5S点検表が「点をつけるだけ」になっていたのを直した話

金曜の夕方、来週の5S点検表をコピーしようとファイルを開いたら、先週分がまだ挟まったままだった。何気なく目を通すと、28項目すべてに○がついている。先々週の分も、その前の週の分も同じだった。数か月分をめくっても、×や△はほとんど見当たらない。現場が本当にそこまで整っているとは、自分の記憶と一致しなかった。コピー機の順番待ちをしていたことも忘れて、しばらくその場で点検表をめくり続けていた。

目次

全部に○がついた点検表

念のため、直近8週分の点検表を並べて見直してみた。結果は、28項目×8週分=224マスのうち、○以外の記入はわずか3マスだった。担当は週替わりで4人が回しているはずなのに、誰が書いても同じような結果になっている。点検にかかる時間も記録されていて、平均で4分程度。28項目を本当に1つずつ確認して4分で終わるとは考えにくかった。

直近8週分224マスのうち○以外はわずか3マスだった内訳
直近8週分・224マスの記入内訳 ※筆者の運用記録(対象:5S点検表28項目×8週分・期間:直近8週間)

現場を見に行って分かったこと

翌週、点検表とは別に、自分の目で現場を歩いてみることにした。すると、通路の隅に置き場の決まっていない治具が3点、表示のない仮置きの部材が1山、見つかった。点検表の該当項目には、その週も○がついていた。担当者を責める前に、なぜこの状態で○がつくのかを考えることにした。項目を1つずつ声に出して読み上げてみると、「置き場は適正か」「表示は明確か」といった抽象的な表現が多く、何を見れば○か×かの基準が担当者の感覚に委ねられていることに気づいた。同じ項目でも、担当する人によって基準がずれていた可能性もある。ある人は「多少はみ出していても通路が通れれば適正」と考え、別の人は「1cmでもはみ出したら不適正」と考えていたかもしれない。基準がそろっていない状態で○×だけをつけさせても、記録としての意味は薄くなる。

項目が多すぎた点検表

気になって、点検表の成り立ちを古い資料で調べてみることにした。すると、5S点検表は運用を始めてから3年の間に、指摘が出るたびに項目を追加されてきた経緯があった。最初は12項目だったものが、少しずつ増えて28項目になっていた。改訂履歴を見返すと、「治具の置き場」「配線の見切れ」「掲示物の更新日」など、過去にどこかで一度指摘された事柄が、そのたびに恒久項目として点検表に居座っていた。項目が増えるたびに、1項目あたりにかけられる時間は短くなっていく。28項目を制限時間内で見ようとすれば、どこかで確認が形だけになるのは、ある意味で自然な結果だったのかもしれない。

点検表の項目数が3年間で12から28まで増えた推移
点検表の項目数の推移(3年間) ※筆者の運用記録(対象:5S点検表の改訂履歴・期間:運用開始から3年間)

半年前に一度あきらめかけたこと

実は、この問題に気づいたのは今回が初めてではなかった。半年前にも同じような違和感を持ち、そのときは点検の担当者を集めて「もっとしっかり見てほしい」と口頭で伝えるだけで終わらせていた。当時は仕組みそのものに手を入れる発想がなく、注意すれば直ると考えていたのだ。結果は、2週間ほどは記入内容に多少の変化が見えたものの、1か月もすると元の全項目○の状態に戻っていた。仕組みを変えずに気持ちだけ変えてもらおうとした自分のやり方のほうに無理があったのだと、今なら分かる。

増やして直そうとした失敗

最初に試したのは、実は項目を減らすことではなく、逆に「写真添付欄」を追加することだった。指摘箇所の写真を撮って点検表に貼れば、見ていないのに○をつけることはできなくなるはずだと考えたからだ。スマホで撮影してその場で点検表に貼り付けられるよう、共有フォルダの仕組みも一緒に整えた。導入から1か月分の記録を見返してみると、写真が添付されていたのは全体の2割程度にとどまっていた。欄を足しても、忙しい時間帯には結局省略される。手間を増やす方向の対策は効かないのだと、ここでようやく学んだ。

減らす判断に舵を切った

方向を変えて、項目を減らす判断をすることにした。増やすことは簡単だが、減らすことは「手を抜いている」と受け取られかねないため、正直ためらいがあった。それでも、28項目を全部見きれていない今の状態のほうが、実効性という点では既に手抜きに近いのではないかと考え直した。以前読んだ『儲かるメーカー 改善の急所』にも、改善は足し算より引き算のほうが効くことが多いという趣旨の話があり、この判断を後押ししてくれた。減らすことは怠慢ではなく、実効性を上げるための判断だと自分に言い聞かせて進めることにした。

9項目まで絞り込んだ基準

絞り込みの基準は、過去1年分の記録を洗い出すところから始めた。実際に×や△がついたことのある項目と、一度も動きのなかった項目に分けてみた。動きのない項目の多くは、そもそも変化が起きにくい固定設備の状態確認だった。そうした項目は点検の頻度を月次へ落とし、週次の点検表からは外すことにした。最終的に28項目のうち、週次で見るべきものは9項目まで絞り込んだ。厚生労働省の安全衛生情報でも、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の説明は、職場をきれいにすること自体ではなく、その好ましい状態を維持することが目的だと明記している。項目数の多さが目的ではないと考えると、少し気持ちが軽くなった。点検表の指摘の書き方や是正期限の付け方は、自分でまとめている点検・監査準備のポータルのページにも整理してあり、今回の見直しでも読み返した。

週次で見る項目を28項目から9項目へ絞り込んだ内訳
週次で見る項目を28から9へ絞り込み ※筆者の運用記録(対象:5S点検表の見直し・期間:見直し実施時)

現場への説明で出た反発

項目を減らす案を担当4人に説明したときは、素直に賛成ばかりではなかった。「項目を削ると見なくなる場所が出るのでは」という懸念が最初に出た。もっともな指摘なので、削った19項目については、月次点検の担当者がまとめて確認する形に整理した。抜け漏れがないかも、その場で一緒に確認した。もう一つ出た声は「これまで28項目を毎週見てきたのに、急に9項目でいいと言われると、これまでの点検は何だったのかと思う」という率直なものだった。この声には、正直すぐに答えを返せなかった。これまでの点検が無駄だったのではなく、そのデータがあったからこそ「本当に週次で見るべきもの」を絞り込めたのだと考えている。そう伝えるのに、結局30分ほどかかった。説明の場を設けたことで、少なくとも「勝手に減らされた」という受け止め方にはならずに済んだと思う。

担当を固定しない工夫

点検表を絞り込むのと同時に、点検を担当する順番も見直した。それまでは実質的に同じ2人が担当することが多かったが、これを4人で均等に回るよう表を作り直した。同じ人がいつも同じ時間に同じ場所を見ていると、見慣れた景色になって違和感に気づきにくくなる。たまに担当を変えることで、別の目で見る機会を意図的に作った。表を作り直した当初は、慣れない人が回ってくる週に指摘の質が落ちるのではないかと心配していたが、実際にはむしろ逆で、久しぶりに担当する人のほうが小さな変化に気づきやすい傾向が見えた。

指摘が実行されるまでの流れも変えた

項目を絞る前は、点検表に×がついても、その後どう対応したかを記録する欄がなかった。指摘した本人しか進捗を把握していない状態が続いていたため、対応日と対応者を書き込む欄を追加した。以前は、指摘してから実際に片付くまでの期間がまちまちで、中には1か月以上そのままになっていた項目もあった。欄を追加してからは、その場で直せるものは当日中、設備が絡むものは次回巡回日を期限の目安にする、という簡単なルールも添えるようにした。

指摘してから是正が完了するまでの対応フロー
指摘が実行されるまでの流れ ※筆者の運用記録(対象:点検表の対応欄・期間:見直し後)

3か月後の記入内容を見てみた

仕組みを変えてから3か月後、あらためて点検表を見返してみた。9項目×12週分=108マスのうち、○以外の記入は14マスに増えていた。件数としては増えているが、これは点検の中身が薄くなったのではなく、むしろ実態が拾えるようになった結果だと捉えている。指摘のあった14件のうち11件は、その場か翌週の巡回までに是正が完了していることも確認できた。点検にかかる時間も、平均で7分程度に伸びていた。4人のうち、以前は点検表の記入を後回しにしがちだった1人が、今は現場を歩きながらその場でメモを取るようになったのも、地味だが変化のひとつだと思っている。

見直しから3か月後の点検表108マスの記入内訳と是正完了件数
3か月後・108マスの記入内訳 ※筆者の運用記録(対象:9項目×12週分の点検表・期間:見直しから3か月後)

それでも残る違和感

今も気になっているのは、9項目という数がいつまで適正であり続けるかということだ。時間が経てば、また別の指摘が積み重なって項目が増えていく可能性はある。増やすこと自体は悪いことではない。ただ、増やすたびに「本当に週次で見る必要があるか」を毎回問い直す手間は惜しまないようにしたい。半年前に一度、注意だけで済ませて元に戻った経験があるだけに、正直、この点検表がこの先も形だけにならない保証はどこにもないと思っている。担当を固定しない工夫についても、時間が経てば「結局いつもの2人に任せたほうが早い」という空気に戻る可能性は否定できない。それでも、全部に○がついた点検表を見たときの、あの落ち着かない感覚だけは忘れずにいたい。

参考書籍

改善は足し算より引き算のほうが効くことが多い、という考え方の後押しになった1冊。【PR】儲かるメーカー改善の急所101項 [ 柿内幸夫 ]

本記事は筆者個人の体験と運用記録に基づく内容です。項目数や時間の目安は筆者の職場での実測であり、実際の点検表の設計は自社のルール・監査基準に従って判断してください。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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