現場パトロールが形だけになりかけて、やり直した話

年度初めの計画表を見直していたとき、ふと手が止まった。「工程パトロール月1回」の欄に押されているはずの実施印が、この半年で二回分しかない。予定表には毎月書き込まれているのに、実際に現場を歩いた記録は二月と六月の二回きりだった。誰かがサボっていたわけではない。忙しい月に「今月は来月まとめて」と先送りしているうちに、いつの間にか年間計画そのものが有名無実になっていた。

目次

実施率を数えて青ざめた

過去一年の記録を数え直すと、計画上は十二回のはずが実施できたのは四回、実施率にして三割三分だった。しかも実施できた四回のうち二回は、チェックシートの記入欄が「良好」の一言だけで埋まっており、具体的にどこを見てどう判断したのかが分からない。パトロールという名前は残っているが、中身はほとんど形だけになっていた。この事実に気づいたのは、たまたま監査対応の資料をまとめていて記録を見返したからで、日常業務の中では誰も違和感を持たないまま半年以上が過ぎていたことになる。

工程パトロールの実施率が変更前後でどう変化したかを示す図
工程パトロール実施率の推移 ※筆者の運用記録(対象:工程パトロール実施記録・期間:過去1年〜半年後)

なぜ回らなくなったのか

原因を探るために、パトロールを担当していたリーダー数名に話を聞いた。出てきた理由は一つではなかった。まずチェック項目が三十二項目もあり、一工程を丁寧に見ると一時間近くかかるという物理的な負担があった。次に担当者が固定になっていて、その人が有休や出張で不在の月はそのまま巡回自体が抜けてしまう。そしてもう一つ、指摘を書いても、その場で直せない内容は結局そのままになり、次の月にはまた同じ指摘を書く羽目になっていた。同じ指摘を毎回書くだけの作業に、やる意味を感じにくくなっていたという声が一番印象に残った。三つ目の理由を聞いたとき、これは項目数や担当者の問題ではなく、指摘の後始末の設計そのものに欠陥があるのだと気づいた。

最初は項目を削るだけだった

最初に手をつけたのは、三十二項目のチェックシートを八項目まで絞り込むことだった。しかし、これだけでは実施率は上がらなかった。翌月の実施は一回にとどまり、担当者からは「項目は減ったが、結局まとまった時間が取れないと動けない」という声が返ってきた。項目数を削るだけでは、パトロールを後回しにする根本の理由には触れていなかったことになる。ここでいったん立ち止まり、チェックシートの設計よりも先に、誰がいつ回るかという運用の骨格から見直す必要があると考え直した。

LPAチェックシートの項目数を32項目から8項目へ絞り込んだことを示す図
チェックシートの項目数を32から8へ ※筆者の運用記録(対象:LPAチェックシート)

層を分けて短く回す

次に試したのは、層別工程監査(LPA)の「層別」の考え方を素直に取り入れることだった。担当者一人が月一回まとめて回る方式をやめ、班長級が週一回・十五分だけ担当区画を回る短時間巡回と、管理者級が月一回・全区画を回る従来型の巡回を組み合わせる二段構えに変えた。短時間巡回は項目を絞った八項目だけを見るので十五分あれば終わる。管理者の月一回は、班長級の記録を踏まえたうえで、傾向のある区画を重点的に見る形にした。役割を分けたことで、一人に責任が集中する状態がなくなった。

班長級と管理者級で巡回頻度と確認範囲を分けた層別巡回の役割分担図
層別巡回の役割分担 ※筆者の運用記録(対象:層別工程監査の運用体制)

班長に丸投げだと言われた

層を分ける案を最初に説明したとき、班長級の一人から「結局、細かい確認は全部こちらに丸投げということですよね」という反応が返ってきた。率直に言って、その場ではうまく言い返せなかった。これまで管理者が月一回まとめて見ていた項目のうち八割近くを、班長級の週次巡回へ移す形になる。負担が増えると受け取られても無理はない。持ち帰って考え直し、班長級の巡回は一区画あたり十五分・八項目まで絞り込んだ。月一回だった管理者の巡回は、区画を全部ではなく傾向のある区画だけに絞って回る形に修正している。丸投げではなく、見る頻度と見る深さを役割で分けたのだと、翌週もう一度説明し直した。最終的には合意してもらえたが、あの場での反応が正しかったのか、今でも時々思い返す。

その場で直す、を徹底した

もう一つ変えたのは、指摘の扱い方だった。以前は指摘票に書いて終わり、対応は各職場任せになっていたため、翌月も同じ指摘が繰り返されることがあった。今回からは、その場で直せる逸脱はその場で直す、その場で直せないものは対応期限と担当者名まで指摘票に書く、というルールに変えた。実際に試した最初の月、5S関連の指摘が三件あった。そのうち二件は治具の置き場表示を貼り直すだけで完了し、その場で解消できている。残る一件は発注が必要な部材の話だったため、二週間後の期限と担当者名を明記して次回巡回で確認する形にした。

拾えた逸脱の中身

項目を絞ってからのほうが、かえって細かい逸脱を拾えるようになったのは意外だった。ある週の短時間巡回では、検査記録の日付欄が前日のまま更新されていない台帳が一冊見つかった。記入者に確認すると、朝一番の検査を終えてから記入するつもりが、途中で別の作業に呼ばれてそのまま忘れていたという。もう一つの例では、測定器の校正シールの色区分が今年度分と去年度分で混在している棚があった。いずれも重大な不具合ではないが、見過ごせば半年後に校正切れの測定器を使い続けるような事態につながりかねない種類のものだ。三十二項目を丁寧に見ていた頃には、こうした小さなズレの方まで手が回っていなかったように思う。

記入例を良い例と悪い例で並べた

チェックシートの記入欄には、以前「手順が違う」「5S乱れている」といった一言だけの記載が目立っていた。これでは後から読んでも何がどう問題だったのか分からず、次に同じ場所を見た人が同じ観点で確認できない。そこで記入例を良い例と悪い例で並べたシートを作り、班長級に配った。良い例は「標準書三項の確認手順を省略し、作業者へその場で標準を確認させて再教育を実施」のように、対象・事実・その場対応まで書く形にした。配ってすぐに記入の質が変わったわけではないが、三か月ほど経つと、対象を具体的に書く担当者が増えてきた実感がある。

パトロールの指摘欄の記入について悪い例と良い例を比較した図
指摘の記入・良い例と悪い例 ※筆者の運用記録(対象:LPAチェックシートの指摘欄)

月次会議で数字を見せる

もう一つ変えたのは、月次の品質会議のアジェンダに「工程パトロール実施率」と「指摘対応完了率」の二つを固定枠として置いたことだった。以前は聞かれたときだけ口頭で答える程度の扱いだったが、今は毎月同じスライド一枚に数字を並べ、前月比を並べて見せている。数字が悪い月は、なぜ悪かったのかをその場で一言添えるルールにした。最初のうちは数字を見せること自体に照れくささもあったが、続けるうちに、班長級のほうから「今月は出張が重なって二回しかできなかった」と自己申告してくれるようになった。管理する側と見られる側という関係が、数字を共有することで少し変わった気がしている。

三か月で実施率が戻った

運用を変えてから三か月間の記録を数えると、班長級の週次巡回は十二回中十一回実施、管理者級の月次巡回は三回中三回実施できていた。実施率で言えば九割を超え、以前の三割三分からは大きく戻った計算になる。指摘件数はむしろ増えていて、以前の月平均一件前後から、直近三か月は月平均五件になっている。これは現場が悪化したのではなく、今まで見えていなかった細かい逸脱を拾えるようになったからだと考えている。指摘が増えることを歓迎する空気を作れたかどうかは、正直まだ自信がない。

工程パトロールで拾えた指摘件数が月平均でどう変化したかを示す図
指摘件数の変化 ※筆者の運用記録(対象:指摘票・対応完了率85%)

半年後、もう一度数えた

三か月時点の実施率九割超という数字だけでは、まだ安心できないと思っていた。運用を変えてからちょうど半年が経った時点で、もう一度記録を数え直してみた。班長級の週次巡回は二十四回中二十二回、管理者級の月次巡回は六回中六回実施できていた。実施率はおおむね九割前後を維持していたことになる。指摘への対応完了率も見た。期限内に完了した件数は全体の八割五分にとどまり、残り一割五分は期限を延長した記録として残っている。数字だけを見れば三か月目からほとんど落ちておらず、少なくとも半年という期間は形骸化していないと言える状態だった。

形骸化はまた起きると思う

今回の一件を振り返って、以前読んだ遠藤功の『現場論』を思い出した。現場の強さは、仕組みそのものよりも仕組みを回し続ける力にある、という話だ。チェックシートを作り直しても、層を分けても、半年後にまた同じように記録だけが積み上がっていく状態に戻る可能性は十分にある。だからこそ、今回は月次レビューの場で実施率と指摘対応の完了率を数字で共有する仕組みも合わせて作った。数字を毎月見せ続けることが、次の形骸化への一番の歯止めになると考えている。もっとも、この仕組み自体もいずれ形だけになるかもしれず、そのときはまた別のやり方を探すことになるだろう。

工程パトロールは、事故や不良が起きてから慌てて強化するものではなく、何も起きていないときにこそ淡々と続ける地味な活動だ。地味であるがゆえに後回しにされやすく、後回しにされていることにも気づきにくい。数を数えるという単純な作業が、今回はその気づきのきっかけになった。

本記事は筆者個人の経験に基づく一般化した記述であり、特定の企業・製品を示すものではない。パトロールの対象工程・頻度・チェック項目は業種や規模によって大きく異なるため、実際の運用は自社の基準に従っていただきたい。

層別工程監査(LPA)の一般的な運用の型は、ものづくりポータルの層別工程監査(LPA)・工程パトロールの運用にまとめている。

参考書籍

本文で触れた『現場論』と、同じ著者が「見える化」の仕組みを扱った一冊。【PR】

現場論 「非凡な現場」をつくる論理と実践 [ 遠藤功 ]

見える化 強い企業をつくる「見える」仕組み [ 遠藤功 ]

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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