四半期の品質目標を決める会議で、私は去年とほぼ同じスライドを映していた。「不良率0.5%以下」。数字は毎年ほとんど変わらず、参加者の反応も同じだった。誰も反対はしないが、誰も自分の仕事と結び付けていない顔をしている。
去年もこの空気だった。
品質保証部の管理職になって、10人ほどの部下と一緒に品質目標を回してきた。製造業での実務歴は10年を超えたが、この目標設定の場だけは、何年たっても同じ手応えのなさが私に残っていた。数字を決めることと、現場の誰かが明日から違う動き方をすることの間に、埋まらない溝があると感じていた。会議の後、若手の一人に「今期の目標、どう思う」と聞いてみたら、「毎年同じ数字なので、あまり意識したことがないです」と返ってきた。飾らない答えだったが、こたえた。
自席に戻ってから、過去数年分の目標設定資料を引っ張り出して読み返してみた。掲げている数字の桁は年によって多少動いているものの、資料の構成はほとんど同じだった。前年の実績を確認し、少しだけ厳しい数字を上に乗せて終わる。行動計画の欄は、毎回「周知徹底」「意識向上」といった言葉で埋められていて、誰が何をするのかが一度も書かれていなかった。書いている本人が、私だった。
数字だけの目標をやめる計画

今期は目標の数字を掲げるだけで終わらせず、3か月かけて「行動」まで落とし込むと決めた。思いつきで動くと途中で崩れるので、先に大まかな見取り図をホワイトボードに書き出した。最初の2週間で現状を洗い出し、次の2週間で行動リストを作り、続く1か月半でリストを実際に試し、最後の2週間で定着させながら振り返る。足すと12週、およそ3か月の計画になった。
この見取り図は会議で部下にもそのまま見せた。「途中で計画通りにいかない所も出ると思う」と最初に断ったのは、過去に同じような取り組みを掲げて途中で立ち消えになった記憶があったからだ。以前にも似た号令をかけたことがあったが、2か月目には誰も進捗を追わなくなっていた。今回はその二の舞にしたくなかった。
部下の反応は様々だった。「またか」という顔をした人もいれば、「今度は最後までやるんですか」と念を押してきた人もいた。その念押しに、私は「やる」とだけ答えた。過去に立ち消えになった取り組みでは、進捗を確認する場そのものを決めていなかった。今回はその反省を踏まえ、隔週の定例会議の冒頭5分を、この計画専用の確認時間として先に押さえておいた。
1週目 現状の棚卸し

まず過去半年分の不良票をすべて洗い出し、原因別に分類した。材料起因が12件、作業起因が18件、設備起因が7件で、合計37件だった。数字を目標に掲げていた半年間、これほど分類してみたことすらなかったことに、あらためて気づかされた。
作業起因が最も多いという結果は、正直なところ予想通りだった。ただし内訳を見ると、同じ工程で同じような見落としが繰り返されているものが目立った。検査前の段取り替えの直後に不良が集中する傾向も見えてきた。原因が分かれば手は打てる。この時点では、まだ楽観していた。
棚卸しの作業自体は、部下2人と手分けして3日ほどかかった。「こんなに材料起因が少ないとは思わなかった」という感想も出た。数字を分類するだけで、現場の実感とのずれが見えてくるのだと知った。
分類の途中、原因欄が空欄のまま処理されている古い不良票がいくつか混ざっているのに気づいた。当時の担当者はすでに異動していて、詳しい経緯を今から確認するのは難しい。これらは今回の37件の集計からは外し、別枠の「経緯不明」として記録だけ残すことにした。完璧な分類にはならなかったが、実態に近い形で先へ進むことを優先した。
3週目 リストが動かない

洗い出した原因をもとに、部下と一緒に行動リストを作った。「表示を大きくする」「ダブルチェックを追加する」「治具を改修する」など、思いつく限りの案をホワイトボードに挙げていったら23項目になった。網羅性には満足していた。
ところが3週目に進捗を確認すると、23項目のうち着手できていたのは0件だった。担当者を決めていなかったこと、期限を切っていなかったこと、そして何より「23個もあると、どれから手を付ければいいか分からない」という部下の声が、そのまま理由になっていた。リストを作った時点で満足してしまい、実行の設計を後回しにしていた自分に気づいた。
この週は少し落ち込んだ。数字だけの目標をやめようとして、結局また「作って終わり」の資料を増やしただけだったからだ。
また同じ轍かと思った。
その晩、なぜ動かなかったのかを一人で考え直した。原因は項目の中身ではなく、数の多さそのものにあった。誰かがやってくれるだろうという空気は、担当を決めない限りいつまでも消えない。分かっていたはずのことを、また忘れていた。
翌朝、部下の一人に率直に聞いてみた。「どれも大事そうに見えて、選べませんでした」という答えが返ってきた。優先順位を付ける作業ごと、私が部下に投げてしまっていた。ここでようやく合点がいった。
6週目 5つに絞る

23項目を一度すべて白紙に戻し、優先順位を付け直した。発生件数が多い作業起因の見落としに直結する項目だけを残し、最終的に5項目に絞った。それぞれに担当者を1人ずつ割り当て、着手日と完了予定日も決めた。
6週目の時点で、5項目のうち2項目は順調に進んでいた。表示の変更とダブルチェックの追加はすぐに手を付けられる内容だったからだ。残る2項目も着手はできていて、まだ途中という段階だった。一方で治具の改修だけは、外注先の見積もり待ちで止まっていた。「予算がつくまで動けない」という現実的な壁にぶつかったのも、この週だった。順調な所とつまずいた所が、同時に見えてきた期間でもあった。
担当者からは「見積もりが来るまで何もできないのがもどかしい」という声も上がった。私にできたのは、その項目だけ完了予定日を1か月後ろ倒しにし、他の4項目を予定どおり進めることだけだった。全部を同じ速さで進めようとせず、止まっている項目は止まっていると認めて別扱いにする。当たり前のようで、23項目を抱えていたころの私にはできていなかった判断だ。
3か月後の集計

3か月が終わった時点で、5項目のうち4項目は完了し、治具の改修だけが未完了のまま次期に持ち越しになった。投入した工数は、洗い出しから定着までの全期間を合わせておよそ40時間。追加でかかった費用は0円だった。既存の仕組みの範囲で直せる項目を優先したためだ。
不良率は0.6%から0.4%まで下がった。掲げていた目標の0.5%は結果として達成できたが、私が一番残したかったのは数字そのものではない。次の目標設定の会議で、部下の一人が「今度は自分から行動案を出したい」と言ってきたことの方が、正直うれしかった。
治具の改修は、まだ終わっていない。数字だけを見れば未達の項目だが、なぜ止まっているかが全員に共有されている状態は、以前の「数字だけの目標」では一度もなかったことだ。以前なら、この未達は誰にも気づかれないまま来期に持ち越されていたはずだ。
振り返りの会議で、最初に「毎年同じ数字なので意識したことがない」と言っていた若手が、「今期は自分が担当した項目が終わったので、少しだけ自分ごとになりました」と話してくれた。数字が同じでも、そこに至る道筋が変われば受け取り方も変わるのだと感じた。
今も正解だったかは分からない。23項目を作った3週目の遠回りがなければ、もっと早く5項目にたどり着けたはずだという反省は残っている。ただ、あの遠回りを経たからこそ、部下に優先順位を丸投げしていた自分の癖に気づけたのも事実だ。次に同じ場面が来たら、最初から絞り込みの基準を一緒に決めるところから始めたい。
数字を決める会議は、来期もまた同じ部屋である。今度は資料の行動計画欄に、誰が何をするかを、私自身の手で書き込むつもりでいる。「周知徹底」という言葉は、もう二度と資料に書かないと決めている。代わりに書くのは、誰が、いつまでに、何をするかという3つだけだ。
行動リストを先に作りたくなる気持ちは分かる。ただ、原因の内訳が見えていない状態で項目を並べると、今回の23個のように手が広がって動かなくなる。絞る痛みは、洗い出しを丁寧にやるほど後で軽くなる。私はこの順番を逆にした。
目標と行動のつなぎ方は、ものづくりポータルのKPI・品質目標の管理にも整理されている。制度としての組み立て方を知りたい方はあわせて参照してほしい。
参考書籍
安藤広大氏の『数値化の鬼』には、数字を出したあとに何をするかまで書かれている。23項目で止まっていたころに読み返して、絞る基準を決めるところで参考にした。
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品質カレンダーを1か月使ってみて、結局何が変わったか: 掲げた仕組みを1か月使い続けられたかどうかの記録。作った後に何が起きるかという点では、今回と同じ場所を見ている。
形骸化していた品質会議を立て直そうとしてみた話: 報告のための場になっていた会議を、行動につながる場に変えようとした経緯を書いている。
本記事は筆者個人の運用記録に基づく体験談です。目標設定の進め方は組織の規模や体制によって異なるため、導入の際は自社の状況に合わせて検討してください。