非含有証明、様式だけ届いた日にやった遠回り

ある朝、営業から一通のメールが転送されてきた。件名は「顧客より提出依頼」、本文はほぼ一行、「添付の書式にご記入のうえ、今週中にお願いします」。開くと見慣れない英語の書式だった。Material Declaration、略してMD。何のためのものか、本文には一切説明がなかった。回答期限まで5営業日しかなく、正直、内容を読み込む前に手が動いた。

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とりあえず埋めようとした

締切が近かったこともあり、最初にやったのは正直よくない対応だった。手元にあった直近のSDS(安全データシート)を横に置いて、「対象物質はおそらく鉛・カドミウム・水銀・六価クロムのRoHS系だろう」と当たりをつけて、記入欄を埋め始めた。半分近く埋めたところで、念のため様式の対象物質欄をもう一度読み直した。並んでいたのはRoHSの4物質ではなく、聞き慣れない物質名が十数種類。船舶リサイクルに関連する規制のインベントリ作成用の様式だったらしい、と後から分かった。

もしあのまま提出していたら、確認不要な物質を3項目、逆に本来確認すべき物質を2項目、思い込みで見誤ったまま出すところだった。下書きに費やした40分がそのまま無駄になったわけではないが、様式の名前だけでは、どの規制に基づく依頼かは分からない。これが最初に痛感したことだった。

非含有証明の依頼が来たときの初動フロー概念図
依頼を受けてから記録に残すまでの初動の型 ※概念図(実測データではありません)

差し戻す勇気

次にやったのは、営業に一度差し戻すことだった。「様式が来ているのに、また聞き返すんですか」と言われるかもしれないと思いつつ、「この依頼がどの規制に基づくものか、顧客に確認してほしい」と頼んだ。締切まで残り3日での差し戻しは、社内の空気としては歓迎されるお願いではなかった。それでも、規制が分からないまま埋めて後から全部やり直す方が痛手は大きいと思い直した。

2日後、商社経由で回答が届いた。香港条約に基づくインベントリ作成のための材料宣誓書とのことで、対象物質のリストも別添で送られてきた。SDoC(供給者適合宣言)という言葉も様式に出てきたが、これは本来「供給者が適合を宣言する文書」全般を指す言葉で、含有物質専用の様式ではないらしいと、このとき初めて知った。恥ずかしい話だが、それまで自分はSDoCという略称を見るたびに、含有物質の話だと思い込んでいた。

様式が届いてから記入を始めるまでの分岐フロー図
様式が届いてから記入を始めるまでの分岐 ※概念図(実測データではありません)

根拠として何を使うか

対象物質が分かったところで、次に悩んだのは「何を根拠に非含有と答えるか」だった。手元のSDSを見返しても、対象物質の粒度がまったく違い、そのままでは根拠にならなかった。サプライヤーに問い合わせ、chemSHERPAの回答フォーマットで答えてもらう形に切り替えた。第三者機関での分析結果が一番強い根拠になることは分かっていたが、対象物質は最終的に14種類にのぼり、全物質を分析するのは現実的ではなく、対象を絞ってもコストと時間がかかる。今回はchemSHERPAの回答を軸に据えることにしたが、これが毎回の正解かどうかは、正直まだ自信がない。

非含有の根拠として使える資料の強さの概念図
SDS・chemSHERPA回答・第三者分析の、根拠としての位置づけ ※概念図(実測データではありません)

サプライヤーへの依頼の仕方も変えた

以前は届いた様式をそのままサプライヤーに転送していたが、今回は依頼文を書き直した。対象物質名(CAS番号つき)、対象部材の型番、回答期限を明記して送った。以前の転送スタイルだと、サプライヤー側も「何を聞かれているのか」が分からず、回答が的外れになって突き返す事態を過去に2回経験していた。今回は期限までにほぼ一発で使える回答が返ってきて、差し戻しは1件だけで済んだ。

サプライヤーへの依頼文を書き直す前と後の比較図
サプライヤーへの依頼文を書き直す前と後の記載項目と差し戻し件数 ※筆者の運用記録(対象:材料宣誓書の依頼1案件・期間:本記事の対応時)

「該当なし」という回答も、確認した物質リストの版と確認日、回答者を台帳に残すようにした。同じ顧客から似た依頼が来たときに、ゼロからやり直さずに済むはずだ。ただ、この記録の仕組みもまだ運用し始めたばかりで、本当に使い回せるかは次の依頼が来てみないと分からない。実際、台帳に残す項目を最初は5つ用意したが、いざ記入してみると「確認した根拠資料のファイル名」まで書かないと後から探し出せないことに気づき、途中で1項目増やした。

今のところの結論

様式だけが回ってきたときに一番やってはいけないのは、勝手な推測で埋めることだった。様式の見た目や過去の経験から規制を決めつけない、ということだと思う。今は「様式名だけで判断しない」「規制の根拠が読み取れなければ、埋める前に確認する」の2つを、自分の中の最初の一歩として置いている。差し戻しに3日を使うのは短くはないが、思い込みで出して後から全部やり直すよりは、結果として早かった。それでも、次にまったく別の様式が来たとき、同じように立ち止まれるかどうかは、正直まだ分からない。

本記事は特定の企業・案件を示すものではなく、一般化した経験を基にした記述です。実際の対応は自社の品質保証・法務部門にご確認ください。

関連: ものづくりハンドブック TS31|顧客から材料宣誓書(MD)・供給者適合宣言(SDoC)等の含有物質証明を求められたときの対応

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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