- 期間
- 2026年7月6日〜8月14日(6週間・社内の不具合報告書18件)
- 対象
- 組立ラインと受入検査で出た不具合報告書。生成AIに下書きを書かせ、提出までに私が直した箇所を数えた
- 体制
- 品質保証の管理職である私と、メモを書く検査員2人
- 結論
- 現象と処置の欄は渡し方を変えれば直しがわずかで済む。原因の欄は18件中15件で書き直しになり、下書きに任せられるのは事実の欄だけだった。
検査室の奥に、腰の高さのスチール棚がある。上の段が今年の不具合報告書で、下の段が去年までの分。背表紙の色が年ごとに違っていて、青が今年、緑が去年、その下は褪せて何色だったか分からない。窓がない部屋なので、蛍光灯の下で見ると青も緑も同じような灰色に見える。私はこの棚の前で、今年のファイルを開いて枚数を数えていた。7月に入った時点で79枚。どれも私が書いたものだった。
1枚に40分。
これは前の月に自分で測った平均で、検査員のメモを読んで、現物を見に行って、様式の欄を埋めるまでの時間だ。半分は文章を組み立てる時間で、残りが確認の時間だった。文章の側を生成AIに書かせたらどうなるか、というのが今回の話で、結果は「欄による」だった。
40分の内訳
うちの不具合報告書は社内向けで、紙にすると1枚。現象、数値、原因、処置、再発防止の5つの欄がある。客先に出す是正報告書とは別物で、工程で起きたことをその週のうちにまとめる、それだけの書式だ。
書き手は私で、材料は検査員が渡してくれる手書きのメモになる。メモは短い。「外径NG、3個、治具のズレ?」のような1行が普通で、ここから私が現物を見て、担当者に聞いて、文章にする。書き終えた報告書は検査員に戻して読んでもらうが、戻すのが翌日になることもあり、その頃には本人の記憶も薄れている。
時間を食っているのは文章にするところだと分かっていたので、6月の終わりに検査員の2人に相談した。「メモをAIに渡して下書きを作らせてみるから、しばらくメモの書き方はいつもどおりにしてほしい」と頼んだら、2人とも「別にいいですけど、何が変わるんですか」という顔をした。
変わるかどうかを、数えることにした。
同じ18件で、渡し方を3つ
比べたのはAIの種類ではなく、渡し方だ。社内で使えるものは決まっているので、そこは動かせない。動かせるのは、私がAIに何を渡すかだった。
渡す前に決めた約束が1つある。品番、客先名、担当者の名前はメモから外して渡す。品番は「部品A」のように置き換え、戻すときに私が手で入れる。手間が1つ増えるが、これをしないと最初から試す許可が下りない。置き換えは毎回同じ表に従って、誰が読んでも戻せるようにした。
期間は7月6日の月曜日から8月14日までの6週間。2週間ごとに渡し方を変え、その間に出た不具合報告書を対象にした。件数は前半、中盤、後半とも6件で、狙ったわけではなく結果として同数になった。
渡し方は次の3つ。前半は、検査員のメモを私が文字に起こして、そのまま渡す。中盤は、メモに加えて様式の欄の名前と、「メモにない原因を書かない」「数値はメモの値をそのまま使う」の2行を添える。後半は、それに加えて、去年承認済みの報告書を2枚、例として渡す。
数えるのは、下書きと提出版の差だ。下書きを印刷して赤ペンで直し、直した箇所を「事実の誤り」「数値の写し間違い」「言い回し」「原因欄の書き直し」に分けて数えた。原因欄は箇所で数えられる直しではなく、欄ごと書き直すことが多かったので、書き直した件数で数えている。
自分の作業時間も測った。下書きを読み始めてから提出版を印刷するまでで、確認に現場へ行く時間も含む。基準は6月の平均の40分。

前半、メモだけ渡す
最初の6件は、メモを文字に起こしただけで渡した。「外径NG、3個、治具のズレ?」を、そのまま打ち込む。
出てきた下書きは、読める文章だった。読めるのだが、直す箇所が多かった。合計で35か所。1件あたり6か所近くになる。
内訳は、事実の誤りが9か所、数値の写し間違いが4か所、言い回しが22か所。それに原因欄は6件とも書き直しだった。事実の誤りというのは、メモにない事を下書きが足している箇所で、たとえば「3個」を「連続する3個」にする、「治具のズレ?」を「治具の位置決めピンの摩耗により」にする、といった類いだ。疑問符が消えて、断定に変わっている。
数値の写し間違いは、小数点の位置と、個数の桁と、単位の抜け。件数としては少ないが、報告書で一番まずいのはここなので、この数か所を見つけるために全部の数値をメモと突き合わせることになった。
作業時間は1件平均35分。基準から5分しか減っていない。文章を組み立てる時間は減ったが、疑って読む時間が増えた。この2週間の実感で言うと、白紙から書くより、間違っているかもしれない文章を読む方が疲れる。
2週目の金曜日、検査員の1人が下書きを横から見て、「私のメモと言葉が違うから、自分が書いたか分からなくなる」と言った。彼女のメモの「バリ、目立つ」が、下書きでは「顕著なバリが確認された」になっていた。言い回しの直しのうち、こういう置き換えが半分以上を占めていた。

中盤、欄の名前と禁止の2行
次の6件は、渡すものを足した。様式の欄の名前と、「メモにない原因を書かない」「数値はメモの値をそのまま使う」の2行だ。指示というほどのものではなく、様式の見出しを書き写して、その下に禁止事項を置いただけになる。
直した箇所は17か所に減った。事実の誤りが3か所、数値が1か所、言い回しが13か所。原因欄の書き直しは6件中5件。
数値の間違いがほぼ消えたのは、「そのまま使う」の1行が効いたのだと思う。残った1か所は単位で、メモに単位が書かれていなかった箇所だった。これは下書きの責任ではない。
事実の誤りが減ったのも、禁止の1行が効いている。メモにない原因を足す癖がほぼ消えて、代わりに原因欄が「調査中」や「要確認」で埋まるようになった。それはそれで、私が書き直すことに変わりはなかった。
言い回しも減ったが、「顕著な」「確認された」の類いはまだ出る。検査員のメモの言葉をそのまま使ってほしいと書き足そうかと考えたが、この2週間は条件を変えないと決めていたので、次に回した。
ここで初めて、やっている意味があると感じた。作業時間は1件平均22分。

後半、去年の2枚を添える
最後の6件は、中盤の渡し方に加えて、去年承認済みの報告書を2枚、例として渡した。2枚は私が選んだもので、片方は寸法の不具合、もう片方は外観の不具合。どちらも検査員のメモの言葉が原因欄と処置欄にそのまま残っている、私の中では出来のいい2枚だ。選ぶのに棚の前で小一時間かかった。去年の緑のファイルを端からめくると、自分の文章の癖が年の前半と後半で違っていて、どちらを例にするかで迷った。結局、後半の、短い文で書いてある方を選んでいる。
直した箇所は10か所。事実の誤りが2か所、数値が0、言い回しが8か所。原因欄の書き直しは6件中4件だった。
言い回しがここまで減ったのは、例の2枚の文体をなぞってくれたからだと分かる。「顕著な」は消えて、「目立つ」が残った。検査員に見せたら、「これなら自分のメモだと分かる」と言った。
数値の0は、全数値をメモと突き合わせて確認した上での0で、見なかったから0なのではない。この確認だけは、渡し方をどう変えても省けなかった。
作業時間は、6月の基準からほぼ半分に落ちた。読む時間より、数値を突き合わせる時間の方が長い週もあった。1件あたりにすると18分。

予想と違った、原因の欄
始める前は、数値の写し間違いが一番厄介だろうと予想していた。実際には、渡し方を変えるたびに数値の間違いははっきり減った。厄介だったのは原因の欄で、これはどの渡し方でも消えなかった。
前半では、メモの疑問符を消して断定にした。中盤では、断定はしなくなったが「調査中」で埋めた。後半では、例の2枚に似た原因を書いてきた。似ているのは書き方だけで、中身は目の前の不具合とは関係がない。去年の外観不良の原因は金型の温度だったが、今回の外観不良は材料ロットの切り替えで、下書きは温度の話を書いていた。

原因の欄に書くべきことは、私が現物を見て、担当者に聞いて、そのとき初めて分かることだ。メモの時点では誰も知らない。知らないことを渡して書かせているのだから、書き直しになるのは当然で、これは下書きの出来の問題ではなく、渡し方の問題ですらなかった。
18件中15件。残りは「原因は特定できていない」と私が書いた件で、下書きの「調査中」をそのまま使った形になる。使ったというより、消す理由がなかっただけだ。任せられたというより、まだ分からないと書く判断だけが一致した。
もう1つ予想と違ったのは、検査員のメモの書き方が変わったことだ。6週目のメモには「外径NG 3個 0.02大 治具ズレ疑い、未確認」と、単位と確認状況が書かれていた。私は頼んでいない。彼女は「下書きに変な原因を書かれるのが嫌だから」と言った。メモが濃くなったぶん、下書きの直しが減った面もあるはずで、後半の減り方のどこまでが渡し方の効果なのかは、正直なところ切り分けられていない。
欄ごとに分けて、今の形
8月の後半から、渡し方は最後の形で固定している。メモの文字起こし、欄の名前、禁止の2行、例の2枚。下書きに任せるのは現象の欄と処置の欄で、この2つは直しが1件あたり1〜2か所に収まっている。
数値の欄は、下書きの値を使わず、メモの値を私が写す。下書きに数値を書かせて、それを疑って読むより、最初から自分で写した方が早くて確かだった。
原因の欄と再発防止の欄は、下書きを見ずに私が書く。印刷した下書きのこの2つの欄は、読まないで線を引いて消すようにしている。読むと引きずられる。一度、消し忘れて読んでしまい、書きかけの原因が下書きの文に寄っていくのを自分で感じた日があって、それからは印刷の段階で欄ごと黒く塗るようにした。

この形が正しいのか、今も少し迷いはある。渡し方1つにつき6件で、6件で出た差を差だと言い切るには少ない。ただ、原因欄が15件書き直しになったという事実は、件数が増えても変わらない気がしている。分からないことを書かせても、分かる文章にはならない。
棚の青いファイルは、8月末で105枚になった。40分で書いていた頃の枚数と、18分で書いている今の枚数に違いはない。減ったのは私の時間だけで、それで十分だと思っている。
生成AIを品質の仕事で使うときの線引きは、ものづくりハンドブックのT16 生成AIを品質業務で安全に使うに型として置いた。本記事はその型を1つの書式で試した記録で、何を渡し、何を渡さないかの一般的な考え方はそちらの方が読みやすい。
参考書籍(PR)
指示の書き方で下書きの出来がどう変わるかは、『ChatGPT快速仕事術』(田口和裕・森嶋良子・いしたにまさき)が業務の場面ごとに扱っている。欄の名前と禁止事項を添える渡し方は、この本の指示の組み立て方を参考にした。
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免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。生成AIの出力は使う道具と渡す情報で変わり、件数は自社の書式で数えた値です。社内情報の取り扱いは各社の規程に従い、導入は自社の環境で試したうえでご判断ください。