秋の内部監査に備えて、猛暑の合間にやっておいた3つのこと

「内部監査、10月最終週で確定しました」。7月はじめの品質会議でそう聞かされたときの温度差を、今でも覚えている。窓の外ではセミが盛大に鳴いていて、会議室のエアコンは効きが悪く、資料をめくる手が汗ばんでいた。周りの反応は薄く、営業部長は「まだ先の話でしょう」と笑っていたが、去年9月に慌てて準備を始め、前日の夜に是正処置の記録を探し回った記憶がまだ生々しかった私は、その場で7月から動くと決めた。暑さのピークが過ぎるのを待たず、7月の頭から少しずつ手を付けることにした。

目次

監査までの見取り図

最初にやったのは、8月末までの約2か月を3つの作業に区切ることだった。①7月1週目〜2週目=品質マニュアルと関連文書89件の版数点検、②8月1週目=前回監査で受けた指摘4件の是正状況の洗い出し、③8月3週目=品証課の先輩に監査員役を頼んだ模擬監査。1枚の紙に日付と作業内容だけを書いたロードマップを机の前に貼り、進捗を赤ペンで消し込んでいった。大がかりな進捗管理アプリは使わず、あえて手書きにしたのは、去年の反省で「ツールを整える時間すら惜しい」と分かっていたからだ。この3つを選んだのは、去年の監査で実際に指摘された順に重いものから並べただけで、特別な理論があったわけではない。ロードマップを貼り出した翌日、通りかかった品証課長に「今年は早いね」と声をかけられたが、早めたのは意気込みというより、去年の反省から逆算しただけの、いわば消極的な前倒しだった。

内部監査までの3フェーズのロードマップ
内部監査までの3フェーズのロードマップ ※筆者の運用記録(対象:品質保証業務・期間:7月〜10月)

7月、文書の版数を洗う

7月1週目、まず手を付けたのは文書の版数点検だった。品質マニュアル、作業標準書、検査基準書など89件を一覧表に書き出し、社内サーバー上の最新版と、各職場に掲示・配布されている紙の版とを一枚ずつ突き合わせた。分類の切り口に迷ったので、「マニュアル・標準書・記録様式」の3つに区切ってから数えるようにした。結果、7件で版数がずれていた。内訳は検査基準書4件、作業標準書2件、教育記録の様式1件。多くは半年前に改定した検査基準書が、現場の掲示板では旧版のまま貼られ続けていたケースだった。原因を辿ると、改定の連絡を出したのが金曜の終業間際で、月曜の朝礼で埋もれていたと分かった。実際に第2製造ラインの掲示板をめくったとき、旧版の裏に新版が挟まったまま誰にも配られていなかったのを見つけたときは、さすがに声が出た。7月2週目にかけて7件すべてを差し替え、差し替えた日付を一覧表に書き込んで完了とした。

版数ズレ7件の内訳
版数ズレ7件の内訳 ※筆者の運用記録(対象:品質文書89件・期間:7月1〜2週目)

8月頭、去年の宿題を追う

8月1週目に着手したのは、前回の内部監査で受けた指摘4件の是正状況だった。棚卸ししてみると、2件は是正処置報告書まで作成済みで完了していたが、残り2件は「対応中」のまま止まっていた。1件は外注先の受入検査記録の様式変更で、外注先とのメールのやり取りが2往復で止まっていた。すぐに電話を入れ、9月上旬までに新様式へ切り替える約束を取り付けた。電話口で先方の担当者も「すみません、忘れていました」と正直に話してくれて、こちらもお互い様だと思いながら苦笑いした。もう1件は教育訓練記録のフォーマット統一で、こちらは担当が異動で変わっていたことが放置の原因だった。前任者からの引き継ぎメモを探し出し、進捗をゼロから確認し直す羽目になった。1週間かけてこの2件を動かし、8月2週目の時点でどちらも新しい期限まで漕ぎ着けた。振り返ると、この2件はどちらも去年11月の監査直後には「対応中」のまま止まっていて、実に9か月近く動いていなかったことになる。是正処置の記録自体は残っていたので、一見「進んでいる」ように見えていた。だが記録が残っていることと実際に片付いていることは、別物だと今回改めて思い知らされた。

是正処置4件の追跡状況
是正処置4件の追跡状況 ※筆者の運用記録(対象:前回内部監査の指摘事項・期間:8月1〜2週目)

模擬監査でつまずいた点

8月3週目、品証課の別班の先輩に監査員役を頼み、90分の模擬監査をやってもらった。想定していたのは文書と記録の整合性だったが、実際に指摘されたのは別のところだった。外注先管理台帳に載っている取引先が14社なのに、直近の評価記録が残っていたのは11社分だけだったのだ。3社は今年に入って取引が減り、評価そのものを忘れていた。先輩に台帳を指されて「この3社、評価どこ行った」と聞かれたとき、答えに詰まったのを覚えている。台帳と実績のズレは、文書点検の一覧表だけでは見つからない種類の漏れだった。模擬監査を入れておいて良かったと思った瞬間だった。今も、この3社分をどこまで遡って評価し直すべきかは正直迷っている。8月4週目までに購買部と相談して方針を決めるつもりでいる。ほかにも小さな指摘が2件あった。文書のタイトルの誤字が1件と、記録の保管場所の一覧表が半年更新されていなかったことだ。どれも単体では小さな話だが、まとめて聞かされると「見ているようで見ていなかった」という感覚が残った。

管理台帳14社と評価記録11社のズレ
管理台帳14社と評価記録11社のズレ ※筆者の運用記録(対象:外注先管理台帳・期間:8月3週目)

途中で変えたやり方

当初は文書点検も是正処置の追跡も、自分一人で全部確認するつもりだった。しかし89件の文書を一人で見比べる作業は7月1週目だけで丸2日分の時間を吸い、このペースでは8月の是正処置対応に響くと分かった。そこで7月2週目からは、各職場のリーダー6人に自分の持ち場の文書だけを確認してもらう形に切り替えた。チェック項目は「最新版か・掲示されているか・傷んでいないか」の3つに絞った。簡単な確認シートを配り、結果だけ自分に戻してもらう形にした。一人で抱え込むより時間はかかったが、現場の目で見てもらえた分の収穫もあった。掲示物の裏に古い版が挟まっていたといった、自分では気づけない発見だ。6人のうち2人は締切を過ぎても提出がなく、結局こちらから声をかけに行く手間は残った。それでも一人で89件を見るよりは早かった。

前倒しで見えた数字

8月末の時点で振り返ると、準備にかけた時間はおよそ14時間だった。去年9月の駆け込み対応でかかった時間は、記録が残っている分だけで22時間あり、8時間短くなった計算になる。文書の版数ズレ7件、是正処置の停滞2件、外注先評価の抜け3社。合わせて12件を、監査本番の前に自分たちで見つけて手を打てたのは大きい。ISO9001の9.2.1は、内部監査を「計画された間隔」で実施することを求めている。これは「年1回、10月に」と画一的に実施時期を決めることを意図したものではなく、次の9.2.2が求めるとおり、関係するプロセスの重要性、組織に影響を及ぼす変化、以前の監査結果を考慮して監査プログラムを計画することを意図している。今回、外注先管理という「変化が起きていたのに軽視していたプロセス」に穴が見つかったのは、まさにその通りの結果だったと思う。監査本番がどうなるかはまだ分からないが、少なくとも「指摘されて初めて気づく」件数は去年より確実に減らせたはずだ。

準備時間の前年比較と発見件数の内訳
準備時間の前年比較と発見件数の内訳 ※筆者の運用記録(対象:内部監査準備・期間:7〜8月)

点検中に見つけた想定外の1件

7件の版数ズレとは別に、7月2週目に予定外の1件を見つけてしまった。派遣で来ていた作業者の教育訓練記録が、契約終了から半年以上経った今も台帳に残ったまま、実施日の記載欄が空白になっていたのだ。担当していた前任のリーダーはすでに他部署に異動しており、事情を知る人が周りにいなかった。当時のメールを遡ってようやく、初回教育自体は口頭で済ませていて、記録用紙への転記だけが漏れていたと分かった。記憶を頼りに実施日を推定で書き込むわけにはいかないので、「記録なし」として扱い、台帳には赤字で経緯を1行添えることにした。想定していた89件のリストには載っていなかった漏れで、リストの外側にも目を配る必要があると痛感した出来事だった。この件は是正処置としてではなく「気づき事項」として記録に残し、次回以降は退職・契約終了者の記録も棚卸しの対象に含めるよう、点検リストの項目自体を1つ追加した。

来年に向けて残った宿題

今回のやり方にも粗さは残っている。リーダー6人へ配った確認シートは、その場で手書きした簡単なもので、書式まで作り込んでいなかったため、戻ってきた回答の書式がばらばらで集計に手間取った。来年は7月に入る前の6月のうちに、シートのひな形だけは作っておこうと思っている。また、外注先評価の抜け3社は、模擬監査という「他人の目」を入れなければ最後まで気づけなかった可能性が高い。文書点検と是正処置の追跡だけでは足りず、模擬監査を最初から3本柱に組み込んだこと自体が、今回いちばんの収穫だったと感じている。

正直に言うと、7月に入った時点では「本当に2か月も前から動く必要があるのか」という迷いも自分の中にあった。現場は夏の間も生産が詰まっていて、リーダーたちに確認作業を頼むこと自体が心苦しかったからだ。それでも派遣作業者の教育記録という、リストの外側にあった漏れを拾えた。前倒しにした判断は間違っていなかったと、今は思っている。9月に入ったら、外注先評価の残り3社と、確認シートの回答が遅れた2人への声かけを片付けるつもりだ。そのうえで10月最終週の本番を迎える。監査そのものが好きになったわけではない。それでも、指摘を受けてから慌てるより自分たちで先に見つけて手を打つほうが、精神的には楽だと今回初めて実感できた。

文書点検や監査プログラムの回し方を型から見直したい人向けに、ものづくりポータルの「内部監査の年間運営」のページでも整理している。

参考書籍

文書の抜け漏れをMECEに近い発想で洗い出す考え方を思い出させてくれたのが、以前読んだ『ロジカル・シンキング』(照屋華子・岡田恵子)だった。89件の文書リストを分類するときの切り口は、この本の考え方をそのまま借りている。

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この記事は筆者個人の準備記録であり、内部監査の実施方法や合否を保証するものではありません。監査プログラムの立て方や是正処置の期限は認証機関・社内規定により異なるため、実際の運用にあたっては自社の品質マニュアルおよび認証機関の指示を確認してください。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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