- 期間
- 2026年5月11日〜7月17日(朝礼を短くしてから、現物台を6週間続けるまで)
- 対象
- 組立ライン11人の朝礼。前日の不良の読み上げをやめて5分短くした
- 体制
- 品質保証の管理職である私と、現場リーダー2人、検査員3人
- 結論
- 読み上げをやめたら同じ不良が2日続いた。前日の不良品を1個だけ台に置く運用に替えてからは、6週間で再発が出ていない。
連休明けの月曜日、朝礼が終わった直後に、組立ラインの現場リーダーが壁の時計を指さした。針は8時17分を指している。リーダーは私の顔を見て、それから私が読み上げ用に手に持っていた不良品を見た。「朝礼、長くないですか」。朝礼は15分の予定で、いつも少し延びていた。リーダーは続けて、「不良の読み上げ、あれ全部聞いてる人いないですよ」と言った。
その読み上げをしているのは、私だった。
5分削った朝
朝礼の中身は、出勤の確認、前日の生産数、前日に出た不良の読み上げ、安全の一言、それに連絡事項だった。不良の読み上げは品質保証の担当として私がやっていて、前日の不良を順に、工程名と内容と数を口頭で伝える。件数が多い日は5分を超えた。
リーダーの言うとおり、聞いている人は少なかった。私が読み上げているあいだ、視線は床か手元に落ちている。前日の不良は検査記録に残っているし、現場リーダーには別に伝えてある。読み上げを削っても困らないだろうと考えて、その週の水曜日から朝礼を10分にした。

読み上げをやめると決めるまでに、迷いがなかったわけではない。品質保証が朝礼で口を開く唯一の場面だったから、そこを手放すと現場との接点が減る気もしていた。ただ、聞かれていない時間を守る理由にはならなかった。
削った日の朝、朝礼は8時9分に終わった。リーダーが私の方を見て、小さく頷いた。
削ってから2週間
2週間は何も起きなかった。朝礼は短く終わり、ラインの立ち上がりも早くなった。誰も「読み上げがなくなって困る」とは言わなかったし、私自身も朝の5分が空いたことで、始業直後に検査記録を見る余裕ができた。
読み上げをやめた代わりに何をするかは、決めていなかった。前日の不良は検査記録を見れば分かる、というのが私の理屈だった。検査記録を毎朝見るのは私と検査員だけで、組立の作業者は見ない。そこに引っかからなかったのは、今から思えば不思議なくらいだ。
3週目、同じ不良が2日続いた
3週目の火曜日、組立の途中で寸法外れが出た。部品の差し込み深さが規格の上限を超えていて、検査員が抜き取りで見つけた。手直しは12個。その日の午後、検査員は私に「治具の当たりが甘くなってるかもしれません」と言い、私は現場リーダーにも伝えた。翌朝には治具を見ようという話になっていた。
水曜日の朝、同じ寸法外れがまた出た。今度は手直しが40個になった。手直しには、検査員と作業者の2人で午前中いっぱいかかった。
火曜日の夕方に治具を触った人はいなかった。私が伝えた現場リーダーは水曜日が休みで、朝礼を仕切ったのはもう1人のリーダーだった。そのリーダーは火曜日の寸法外れを知らず、作業者も知らない。治具はそのまま、前日と同じ条件で朝から動いていた。

読み上げをしていた頃なら、水曜日の朝礼で私が「昨日、差し込み深さの寸法外れが出た」と言っていた。聞いている人が少なくても、誰かは聞いていた。それを削って、代わりを置いていなかった。
水曜日の昼、手直しの部品を並べた台の前で、私は治具の当たり面を指でなぞっていた。中央だけがわずかに滑らかで、そこだけ摩耗している。目で見ても分からない程度の差だった。火曜日の時点で触っていれば、たぶん気づいていた。
貼っても、伝えても
その日のうちに、前日の不良をA4の紙にまとめて、朝礼前に掲示板へ貼るようにした。工程名と内容と数、それに「治具を見る」のような一言。書くのは私で、たいして時間はかからない。
1週間続けて、朝礼のあとに「今朝の紙、見ましたか」と聞いて回った。見たと答えたのは11人のうち3人だった。掲示板は朝礼の場所から10歩ほど離れていて、朝礼が終わるとみんなラインへ向かう。掲示板は通り道にない。金曜日に剥がすとき、画鋲の位置が貼った日のまま動いていなかった。誰も手に取らなかった紙は、そういう剥がれ方をする。紙の内容自体は、読み上げていた頃と同じだった。違うのは、私の声と手が付いていないことだけだ。
次に、現場リーダーに前日の不良を伝えておいて、朝礼でリーダーの口から言ってもらうようにした。これは数日でやめた。私が「差し込みがプラス側に外れた」と伝えたものが、朝礼では「マイナス側」で伝わっていた。リーダーを責める話ではなく、口伝えは人をはさむだけで変わる。
紙は見られず、口伝えは変わる。残っている手は、読み上げに戻すことだけに見えた。
聞いていなかった、でも見ていた
戻すかどうかを決める前に、長くこのラインにいる検査員に聞いてみた。読み上げをしていた頃も毎朝その場にいた。
「読み上げは、正直ほとんど聞いてなかったです」と言われた。ここまでは予想どおりだった。続きが違った。「でも、手に持ってた不良品は見てましたよ。ああ、昨日あれが出たんだなって」。
読み上げのとき、私は前日の不良品を手に持って話していた。話しながら製品を持ち上げたり、傾けたりする。それは説明のつもりで、情報を渡しているつもりはなかった。聞いていなかった人が見ていたのは、私の声ではなく、私の手の中の現物だった。

紙が見られなかったのも、口伝えが変わったのも、同じことだったのだと思う。文字と声で渡そうとして、物で渡していたものを落としていた。
検査員は話し終えると、手に持っていた寸法外れの部品を、私の机の上にそっと置いた。
朝礼の前に1個置く
始めたのは、朝礼の前に、前日の不良品を1個だけラインの入口の台に置くことだった。台は空いていた作業台を寄せただけで、上に「昨日の1個」と書いた札を立てた。不良品には荷札を付けて、荷札には内容を1行だけ書く。「差し込み深さ、上限超え。治具を見る」のような形だ。台の場所は、更衣室からラインに入るときに必ず通る位置を選んだ。掲示板で失敗しているので、通り道にあることだけは先に決めた。
朝礼で私が言うのは「台に置いてあります」の一言だけになった。10秒で終わる。朝礼は10分のまま変えていない。

置き始めたのは6月8日の月曜日だった。初日、台の前で足を止めたのは2人。3日目に、作業者が台の不良品を手に取って、隣の人と何か話しているのを見た。声をかけると、「これ、うちの工程ですよね」と聞かれた。読み上げをしていた頃には、一度もなかった会話だった。
前日に不良が出なかった日は、台に「昨日はなし」の札だけを置く。何も置かないでいたら、「今日は置き忘れですか」と聞かれたので、なしの日も札は置くことにした。札は厚紙に手書きで、置く物がない日の方が、かえって台を見る人が多い気がしている。理由は分からない。
台の上の札は、いま3枚目になっている。雨の日に濡れて、書き直した。
6週間たって
現物台を置いてからの6週間で、前日と同じ不良が翌日も出た件数は0だった。読み上げをやめてから現物台を置くまでの4週間では、寸法外れの1件があった。1件と0件の比較なので、これで効いたと言い切れる数ではない。

ただ、台の前で足を止める人は、初日の2人から、6週目には朝礼のあとに5、6人が順に手に取る形になっている。数えていたのは私で、毎朝ラインの入口に立って見ていた。離れて立っているので、手に取った人が何を話しているかまでは聞き取れない。ただ、手に取ってから自分の工程の方を振り返る仕草は、何度も見た。
朝礼は10分のまま。削った5分の代わりに増えたのは、私が朝礼前に台へ不良品を置きに行く数分と、荷札に1行書く時間だった。
紙に書いて貼ったときには、見た人が3人だった。同じ内容を荷札1行にして現物に付けたら、手に取る人が出た。文字の量はむしろ減っている。
削るなら、行き先を先に
朝礼を短くすること自体は、今も正しかったと思っている。聞かれていない読み上げに使うより、その時間でラインを動かした方がいい。間違えたのは、削った情報の行き先を決めずに削ったことだった。
同じことを考えている人に言うとしたら、削る前に、その情報が今どこで誰に届いているかを見ておくといい。私の場合は、声ではなく手の中の現物で届いていた。それが分かっていれば、掲示板に紙を貼る1週間は要らなかった。
台の上には今朝も1個置いてある。荷札には「バリ、外周。金型の確認済み」と書いた。
交替勤務の引き継ぎで前日の品質情報をどう渡すかは、ものづくりハンドブックのM11 交替勤務・引き継ぎ時の品質情報の伝達に型としてまとめてある。朝礼以外の場面も含めて整理したい人は、そちらが早い。
次に読む
形骸化していた品質会議を立て直そうとしてみた話 — 読み上げるだけになっていた会議を、議題を絞って立て直した記録。形骸化の仕方が朝礼とよく似ている。
現場パトロールが形だけになりかけて、やり直した話 — 続けていることが形だけになっていると気づいてから、やり直すまでの記録。
免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。朝礼の構成や情報の伝え方は職場ごとに異なります。件数は自社のラインで数えた値であり、実際の運用は各社の状況に合わせてご判断ください。