客先に求められた材料宣誓書、何を宣誓する紙なのか原典を読みに行った3週間

期間
2026年2月9日〜5月19日(様式が届いた日から、原典を読んで提出し、2社目の依頼を記録票から返すまで)
対象
客先が商社経由で求めてきた材料宣誓書と供給者適合宣言。樹脂成形品2品番の構成材料3つが対象
体制
品質保証の管理職である私が原典を読み、購買の担当者が材料メーカー3社の根拠資料の窓口。営業の担当者が客先との窓口
結論
材料宣誓書は非含有の証明書ではなく、閾値を超える含有を申告する紙だった。黄銅のインサートの鉛を含有ありで申告して受理され、2社目は記録票から40分で返せた。

「宣誓書って、何を誓うんですか」

営業の担当者が、A4の紙を2枚重ねて私の机に置いた。1枚目の上のほうに英語と日本語が並んでいて、日本語のほうには材料宣誓書とある。2枚目は供給者適合宣言。客先の品質担当から商社を通して回ってきたもので、うちが納めている樹脂成形品2品番について、この2枚を埋めて返してほしいという依頼だった。営業の担当者は「非含有証明みたいなものですよね」と言い、私も最初はそう受け取った。2月9日の月曜で、期限は3週間後の3月2日。

目次

2枚の様式に書いてあったこと

紙を机に広げて、上から順に読んだ。1枚目には製品名、品番、宣言の日付、それから物質の表が2つ。表Aと表Bと書かれていて、表Aには石綿、PCB、オゾン層破壊物質、有機スズ系の防汚剤。表Bにはカドミウム、六価クロム、鉛、水銀、臭素系の難燃剤、放射性物質、短鎖の塩素化パラフィン。それぞれの行に閾値の欄と、超えているかどうかの欄、超えていれば質量を書く欄があった。

私が知っている含有調査は、RoHS指令に紐づいたchemSHERPAの回答か、客先の独自様式で「以下の物質を含有していないことを証明します」と書いて印を押すものだった。今回の紙はどちらにも見えなかった。石綿と防汚剤が並んでいる表は、電気製品向けの調査で見た記憶がない。

似た様式は、以前に一度だけ受け取ったことがある。そのときは営業を通して規制の名前を聞き返し、返ってきた物質リストに合わせて欄を埋めた。名前は聞いたが、様式そのものが何を求める紙なのかまでは読んでいない。

紙の一番下に小さく、船舶のリサイクルに関する条約と、EUの規則の名前が並んでいた。そこで手が止まった。うちの成形品は舶用ポンプの部品として客先に納めている。船の部品だということは分かっていたが、船そのものの規制がうちの成形品まで降りてくるとは、この日まで考えたことがなかった。

営業の担当者は「商社の人も、詳しくは知らないって言ってました」と言って、自分の席に戻っていった。机の上には2枚の紙と、私が線を引いた条約の名前だけが残った。

船舶リサイクル条約の発効から、船の有害物質一覧表、客先、商社を経て部品メーカーに材料宣誓書と供給者適合宣言の2枚が届くまでの流れ図
条約から部品メーカーの2枚まで ※出典:国際海事機関「決議MEPC.379(80) 2023年 有害物質一覧表作成ガイドライン」(n=該当なし)

原典を探した3日

その夜から3日、条約の名前を手がかりに原典を探した。最初に開いたのは国際海事機関の条約のページで、そこに採択が2009年5月15日、発効が2025年6月26日と書いてあった。去年の6月に発効したばかりの条約だと分かり、急に様式が回ってきた理由の半分はここで腑に落ちた。この日付は国際海事機関の条約紹介ページに載っている。

条約そのものを読んでも、様式の話は出てこない。船に有害物質の一覧表を備えることと、造船所や船で使ってはいけない物質の一覧が書いてあるだけで、部品メーカーが何を書くかは別の文書にある。それを見つけるまでに1日半かかった。

たどり着いたのは、有害物質一覧表の作成に関するガイドラインという決議の文書だった。2023年7月に採択された版で、6章に材料宣誓書、7章に供給者適合宣言の説明があり、付録に表と様式の例が載っている。うちに届いた2枚は、この付録の様式をそのまま日本語と併記にしたものだった。表Bの鉛の閾値が1,000mg/kgだと確かめられたのもこの文書で、決議MEPC.379(80)の本文の付録1の表Bにその値がある。

6章の書き出しに、造船業界への供給者は、表Aと表Bの物質が閾値を超えて含まれているかどうかを申告する、とあった。「含まれていないことを証明する」ではない。含まれているかどうかを申告し、超えていれば質量を書く。この1文を読んだ時点で、私の中の「非含有証明」という言葉が崩れた。

7章の供給者適合宣言も、私の思っていたものと違った。物質の非含有を宣言する紙ではなく、添付した材料宣誓書が6章の要件に沿って作られたことと、誰が責任を持つかを示す紙だった。そのために、化学物質を管理する会社としての方針を持っていることが求められている。これは含有物質の話というより、うちの品質マネジメントの話だ。

3日目の夜、印刷した決議の6章と7章に蛍光ペンで線を引き終えて、机の脇に置いた。

紙は14枚になっていた。

決議の6章と7章が何を求めているかと、付録1の表Aと表Bの物質と閾値を並べた表
決議の6章・7章と付録1の構造 ※出典:国際海事機関「決議MEPC.379(80) 2023年 有害物質一覧表作成ガイドライン」(n=該当なし)

3つの材料と、それぞれの根拠

2品番の成形品を構成する材料は3つだった。ガラス繊維入りの樹脂、成形時に埋め込む黄銅のインサート、それにゴムのパッキン。レーザーで刻印を入れるが、これは材料を足していない。梱包材は製品の一部ではないので対象から外した。決議の6章にも、完成品の一部にならない化学品は対象外だと書いてある。

2月13日の金曜、購買の担当者に、3つの材料の根拠資料を集めてもらうよう頼んだ。樹脂は去年の秋にchemSHERPAの回答を取ってあり、購買のファイルにそのまま入っていた。表Aと表Bの物質は、chemSHERPAの管理対象物質の中に含まれている。回答の該当欄を見ると、すべて非該当だった。

黄銅のインサートは、受入記録に綴じたミルシートを引いた。快削黄銅で、鉛の欄に2.9%とある。規格上の幅は1.8%から3.7%で、この材料に鉛が入っていることは、機械加工に関わった人なら誰でも知っている。私も知っていた。知っていたのに、様式を見た日にはそこに頭が回らなかった。

ゴムのパッキンは、購買のファイルに安全データシートしかなかった。安全データシートには危険有害性の情報が載っているが、表Bの物質が閾値を超えていないかを読み取れる書き方にはなっていない。これは根拠として使えないと判断し、ゴムメーカーへ表Aと表Bを明記した依頼を出した。回答が戻ったのは2月19日の木曜で、全項目が非該当、chemSHERPAの回答も添えられていた。

3社の根拠を並べて、2月20日の金曜に下書きを書き始めた。樹脂は非該当、ゴムは非該当、黄銅は鉛が2.9%。1,000mg/kgは0.1%だから、29倍ある。

樹脂、黄銅のインサート、ゴムのパッキンの3つについて、根拠にした資料と表A・表Bの結果、鉛の質量の計算を並べた表
3つの材料と、それぞれの根拠 ※筆者の運用記録(対象:樹脂成形品2品番の構成材料3つ・期間:2026年2月13日〜2月20日)

鉛が閾値を超えていた

下書きの表Bの鉛の行に、超えている、と書いた瞬間に手が止まった。非含有証明を出すつもりで3週間もらったのに、含有ありと書いて出すことになる。

これでは客先に納められないのではないか。

その場で決議に戻った。表Aは条約の付録1に対応していて、船での新規の使用が禁止または制限される物質。表Bは条約の付録2に対応していて、一覧表に載せることが求められる物質。鉛は表Bにある。船に載せてはいけない物質の表ではなく、船のどこに何グラムあるかを記録しておく物質の表だった。

読み直して分かったのは、客先が欲しいのは非含有の証明ではなく、自分の船の一覧表を作るための数字だということだった。黄銅に鉛が入っているのは客先も知っている。知っているからこそ、質量を書いてほしい。

質量の欄は、6章に閾値を超える物質ごとの質量とあるので、製品1個あたりで計算した。インサートは1個6.2gで、成形品1個に4個埋まる。合わせて24.8g、その2.9%で0.72g。2品番ともインサートの数は同じなので、同じ値になった。

この計算をしながら、もう1つの勘違いにも気づいた。下書きの鉛の欄に、私は最初「規格内」と書きかけていた。2.9%はミルシートの規格の幅に入っている、という意味で書こうとしたのだが、規格内かどうかは誰も聞いていない。聞かれているのは、閾値を超えているかどうかと、超えているなら何グラムかの2つだけだった。

金曜の夕方、下書きの鉛の行に0.72gと書き込んだ。窓の外はもう暗く、購買の担当者が帰り支度をしながら「出せそうですか」と聞いた。

「出せる。含有ありで出す」

購買の担当者は、少し驚いた顔をした。

様式が届いた2月9日から、原典を読み、根拠を集め、上司の印を得て提出し、3月の質問1件を経て、5月の2回目を40分で返すまでの時系列
様式が届いてから2回目を返すまで ※筆者の運用記録(対象:材料宣誓書の回答2回・期間:2026年2月9日〜5月19日)

上司の印と、提出の日

2月24日の火曜、上司に2枚の下書きと決議の該当ページを持って説明に行った。説明の順番は3つに絞った。この紙は何の規制から来ているか、鉛を含有ありと書く理由、供給者適合宣言に会社の方針が要ること。

上司が最初に聞いたのは「含有ありで出して、うちは大丈夫なのか」だった。私は表Aと表Bの違いを、決議の付録1を指しながら話した。上司は付録の表を1分ほど眺めてから、「知っていて黙っているより、書いたほうがいい」と言って印を押した。

供給者適合宣言の方針の欄には、うちの品質マニュアルの化学物質管理の規定番号を書いた。決議の7章には、認証を受けた品質マネジメントシステムを使ってよいという注記がある。うちにはISO 9001の認証と、その下に化学物質管理の規定が1本ある。新しく方針を書くのではなく、ある規定を指した。

2月25日の水曜、営業の担当者から商社へ2枚を送った。期限の3営業日前だった。営業の担当者には、鉛が含有ありになっている理由を1枚にまとめて渡してある。商社から聞かれたときに、営業が自分の言葉で答えられるようにしておきたかった。

3月10日の火曜、商社の担当者から1件だけ質問が来た。質量は成形品1個あたりなのか、客先の製品1台あたりなのか、という確認だった。1個あたりだと答え、1台に何個使うかは客先が知っているので、そのまま受理された。非含有ではないことへの質問は、来なかった。

2回目は40分だった

提出した日に、私は1枚の記録票を作っておいた。対象の品番、構成材料3つ、それぞれの根拠資料の名前と日付、表Bで超えた物質と質量、回答者、それに読んだ決議の章番号。A4で1枚。次に同じ紙が来たときに、原典から読み直さなくていいようにするためのものだった。

次は思ったより早く来た。5月19日の火曜、別の客先から、同じ様式が営業経由で届いた。品番は2月の2つのうち1つと同じで、様式の版も同じ。私は記録票を開き、3社の根拠資料の日付が半年以内であることを確かめ、鉛の質量を写した。営業の担当者へ渡すまでに40分。2月は3週間かけて、実働で数えれば8時間ほどだったと思う。

40分で返せたのは、記録票があったからというより、2月に「この紙は何を聞いているのか」を一度自分で読んだからだと思っている。読んでいなければ、2回目も非含有証明のつもりで書いて、鉛の行で同じところに戻っていた。

正直に書くと、今もこの読み方が正しいと言い切れる自信は完全ではない。決議は英語で、私が読んだのは6章と7章と付録の一部だけだ。ただ、鉛を含有ありと書いた紙が2社に受理された事実は残っている。この事実は、私の読み方がそれほど外れていないことの根拠として、次に同じ紙が来たときにも使うつもりだ。

記録票は購買のファイルの一番手前に挟んである。営業の担当者が2枚を持ってきた2月9日の朝、私は「何を誓うんですか」に答えられなかった。いま聞かれたら、誓うのではなく申告する紙だと答える。

様式を見た日に思い込んでいたことと、決議を読んで分かったことを左右に並べた対比
読む前に思っていたことと、読んで分かったこと ※筆者の運用記録(対象:筆者の読み違い6点・期間:2026年2月9日〜2月20日)

読みに行く前に開いておけばよかった、と提出のあとで思ったのが、ものづくりハンドブックのTS31 含有物質証明(MD/SDoC)の提出要求への対応だった。様式から規制が読み取れないときは埋める前に依頼元へ根拠を確かめる。安全データシートを非含有の根拠にしない。記録は次に使い回せる形で残す。私が3週間で通った道は、そこに先に書いてあった。

参考書籍(PR)

提出のあとで、クレイトン・クリステンセン『ジョブ理論』を読み返した。客先が片づけたかった用事は非含有の証明書を集めることではなく、自分の船の一覧表に正しい数字を載せることだった。求められた紙の名前ではなく、その紙で相手が何を済ませたいのかを先に見る。2月に私がつまずいたのは、そこだったと思う。

【PR】

次に読む

中国向けの新化学物質「備案」が消えた日、原典を自分で追いかけた話 — 使い慣れていた簡易な届出の窓口がすでに閉じていて、登記の申請しか残っていないと、通知と弁法と登記指南の3つの文書を読んで確かめた記録。担当者の記憶や手順書ではなく、年に1度は原典のページを自分で開く、というのが結論だ。

非含有証明、様式だけ届いた日にやった遠回り — 様式だけが送られてきて、規制の名前も分からないまま半分ほど埋めてしまい、締切の3日前に営業へ差し戻した記録。様式名だけで規制を決めつけない、根拠が読み取れなければ埋める前に確認する、の2つに行き着いた話で、本文の3週間はその続きにあたる。

免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。材料宣誓書や供給者適合宣言の様式・閾値・記載の要件は、依頼元が根拠とする規制や様式の版によって異なり、本文の読み方は自社の2品番について筆者が確かめた範囲のものです。回答にあたっては、依頼元への確認と原典の最新版に沿ってご判断ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

目次