現場リーダーはそれを毎朝続けてくれている。
8月の終わり、生産技術の担当者が「乾燥機を1台足せば3時間の縛りは消える」と言いに来た。私はまだ返事をしていない。乾燥機の代わりに項目を足すのか、項目の代わりに乾燥機を足すのか。1月に決めた4つの基準では、この2つを比べられない。
通知書の「同等品」の3文字は、いまも規格表の比較と一緒にファイルに綴じてある。太字のまま。

材料の切り替えで特性が動いたときの切り分け方は、ものづくりハンドブックのTS29 原材料の切替・グレード変更に伴う品質変動に、材料由来か加工条件由来かを条件を固定して見分ける手順として置いてある。私が3ロット目で踏んだのは、そこに書いた「乾燥条件も疑う」の1行だった。
参考書籍(PR)
西内啓『統計学が最強の学問である』は、重量10個の幅を「規格内だから合格」で終わらせずに、散らばりそのものを見る目を思い出させてくれた。5ロットで絞ると決めたとき、10個でどこまで言えるかを考え直すのに読み返した。
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特採を出すかどうかで一番迷った日の話 — 外径が規格上限を0.03ミリ超えたロットを、当該ロット限りの特採で出荷し、刃物の交換周期を2000個から1500個へ前倒しした記録。規格内でも余裕のない値を月末に洗い出す習慣が、今回の重量の幅を見る目のもとになっている。
測定器の校正を外部委託から社内校正へ戻すと決めるまで — 汎用測定器30台前後を社内校正へ戻し、精度要求の高い一部だけ外部委託を続けると決めて、切り替え後2か月で校正待ちの遅れが0回だった記録。基準を先に決めてから案を当てる順番は、この時に覚えた。
免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。材料の規格値・乾燥条件・検査項目は品番や設備によって異なり、本文の数値は自社の1品番で量った値です。切り替え時の検査の設計は、材料メーカーの技術情報と各社の基準に合わせてご判断ください。