品質保証の予算を初めて数字で組んだ年、通った2件と半分になった1件

期間
2025年10月14日〜2026年8月28日(要求書の下書きを経理に見てもらった日から、予算会議を経て、通った項目の半期の結果を確かめるまで)
対象
品質保証部の来年度予算のうち、私が新しく積みたかった3件(外部試験費・内部監査員の研修費・検査台の照明更新)
体制
品質保証の管理職である私が1人で組み、経理の担当者が下書きの相手。決めるのは上司と予算会議
結論
外部試験費は満額、研修費は2人分から1人分に半減、照明更新は落として照度計の借用に替えた。前年の数字を写すのをやめた年に、削られた理由を自分で説明できるようになった。

経理の担当者が、私の出した予算要求書の1枚目に定規を当てて、前年の欄と来年度の欄を上から下まで指で追った。追い終わると顔を上げて、「去年と同じですね」と言った。責める口調ではない。事実を読み上げただけだ。2025年10月14日の火曜、締切まで1か月あるうちに下書きを見てもらおうと、私のほうから経理へ持って行った紙だった。

同じですね、に返す言葉がなかった。品質保証部の予算要求書を、私は3年続けて前年の数字を写して出していた。前任者から引き継いだ様式に、外部校正費、消耗品費、教育費、旅費が並び、それぞれ前年と同じ金額。増やしたいものがなかったわけではない。根拠を書けと言われたら書けないものばかりだったので、触らずにいた。

目次

積みたかった3件と、動かせない3つ

前の週の月曜、上司から管理職全員に、来年度の要求は前年比で出したものを受け付けない、1件ごとに根拠を付けること、という指示が出ていた。経理の担当者の定規は、その指示の先回りだった。

私が積みたかったのは3件ある。1件目は外部試験費。客先の1社が年に4回、材料の分析データの提出を求めてきていて、今年度はここまでの3回を消耗品費から流用して払っていた。1回1万5千円ほどで、来年度は4回分の6万円。2件目は内部監査員を育てる外部研修で、2人分の12万円。うちの内部監査員は3人いて、そのうち1人が来年3月に定年で会社を離れる。3件目は検査台の照明更新で、3台をLEDに替えて45万円ほど。検査室の手前の1台が暗いことは、検査員も私も目で分かっていた。

動かせない条件も3つあった。部の総額は前年比以内という上限。教育費だけは全部門一律で前年と同額まで、という経理の枷。提出の締切が11月17日の月曜。

3件の合計は63万円で、前年比以内という上限に、ほかを削らずに収まる金額ではなかった。

前年の要求書の1枚目を裏返すと、3年前に引き継いだときの鉛筆のメモが残っていた。「前年どおり」の5文字で、私の字だった。

新しく積みたかった3件の内容と金額、動かせない条件3つを並べた表
積みたかった3件と、動かせない3つ ※筆者の運用記録(対象:品質保証部の来年度予算要求3件・期間:2025年10月14日〜11月17日)

基準を4つ、順番をつけて書いた

3件を並べて眺めても決まらないので、決める前に基準を書くことにした。優先順位をつけて4つ。

1番目は、やらないと出荷か認証が止まるもの。客先の要求と、ISOの認証維持にかかわるものがここに入る。2番目は、今年度に実際に払った、または失った金額があるもの。流用して払った試験費は、金額が伝票に残っている。3番目は、やった効果を数字で言えるもの。4番目は、私がやりたいと思っているもの。

4番目を書くのは少し恥ずかしかった。ただ、書かないと4番目が1番目に化ける。照明の更新は、正直なところ私が一番やりたい1件で、それを一番下に置くために4番目の行が要った。

この順番には、書いたあとで自分でも引っかかった箇所がある。3番目の「数字で言える」を1番目より下に置いたのは、数字で言えなくても止まるものは止まるからだが、経理の担当者に見せたら「3番目が一番上でもいいのでは」と言われた。私は順番を変えなかった。変えなかった理由を、そのとき言葉にできていたかは怪しい。

基準4つを書いた紙は、要求書の下書きの上に重ねて、11月4日の火曜の夜に机に置いた。書き上がるまでに使った時間は、夜の2時間。

優先順位をつけた4つの判断基準と、書いた日、経理の担当者の指摘を並べた表
順番をつけた4つの基準 ※筆者の運用記録(対象:予算要求の判断基準・期間:2025年11月4日)

3件を基準に当てた

外部試験費は、1番目と2番目に当たった。客先の要求で、払った伝票が3枚ある。3番目の効果の数字は書きようがないが、これは効果を出す費用ではなく、止まらないための費用だ。ここは迷わなかった。

研修費は、1番目に当たる。内部監査は年に1回、監査員2人で回している。3人のうち1人が抜けて2人になると、被監査部門と同じ部の監査員を使えない回が出てくる。認証の維持にかかわる。2番目には当たらない。まだ何も失っていない。

照明は、どの基準にも当たらなかった。暗いのは分かっているが、暗いことで何を見逃したかを数字で持っていない。照度を測ったこともない。1番目でも2番目でもなく、3番目も「言えるはず」で止まっていて、4番目だけに当たる。

紙の上でここまで書いて、私は照明の行を消した。消したのは11月14日の金曜、締切の3日前だった。

線を引いたとき、検査室の手前の台で検査員が卓上ライトを手元に寄せている姿が浮かんだ。あのライトは検査員が自分の机から持ってきたもので、私はそれを見て見ないふりをしていた。照明の行を消すことは、そのふりを来年まで続けると決めることでもあった。

代わりに書いたのは、照度計の借用で1週間8千円。照明を替える前に、3台の検査台がいま何ルクスなのかを測る。測った数字があれば、来年度の要求書に3番目の基準で書ける。45万円を8千円に替えた行を見て、自分でも情けなくはあった。ただ、これで3件の合計は63万円から18万8千円になった。

外部試験費、研修費、照明更新の3件を4つの基準に当てた評価と、照明を照度計8千円に替えて合計が63万円から18万8千円になったこと
3件を4つの基準に当てた結果 ※筆者の運用記録(対象:予算要求3件の評価・期間:2025年11月4日〜11月14日)

予算会議で削られたのは研修だった

12月19日の金曜、予算会議の順番が回ってきた。1部門あたり15分の枠で、私の前は製造部だった。製造部の設備更新の話が長引いて、私の持ち時間は10分ほどに縮んでいた。出したのは3件。外部試験費6万円、研修費12万円、照度計8千円。

外部試験費は、伝票3枚の話をしたところで上司が「これは要求ではなく、去年払った分の正式化だな」と言って通った。照度計も、8千円の説明に2分もかからずに通っている。残り時間は7分あった。

削られたのは研修費だった。理由は基準ではなく、条件のほうだ。教育費は全部門一律で前年と同額までという枷に、2人分の12万円は収まらない。1人分の6万円なら、前年の教育費の中の使わなかった分と入れ替えて収まる。経理の担当者がその場で計算して、上司が「今年は1人、来年もう1人」と決めた。

私は反論しなかった。基準の1番目に当たる項目が半分になるのは悔しかったが、定年で抜けるのは来年3月で、監査は秋。1人を先に育てれば、来年の秋の監査は3人で回せる。数字は合っていた。会議室の時計は、私の枠の残りが3分だと示していた。

会議室を出て、経理の担当者と廊下で並んで歩きながら、「去年と同じですね、って言われなくてよかった」と私が言うと、担当者は「同じじゃなかったですね」と返した。

予算会議に出した3件の金額と、会議のあとに通った金額、削られた理由を左右に並べた前後比較
出した金額と、予算会議のあと ※筆者の運用記録(対象:予算会議に出した3件・期間:2025年12月19日)

4月から8月、通った2件と半分の1件

照度計は4月13日の月曜に届いて、その週に検査台3台を測った。奥の2台は1,150ルクスと980ルクス、手前の1台は430ルクス。検査基準書に照度の目安として書いてある値を、手前の1台だけ、半分近く下回っていた。暗いと目で分かっていたことが、数字になった。測った日、手前の台の検査員は照度計の表示を覗き込んで「やっぱり」とだけ言った。卓上ライトは、その日から台の備品として置いてある。この430という数字は、来年度の要求書の照明の行に、3番目の基準として書く。

外部試験は6月と8月に2回、正式な予算から払った。流用の伝票は今年度は0枚。経理へ伝票を回すたびに、10月の定規を思い出す。

研修は6月15日の月曜から2日間、品質保証の担当者が1人受けてきた。秋の内部監査は、この1人を含めた3人で組んである。もう1人分は来年度の要求書に載せる。定年で会社を離れた監査員の名前は、4月に名簿から消した。

8月28日の金曜に、11月に書いた基準4つの紙を引き出しから出して読み返した。基準の順番は、いまも変えなくてよかったと思っている。3番目を1番目に上げていたら、外部試験費が下がって、照明の行が残っていた。照明が残っていれば、430という数字を私はまだ持っていない。

4番目を一番下に置いたことで、照明は1年遅れる。検査員には申し訳ないと思っている。それでも、去年までの「前年と同じ」では、遅れる理由すら説明できなかった。削られた1件の理由を自分の言葉で言える。それが、初めて数字で組んだ年に手に入ったもので、いまのところ一番大きい。

照度計で測った3台の照度、外部試験2回、研修1人受講と秋の監査の編成を、4月から8月の順に並べた表
4月から8月の実際 ※筆者の運用記録(対象:通った2件と半分の1件の半期・期間:2026年4月13日〜8月28日)

10月に定規を当てられた紙は、ものづくりハンドブックのA13 品質保証の年間計画・予算要求の立て方を読まずに書いた紙でもあった。前年実績と重点リスクを根拠に整理する。未確定の項目は幅で示す。そのページに並んでいた順番を、私は10月から12月にかけて後ろから歩いた。

参考書籍(PR)

ハンス・ロスリング『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、照明の行を消したあとで思い出した1冊だ。世界の姿を思い込みではなくデータで見直す本で、私は検査台が暗いことを目で知っていながら、数字では何も持っていなかった。8千円の照度計は、その確かめ直しを自分の職場でやるための道具だった。

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展示会に「持ち帰る物」を決めてから行ってみた話 — 3つの回り方を3つの基準で比べ、持ち帰る物を1つに決めてから会場に入ったら、回ったブースは前年の3分の1でも報告が具体的になり、翌月の設備投資検討会の資料に引用された記録。基準を先に書いてから案を当てる順番は、この予算要求で私が踏んだ手順とそのまま重なる。

2週間かけて自分の仕事を棚卸しして、やめると決めた1つの業務 — 30分単位で2週間記録し、誰も見ていなかった月次の補足シートをやめて月3時間、年間36時間を戻した記録。「忙しい」を数字で言えるようになったという結論は、予算の「去年と同じ」を数字に直した話と地続きにある。

免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。予算の組み方や承認の基準は会社の規模と制度によって異なり、本文の金額は自社の1部門の要求を丸めた値です。予算要求にあたっては、各社の規程と承認者の求める形式に沿ってご判断ください。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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