夜勤明けの自宅で、買ったばかりのQC検定3級のテキストを開いた。1章は「QCとは何か」から始まり、2章では管理図の中心線と管理限界線の計算式が並んでいた。σだのUCLだの、見慣れない記号が並ぶページを前に、10分もしないうちに眠気のほうが勝った。
三日で参考書を閉じた
その週末までに3回、同じテキストを開いては数ページで閉じるということを繰り返した。式は書き写せるが、それが自分の仕事のどこで使う知識なのかが、まるでつながらない。標準偏差の計算式をノートに書き出しても、翌日には忘れている。付箋を貼った箇所も増えていく一方で、理解が進んでいる実感はなかった。このままではまずいと思いつつ、テキストを本棚に戻す日が続いた。会社の資格手当は3級で月2千円、2級で月5千円とそれほど大きくはないが、後輩に検査の考え方を説明するときに毎回言葉に詰まるのが嫌で、受験だけは決めていた。
職場の管理図を持ち出した
本棚に戻したテキストを、もう一度開く気になったのは、次の週の月次会議で品証課長から「そろそろ後輩にも資格を取らせたい、まずお前が取ってくれ」と言われたのがきっかけだった。断る理由も見つからず、月2千円の手当より先に、断れない空気のほうが動機として大きかったというのが正直なところだ。とはいえ、同じやり方でまた3日で閉じるのは目に見えていたので、今度は勉強の前に、自分の仕事を棚卸しすることから始めることにした。棚卸しといっても大げさなものではなく、1週間分の自分の作業をノートに書き出しただけの、地味な作業だった。
逆から見ることにした
考え方を変えたのは、先に試験範囲の目次を全部紙に書き出し、自分が普段の仕事でやっている作業と照らし合わせてみてからだった。「管理図」の項目を見て、そういえば毎朝、検査室の壁に貼ってある寸法の管理図に自分で点を打っていることにふと気づいた。テキストの中の記号として覚えようとしていたものが、実は自分が3年間、毎日触っていた紙そのものだった。

管理図はいつも見ていた
管理図のUCL・LCLという線は、自分の職場では「上限」「下限」としか呼ばれていなかった。点が上限に近づくと班長が声をかけてくる、あの線のことだと分かってから、中心線と管理限界線の計算式が急に読めるようになった。テキストの式を先に覚えるのではなく、職場の管理図を持ってきて、実際の数値を式に当てはめて計算し直してみた。手元の管理図は3か月分、約60点のデータが載っていた。その数字で標準偏差を自分で計算してみると、テキストの例題より腑に落ちた。計算結果は職場の管理図に印刷されているUCL・LCLの値とほぼ一致した。自分が普段見ている線の意味を、初めて数式の側から確認できた瞬間だった。

相関係数は不良の話だった
もう一つ苦手だったのが相関係数だった。テキストの散布図はりんごの重さと糖度のような例で説明されていて、自分の仕事とは縁遠く感じていた。ところが、先月まさに自分たちの工程で、ある工程の加工温度と不良率の関係を調べたことを思い出した。あのとき手作業でグラフに点を打って、右肩上がりの傾向を目で確認しただけだったが、それこそが相関係数が扱う話そのものだった。テキストの例題を解く前に、自分の手元にある実データで一度計算してみると、公式の意味を体で確認できた。相関係数の値そのものより、点の散らばり方を先に自分の目で見ていたことが、公式を読むときの助けになった。計算した相関係数はおよそ0.7で、テキストにある「強い相関」の目安に近い値だったのも、答え合わせのような感覚で覚えやすかった一因だと思う。

試験範囲を仕事で洗い出す
そこから先は、テキストの目次を紙に一項目ずつ書き出した。項目ごとに「これは職場のどの作業に当たるか」を横に書き足していく作業をした。ヒストグラムは月次の不良集計、パレート図は先月作った不具合の件数ランキングに当たった。工程能力指数はちょうど設備更新のときに算出を頼まれた資料で、目次のおよそ7割の項目に対応する仕事が見つかっている。残りの3割、抜取検査の統計的な考え方などは職場でほとんど扱っていなかった。そこだけは素直にテキストに戻って計算問題を繰り返した。対応する仕事が見つからない項目ほど公式を何度書いても頭に残らず、結局は問題集を10回近く解き直すことになった。書き出した紙はA4を1枚では収まらず、結局2枚に分けて机の前に貼り出したままにしている。

抜取検査だけは職場になかった
目次と職場の作業を突き合わせる中で、最後まで対応する仕事が見つからなかったのが抜取検査のOC曲線と合格判定個数の計算だった。自分の職場は全数検査が基本で、抜取検査の考え方を使う場面はほとんど無い。仕方がないので、購買部で受け入れ検査に抜取方式を使っている先輩に頼み込み、実際の検査記録を1回分見せてもらった。ロットサイズ200個に対して抜き取り数32個、合格判定個数2個という数字を見ながらテキストの表と照らし合わせると、初めて表の意味を理解できた。現場に無い作業は、隣の部署から借りてくればいいのだと気づいたのは、この一件のおかげだった。
借りてきた検査記録は結局その1回分だけでは足りず、購買部の先輩にはその後も2回、別のロットの記録を見せてもらった。3回分を並べてようやく、抜き取り数がロットサイズによって変わる理由が数字として見えてきた。テキストの表を丸暗記するより、実物の記録を3回見るほうが自分には合っていたのだと思う。
試験当日に感じたこと
試験本番では、計算問題より先に、問題文の状況設定を読んで「これは自分の職場で言えばあの作業だ」と当てはめる癖がついていた。それでも全問すらすら解けたわけではなく、抜取検査の合格判定個数を求める問題は最後まで自信が持てなかった。結果は合格だったが、自己採点で項目別の正答率を振り返ると、職場で対応づけられた項目の正答率は9割を超えていた一方、対応づけられなかった項目は6割前後にとどまっていた。勉強の順番を変えたことが、そのまま点数の分布にも表れていた形になる。

会場で先輩と会った
試験会場は市内の貸し会議室で、開始前のロビーで偶然、別の課の先輩と顔を合わせた。先輩は2級を受けるところで、聞けば3年前に3級を取ったときは「テキストを頭から3周した」というやり方だったらしい。自分のやり方を話すと「それは考えたことがなかった」と言われ、少し意外だった。テキストを覚える人と、仕事から逆算する人の両方がいるのだろうと思う。試験後に感想を聞くと、先輩は計算問題より用語の穴埋めで苦戦したと話していて、つまずく場所は人によってかなり違うようだった。休憩室の自販機でコーヒーを奢ってもらいながら、次は2級で情報交換しようという話にもなった。
資格より先に残ったもの
QC検定3級に受かったこと自体より、自分が毎日打っている管理図の点や、先月の加工温度と不良率を調べた作業が、実は体系立った手法の一部だったと分かったことのほうが、今の仕事には効いている。今は2級のテキストも並行して開いている。3級のときと同じように、先に職場の作業と照らし合わせてから式を読む習慣にした。それでも工程能力指数のCpkとCpの使い分けなど、まだ実務で自信を持って説明できない項目も残っている。資格を取ったからすべて分かったとは言い切れない部分もある。
後輩には「テキストを頭から読むな」とだけ伝えている。目次を先に紙へ書き出し、自分の仕事のどこに当たるか横に書き足す作業は、10分もあればできる。それだけで、覚える対象が「知らない記号」から「知っている自分の作業」に変わる。実際に後輩の1人はこのやり方で、自分より短い1か月半で3級に合格した。もっとも、後輩の職場は自分より抜取検査を使う機会が多かったので、対応づけの効率が良かっただけかもしれず、誰にでも同じ速さで効くとまでは言えない。
『QC検定3級 一発合格!最強テキスト&問題集』を最初に買ったときは正直、途中で挫折しかけた一冊だったが、職場の作業と結び付けてから読み返すと、同じ本でも違う本のように読めた。今は2級用に『しっかり受かる!QC検定2級テキスト&問題集』も手元に置いていて、本棚に3日で戻すことはもうなくなった。
資格そのものの取り方や更新のルールについては、ものづくりハンドブックの認定検査員・資格の管理にも整理があるので、社内の認定制度と照らし合わせるときに読み返している。認定の更新時期が近づくたびに読み直す習慣が、いつの間にかできていた。
参考書籍
今回の勉強で実際に使ったテキストを挙げておく。3級のときに買った一冊と、いま2級用に手元に置いている一冊。
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『トヨタ生産方式』を読み返して、なぜ5回の甘さに気づいた話――本の内容を自分の職場に置き換えて読み直すという点で、今回のテキストの読み方と重なる。
理解度クイズを社内教育に使ってみたら、新人ごとにつまずく場所が違った――知識と現場の作業をどう結びつけるかという悩みが、今回の資格勉強の話と地続きになっている。
本記事は筆者個人の体験に基づく記録であり、QC検定の出題範囲や合格基準を保証するものではありません。最新の出題範囲・受験要項は主催団体の公式情報をご確認ください。