ISOの審査前に、書類を揃えるのをやめてみた話

期間
2026年5月13日〜7月9日(品質会議で人が出せないと分かった日から、ISO 9001の維持審査2日目の講評まで。その後の運用は9月上旬までを書いた)
対象
認証機関による年1回の維持審査(審査員2人・2日間)に向けた事務局の準備。去年まで作っていた「審査用ファイル」6冊をやめ、記録の所在一覧1枚だけを作った
体制
品質保証の管理職である私が事務局。同じ部の後輩1人が補助。製造側は製造課長が窓口
結論
事務局の準備は延べ38時間から6時間半に減り、指摘は観察事項2件から1件に減った。ただし記録が日常で回っていること、所在一覧を月1回更新することが条件で、どの審査員にも通じるとは言い切れない

会議室の長机の端に、去年の審査用ファイルが6冊、背表紙をこちらに向けて積んである。黒い2穴のファイルで、背には「2025年 維持審査 1/6」から「6/6」まで、後輩の字でラベルが貼ってある。5月の中旬、そのファイルを棚から出してきたのは私で、今年もこれを作るつもりだった。中を開くと、付箋が45枚。審査員に見せる箇所に色分けして貼ったものだ。

その45枚のうち、去年の審査で実際に審査員がめくった付箋が何枚だったか、私は数えていなかった。

目次

去年のファイル6冊の行方

去年の準備を先に書いておく。審査の2週間前から、私と後輩の2人で「審査用ファイル」を作った。品質記録を日付順に並べ直し、目次を付け、抜けていた押印を担当者に回って集め、記録の説明資料を1枚ずつ足す。この作業に私が22時間、後輩が16時間。延べ38時間で、6冊になった。

審査当日、審査員が開いたファイルは6冊のうち2冊だった。付箋の箇所で言えば9か所。残りの4冊は机の端に積んだまま、2日間の審査が終わった。

この数字は、審査が終わった直後に後輩が数えていた。「開いたの、2冊でしたね」と言われて、私は「まあ、揃えてあることに意味があるから」と答えている。今年、その言葉を自分で疑うことになった。

38時間の中身も書いておく。いちばん時間を食ったのは並べ直しで、検査記録は現場の棚に月ごとの束で置いてあるのを、製品群ごとに組み替えて綴じ直した。次が押印の回収で、抜けていた印は全部で11か所、担当者の勤務が交代制なので1人につき2回は現場へ行った。説明資料は記録1種につきA4で1枚、書式の意味と記入者、保管期間を書いたもので、これが14枚。審査員は説明資料を読まなかった。私が横で見ていた限り、開いた2冊でも読んだのは記録そのもので、説明資料のページは指で送っていた。

去年の指摘は観察事項が2件。去年の準備に38時間、開かれたのは2冊で9か所、それでも観察事項は2件出た。

製造課長の一言と3つの案

5月13日の品質会議で、製造課長が言った。「7月頭は増産で、審査前の2週間、うちからは人を出せません」。去年は製造側から押印の回収や記録の説明資料づくりに延べ8時間ほど手を借りていて、それが今年は無い。

審査は7月8日と9日。事務局は私と後輩の2人。6月の後半には棚卸しが入る。制約はこの3つで、案は3つ浮かんだ。

1つ目は去年どおり作る案で、製造側の8時間ぶんを事務局の残業で埋めると、見込みは延べ46時間になる。2つ目は清書する記録を主要なものだけに絞る案で、見込みは半分の20時間前後。3つ目は審査用ファイルを作らず、日常の記録をそのまま出す案。ただし記録がどこにあるかを1枚にまとめた「所在一覧」だけは作る。見込みは5時間。

3つ目を口に出したとき、後輩は少し驚いた顔をした。私も、自分で言いながら少し驚いていた。

ISO維持審査の準備で浮かんだ3つの案と、審査日・事務局2人・棚卸しという3つの制約、各案の時間の見込みを並べた表
3つの案と、動かせなかった3つの制約 ※筆者の運用記録(対象:ISO 9001 維持審査の事務局準備・期間:2026年5月13日〜5月20日)

順番を付けた4つの基準

3つの案を並べただけでは決まらないので、基準を先に置いた。順番も付けた。

1番目は、指摘を増やさないこと。2番目は、審査のために記録を書き換えないこと。清書や並べ直しは、やり方によっては記録の改ざんと紙一重になる。去年の押印の回収は、抜けていた押印を後から押してもらったもので、日付をどう扱ったかを私は正確に覚えていない。3番目は事務局の時間。4番目は審査員を待たせないこと。

2番目を1番目より下に置いたのは、正直に言えば迷った。記録を触らないことを最優先にすべきだという考えも、書いているいまも消えていない。ただ、事務局の仕事として指摘を増やさない責任があるのも本当で、今回はこの順にした。

審査準備の3案を評価するために置いた4つの基準を優先順に並べ、2番目の順位で迷った点を添えた表
順番を付けた4つの基準 ※筆者の運用記録(対象:ISO 9001 維持審査の事務局準備・期間:2026年5月13日〜5月20日)

3案を並べて消えた2つ

1つ目の案は、1番目の基準で弱かった。去年38時間かけて観察事項が2件出ている以上、同じやり方で指摘が減る根拠がない。2番目の基準では、清書と押印の回収がそのまま残るので×に近い。3番目は46時間で×。4番目だけは○で、ファイルを渡せば審査員は待たない。

2つ目の案は、どの基準でも△が並んだ。半分に絞るとしても、何を絞るかを決める時間が要り、絞った側の記録が求められたときの手当ても要る。

3つ目の案は、1番目の基準が「分からない」だった。やったことがないので、指摘が増えるかどうかの根拠が無い。2番目と3番目は○で、4番目は△。記録を探す時間が審査員の待ち時間になる。

表にすると、3つ目の案が残る。残るのだが、「分からない」が1番目の基準に載っている案を選ぶのは、判断としては弱い。ここで1週間止まった。

止まっている間、後輩には2つ目の案の準備を頼んでいた。清書する記録を主要なものに絞るとしたら、どれを残すかの案を作ってもらう。3日後に出てきた案は、32種のうち19種を残すもので、後輩は「これでも20時間では終わらないと思います」と言った。半分に絞っても半分の時間にはならない。絞る作業そのものに時間がかかるからで、この見積もりが2つ目の案を消した。

去年どおり・半分に絞る・所在一覧1枚の3案を、指摘・記録の書き換え・事務局の時間・審査員の待ち時間の4基準で評価した表
3つの案を4つの基準に当てた結果 ※筆者の運用記録(対象:ISO 9001 維持審査の事務局準備・期間:2026年5月13日〜5月20日)

去年の報告書を読み返した夕方

5月20日の夕方、去年の審査報告書を引き出しから出して、観察事項2件の記述を読み直した。

1件目は、現場のホワイトボードに書かれた管理値が、基準書の値と違っていたこと。審査員が現場巡回でボードを見て、その場で作業者に聞いて出た指摘だった。2件目は、作業者に力量の評価方法を聞いたところ説明が食い違ったこと。これも現場での質問から出ている。

2件とも、審査用ファイルからは出ていない。ファイルは6冊のうち2冊しか開かれていないし、開かれた2冊からも指摘は出ていない。指摘は現場のボードと、作業者への質問から出た。

この読み直しで、1番目の基準の「分からない」が「ファイルは指摘を減らしていない」に変わった。減らしていないなら、作らなくても増える根拠は無い。3つ目の案に決めたのはこの夕方で、翌日の朝、後輩に伝えた。

「ファイル、作らないんですか」

後輩の最初の返事はこれで、次が「じゃあ何を渡すんですか」だった。渡すのは所在一覧1枚だと答えると、しばらく黙ってから「探すのは私ですよね」と言った。そのとおりで、当日の取り出しは後輩の仕事になる。この会話で、所在一覧に「保管の担当者」の列を足すことが決まった。

ただし、前任の事務局だった先輩の言葉が引っかかっていた。「見せ方で印象が変わる審査員もいる」。この言葉が正しい審査員に当たったら、今年の判断は裏目に出る。それは分かったうえで決めた。

所在一覧1枚に3時間半

作ったのはA3が1枚。品質マニュアルで定めている記録32種について、記録の名前、保管場所(棚の番号か共有フォルダのパス)、保管の担当者、直近の記録の日付を1行ずつ書いた。私が2時間、後輩が1時間半で、合わせて3時間半。

3時間半のうち1時間は、場所が分からない記録を探すのに使った。32種のうち3種は、私も後輩もその場で保管場所を言えなかった。設備の日常点検記録は現場の設備ごとにバインダーがあり、共有フォルダには無い。教育訓練の記録は総務の棚だった。外注先評価は品質保証の棚にあると思っていたら、当年分だけで、前年以前は別の棚に移してあった。去年はファイルに綴じ直していたから、元の場所を知らなくても済んでいた。所在一覧を作る作業は、記録が普段どこで生きているかを2人で歩いて確かめる作業でもあった。

押印の抜けは、事前に3枚あると分かっていたが、回収しなかった。抜けは抜けとして出すと決めた。決めたものの、審査の前夜に「やっぱり集めておくか」と一度思い、思いとどまるのに少し時間がかかった。3枚ぶんの担当者は夜勤で、今から行けば押してもらえる。行かなかったのは、2番目の基準を自分で置いたからで、それ以上の理由は無い。

審査の前日は、会議室の確保と記録棚の鍵、共有フォルダを開くPCの準備で2時間。ここまでで5時間半。

審査当日、27件の取り出し

2日間で審査員が求めた記録は27件。所在一覧を見て、後輩が棚かPCから出してくる。私はその場で取り出しにかかった時間をメモしていた。

1分以内が15件、1分から3分が8件、3分から10分が3件、10分を超えたのが1件。10分を超えた1件は2024年分の外注先評価で、当年分とは別の棚に移してあり、所在一覧には当年分の棚しか書いていなかった。一覧を作るときに前年以前の棚を自分の目で見ていたのに、欄が無いからと書かなかった私の抜けだ。探すのに11分かかり、主任審査員は待つ間に別の質問を作業者にしていた。

審査員の側の動きも書いておく。主任審査員は初日の朝に所在一覧のコピーを1枚受け取って、「これは助かります」と言い、2日間その紙を手元に置いていた。求める記録を口にするとき、一覧の行番号で言うことが午後から増えた。「12番の直近3か月ぶんを」という頼み方で、後輩が棚へ行く。もう1人の審査員は一覧をほとんど見ず、現場を歩いて作業者に聞くやり方で、去年の指摘もこの人から出ている。

押印の抜け3枚は、審査員が1枚を見つけた。「日付を入れて補記する運用があれば十分です」と口頭で言われ、指摘にはならなかった。

2日目の講評で出た指摘は、観察事項が1件。4月の配置転換で持ち場が変わった作業者の力量評価表が、まだ更新されていなかった。去年と同じで、現場での質問から出た指摘だった。不適合は0件。

取り出しに使った時間を足すと、2日間で延べ1時間。所在一覧3時間半、前日2時間、当日1時間で、事務局の準備は6時間半で済んだ。

審査2日間で審査員が求めた記録27件を取り出しにかかった時間で4区分に分け、11分かかった1件の内訳を添えた横棒グラフ
審査員が求めた記録27件の取り出し時間 ※筆者の運用記録(対象:ISO 9001 維持審査2日間の記録要求27件・期間:2026年7月8日〜7月9日)

2か月たって残った条件

審査から2か月が過ぎて、所在一覧は月1回更新する運用にしている。8月と9月で2回更新した。11分かかった2024年分の外注先評価は、8月に当年分と同じ棚へ移した。

この判断が効いた条件を、いまの時点で3つ書いておく。1つ目は、記録が日常で回っていること。日常の記録に抜けが多い状態で審査用ファイルをやめれば、抜けがそのまま指摘になる。2つ目は、所在一覧を止めないこと。1枚が古くなれば、27件の取り出しは去年のファイル探しより遅くなる。3つ目は審査員の側で、記録を「揃っているか」で見る審査員に当たったときにどうなるかは、今年の2人からは分からない。

去年の38時間が無駄だったとは思っていない。並べ直す途中で記録の抜けに気づいたことは何度もあった。ただ、それは審査のためにやることではなく、日常の記録の点検としてやることだったと、いまは思う。

「揃えてあることに意味がある」と去年言った私に返すなら、意味があったのは揃えることではなく、探せることだった。

去年の審査用ファイル6冊と今年の所在一覧1枚を、準備時間・作った物・審査員が開いた物・押印の回収・指摘件数で左右に並べた前後比較図
去年の審査用ファイルと今年の所在一覧 ※筆者の運用記録(対象:ISO 9001 維持審査の事務局準備・期間:2025年7月と2026年7月)

審査を受ける側の準備を、去年と今年でどう変えたかを、今回は時間と件数で残した。受審準備の段取りと当日の運営は、ものづくりハンドブック A10 顧客監査・第三者審査(ISO等)の受審準備と当日運営で整理している。

参考書籍(PR)

決まった作り方を一度疑ってみる進め方を、木村尚義『ずるい考え方』ではラテラルシンキングと呼んでいる。審査用ファイルをやめる判断が本の技法どおりだったわけではないが、「作る」を前提から外して考える癖は、この本を読んでから私の中に残った。

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秋の内部監査に備えて、猛暑の合間にやっておいた3つのこと — 7月頭に着手して品質文書89件の版数点検でズレ7件、前回指摘4件の是正状況の洗い出し、模擬監査を回し、準備時間が前年の22時間から14時間になった記録。外部審査ではなく内部監査の側で、文書を「揃える」のに使った時間の記録として読める。

顧客監査の指摘事項をどこまで横展開するか迷った話 — 恒温槽1台で見つかった記入漏れ3件の指摘を、条件の近い2台まで広げると決め、3か月後に対象・対象外とも再発がなかった記録。基準を先に置いてから選択肢を評価する進め方は、今回の3つの案の選び方と同じ手順だ。

免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。審査の進め方や求められる記録は、認証機関、審査員、各社の品質マネジメントシステムによって異なります。時間や件数は自社の1回の審査で数えた値であり、実際の準備は各社の状況に合わせてご判断ください。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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