「原因が腑に落ちない」と是正処置報告を差し戻された話

期間
報告書3回分の9日間と、様式変更後の半年
対象
バリ不良の是正処置報告書3回分・班全体の差し戻し件数
体制
私・品証課長・班長・同期の検査員
結論
なぜを5段目まで書き切り、第三者に読んでもらってから3回目で通った。

木曜15時、月次の品質会議。提出しておいた是正処置報告書のコピーが、品証課長の手からこちらへ滑って戻ってきた。表紙に赤ペンで大きく「原因、腑に落ちず」と一言だけ書いてある。会議室にいた7人の視線が一斉にこちらへ向いた気がした。バリ不良の再発、これで3回目の報告書だった。窓の外では夕方の陽が傾き始めていて、会議はまだあと30分残っていた。手元の資料をめくる音だけが、しばらく続いていた。

目次

差し戻された瞬間の空気

赤ペンの一言だけでは、正直どこが悪いのか分からなかった。原因欄には「作業者の目視確認不足」と書いていて、対策欄には「確認頻度の見直し」と書いていた。一見それらしく見える文章だが、課長からは「それは前回も前々回も書いてあった言葉だ」と指摘された。言われてみれば、たしかに1回目も2回目もほぼ同じ表現を使っていた。表現を変えていないのに、中身が変わったふりをしていたことに、その場で気づかされた。

会議室を出るとき、隣の班のリーダーから「またか」という顔をされたのも、正直こたえた。

最初にした深呼吸ひとつ

その場で反論しかけたが、深呼吸をひとつしてから「持ち帰って書き直します」とだけ答えた。以前の私なら「確認頻度は上げています」とすぐに言い返していたと思う。今回は、言い返すための材料が自分の手元に何もないことに気づいていた。会議のあと、自分のメモを見返すと「なぜ目視確認が不足したのか」の一段階先を、どこにも書いていない。指摘としては正しいと思う。悔しさよりも、材料を持たずに会議に出てしまった自分への呆れのほうが大きかった。

指摘の中身を分解した

自席に戻り、課長の指摘を3つに分解してみた。原因の表現が前回と同じで進歩がないこと、「確認不足」という言葉の中身が具体的に何を指すのか書かれていないこと、そして対策と原因のつながりが弱く、頻度を上げるだけでバリが減る根拠が示されていないことだ。分解してみると、3つとも別々の問題ではなく、根っこは同じところにあると分かってきた。原因を深く掘らないまま、対策の言葉だけを毎回変えていたのだ。

ノートに3点を書き出しているうちに、過去2回の報告書もすべて見返したくなり、結局1時間近く自分の書いた文章を読み返す羽目になった。読み返すほど、同じ言葉を使い回していたことが恥ずかしくなった。

差し戻しから承認までの流れ ※筆者の運用記録(対象:報告書3回分の経過)
差し戻しから承認までの流れ ※筆者の運用記録(対象:報告書3回分の経過)

なぜを5回、紙に書き直す

そこで、なぜなぜ分析をもう一度紙の上でやり直した。「バリが出た」から始めて、「なぜ」を5回繰り返す。1回目は刃物の摩耗、2回目は交換周期の設定、3回目は周期を決めた根拠、4回目は根拠にした過去データの古さ、5回目でようやく「3年前の実測データのまま更新していなかった」という具体的な一文にたどり着いた。「確認不足」という言葉は、この5段目に至る手前で思考を止めていた自分の言い訳だったと分かった。紙に書きながら、2段目あたりで手が止まる自分に気づいた。深掘りに慣れていないというより、深掘りする時間を自分で作っていなかっただけかもしれない。

実際、金曜の残業時間の大半をこの紙1枚に使うことになった。書いては消し、消しては書き直した紙は、結局3枚に増えていた。

なぜを5段掘り下げた記録 ※筆者の運用記録(対象:当該不良のなぜなぜ)
なぜを5段掘り下げた記録 ※筆者の運用記録(対象:当該不良のなぜなぜ)

現場に戻って確かめたこと

紙の上で5段目まで書けても、それが正しいとは限らない。翌朝、現場に戻って交換記録を3年分めくり、実際の摩耗の進み方を刃物ごとに数えた。記録が残っていた刃物は12本、そのうち8本で摩耗の進み方が3年前の想定より速くなっていた。担当者にも当時の状況を聞くと、原料ロットが半年前に変わっていたことが分かった。原料が変われば刃物への負荷も変わる。想定が古いまま止まっていた理由が、机上の推測ではなく現物の記録から見えてきた。

記録用紙は倉庫の奥の段ボールに3年分積まれていて、探すだけで2時間かかったことも書き添えておく。埃だらけの箱を開けながら、こんな基本的な記録すら普段は見に来ていなかった自分に気づかされた。数え終えたのは昼を過ぎたころで、結局その日は現場と倉庫を3往復することになった。

2回目の差し戻しの壁

一度は自信を持って報告書を書き直したが、2回目もそのままでは通らなかった。今度の指摘は「原料変更と刃物摩耗の関係を示すデータが弱い」というものだった。摩耗の進み方が速くなったことは分かっても、原料変更が原因だと言い切るには、変更前後を比較する数字が要ると言われた。悔しかったが、たしかに感覚で「速くなった」と書いていただけで、変更前の摩耗速度を数字で示せていなかった。

2回目の差し戻しは、1回目よりも痛かった。せっかく現場まで戻って確かめたのに、まだ足りないと言われた分だけ、こたえ方の種類が違っていた。

原料変更前後の摩耗速度 ※筆者の運用記録(対象:交換記録6か月分)
原料変更前後の摩耗速度 ※筆者の運用記録(対象:交換記録6か月分)

3人目の目を借りた

3度目の提出前に、今回は品証にも製造にも属さない同期の検査員に、下書きの段階で読んでもらうことにした。頼むこと自体、これまでの自分なら「1人で仕上げるべきだ」とためらっていたと思う。彼女から返ってきたのは「原料変更前後の摩耗速度の比較が本文のどこにも数字で出ていない」という、まさに指摘された弱点そのものだった。自分では見えていたつもりの穴が、他人の目には最初から見えていた。変更前3か月分と変更後3か月分の交換記録を並べ、摩耗速度が平均で1.6倍になっていた数字を本文に加えて、ようやく3度目の提出にこぎつけた。

彼女には後日、コーヒーを1杯お礼に渡した。渡しながら「また頼んでいいか」と伝えると、笑いながら頷いてくれたので、それ以来ときどき下書きを見てもらう関係が続いている。

通った報告書と捨てた癖

3度目の報告書は、修正なしで通った。振り返ると、通らなかった2回はどちらも「なぜ」を途中で止め、都合のいいところで対策に飛びついていた。今回やめたのは、原因を1段掘ったところで「これで十分伝わるだろう」と決めてしまう癖だ。伝わるかどうかは書いた本人が決めることではなく、読んだ相手が決めることだと、今さらながら実感した。班長からは「3回もかかったけど、内容は別物になった」と言われ、素直に嬉しかった。

提出から承認までにかかった日数を数えると、1回目から3回目まで合わせて9日。1回で通っていれば2日で済んでいた計算になり、遠回りの分だけ時間も費やしたことになる。

差し戻し1〜3回目の内訳 ※筆者の運用記録(対象:提出から承認まで)
差し戻し1〜3回目の内訳 ※筆者の運用記録(対象:提出から承認まで)

報告書の書式そのものも変えた

この経験を班のミーティングで共有したところ、報告書の様式に「根拠データの出典」という欄を新しく設けることになった。原因欄に何かを書くときは、必ずその根拠になった記録の場所と期間を併記する決まりだ。最初は「欄が増えると面倒だ」という反対の声も班内から出たが、課長を巻き込んで30分ほど話し合い、既存の様式にA4を1枚分だけ追加する形で折り合いをつけた。

様式を変えてから半年、班全体の差し戻し件数は月平均3件から1件へ減った。ゼロにはなっていないが、少なくとも「言葉だけ変えて中身は同じ」という差し戻しは今のところ出ていない。担当が変わっても欄の意味が伝わるよう、記入例のサンプルも様式の裏に添えている。様式を配り直した初日は、記入例を見ながら首をかしげる班員が何人もいて、説明に思いのほか時間を取られたことも記録しておく。

様式変更後の差し戻し件数 ※筆者の運用記録(対象:班全体・半年間)
様式変更後の差し戻し件数 ※筆者の運用記録(対象:班全体・半年間)

後輩の下書きも見るようになった

この出来事のあと、後輩から是正処置報告書の下書きを見てほしいと頼まれる機会が増えた。読むときに聞くのは決まって「そのなぜは、何段目ですか」の一言だけだ。答えに詰まる後輩がほとんどで、かつての自分を見ているようで苦笑いすることも多い。先日も、3段目で止まっていた後輩の下書きに同じ質問をしたところ、翌日には現場に戻って4段目、5段目まで自分で調べ直してきた。提出した報告書は差し戻されずに通り、本人よりも自分のほうが安堵した。

教えるつもりが、教えながら自分の癖を思い出す時間になっている。

今回変えたこと3つ

なぜなぜ分析を5段目まで紙に書き切ってから提出する。原因に数字の裏付けがあるかを提出前に自分で確認する。身内ではない第三者に下書きを読んでもらう一手間を挟む。この3つを守るようになってから、差し戻しの回数は減ったが、ゼロになったわけではない。先月も、別の不良で2段目までしか掘れずに提出し、差し戻しを1回受けた。3つのルールを決めても、忙しさに流されて手を抜く自分がまだいる。次の報告書でまた同じ指摘を受けないとは、正直まだ言い切れずにいる。

『考える技術・書く技術』という本に「結論を支える根拠がピラミッドの土台になっているか」という考え方が出てくるが、当時の自分の報告書はまさに土台のない結論だけを積んでいたのだと、今になって思う。

是正処置報告の書き方そのものの型や、なぜなぜ分析の進め方の基準については、ものづくりポータルの是正処置ページにまとめているので、様式から見直したい人はそちらも参考にしてほしい。

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本文で触れた一冊。結論を根拠が支える形になっているか、という見方をこの本で覚えた。

考える技術・書く技術新版 問題解決力を伸ばすピラミッド原則 [ バーバラ・ミント ]

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本記事は筆者個人の体験に基づく記録であり、特定の企業や手法を推奨するものではない。是正処置の様式や承認プロセスは、事業所ごとの品質マネジメントシステムの規定に従って判断してほしい。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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