月曜の朝礼が始まる十分前、出荷担当のパートさんが伝票の束を持って事務所の机の前に立っていた。「今日出た分なんですけど、品番のケタが一つだけ違う気がして」。声のトーンは低く、確信は半分くらいだったと思う。手元の出荷伝票と前日の実績表を並べてみると、たしかに一件だけ品番の下二桁が入れ替わっていた。本来「-12」であるべきところが「-21」になっている。同じ形状違いの派生品が存在する品番で、見た目だけでは区別がつきにくい組み合わせだった。
気づいたのは朝礼前の十分
該当のロットはL-0714、数量は五ケース分のうち一箱、四十八個。届け先は隣県の組立メーカーで、こちらでは「協力工場」と呼んでいる先だった。金曜の夕方に出荷準備をした際、伝票の品番欄を手書きで転記する工程があり、そこで二桁を入れ替えて書いてしまったらしい。現品自体は正しい品番のものが箱に入っていたのか、それとも伝票どおりの誤った現品が入っていたのか、この時点ではまだ分からなかった。まず箱の現物ラベルと出荷伝票、受注控えの三つを机に並べ、一つずつ突き合わせることから始めた。

伝票と現物を並べてみた
現物の箱には正しい品番のラベルが貼られていた。つまり中身は合っていて、伝票の記載だけが誤っていたことになる。ここで少し安堵したが、安堵している場合ではないとすぐに思い直した。伝票が誤っていれば、受け取った側の受入検査や在庫システムでは「-21」として登録される可能性がある。現品と記録がずれたまま在庫が動けば、次にその品番を発注したときに数が合わなくなる。品質そのものの不適合ではなく、記録と現品の不一致という別種の不適合として扱う必要があると判断した。ここで、自分のポータルにまとめた初動の切り分けの型を思い出し、まず「現品は良品か」「記録は正しいか」を分けて考えることにした。
他の出荷履歴も横串で見た
同じ担当者が同じ日に転記した伝票は他に何件あるか、直近三日分の出荷記録を横串で見直した。対象の三日間で出荷件数は十二件、そのうち品番欄を手書きで転記していたのはこの一件を含めて四件だった。残り三件を現物と突き合わせたところ、幸い相違はなかった。ただし、この確認をする前は「一件だけの単発ミス」だと思い込んでいたので、横串で見なかったら見落としていたかもしれない。四件中一件という結果は、偶然と言えば偶然だが、同じ工程を通った他の伝票を疑わずに済ませる理由にはならないと感じた。

届いた側とこれから届く側
連絡が必要な相手は二方向あった。一つは実際に誤った品番の伝票を受け取った協力工場、もう一つは、まだ出荷していないが同じ品番を発注している別の顧客だ。前者には、現品は正しいが伝票の表記に誤りがあった旨を先に電話で伝えた。訂正した伝票はその日のうちに追送した。後者については今回のミスと直接の関係はない。ただ同じ工程を通る出荷である以上、念のため出荷前の確認を一段階増やして送り出した。連絡文面は用件を先に置き、経緯の説明は後にまわす形にした。回りくどい説明から入ると、相手が最初に知りたい「現品に問題はないか」が伝わるまで時間がかかる。以前の依頼メールの件で学んだことが、ここでも生きた。
回収するかしないかの線引き
今回は回収に踏み切らなかった。判断の軸にしたのは三つある。現品の品質に問題がないこと、混入や取り違えのリスクが実際には発生していないこと、表示の誤りが受け取った側の使用に支障を与えない範囲であることだ。逆の場合もある。現品自体が違う仕様のものだったり、複数の品番が同一梱包に混在していたりする場合は、迷わず回収の方向で動くと決めていた。この線引きを言葉にしておかないと、現場は「念のため全部回収」か「大丈夫だろうで済ませる」のどちらかに振れやすい。今回は前者でも後者でもない、記録の訂正と再発防止という着地点を選んだ。この判断が甘かったのかどうかは、正直まだ完全には言い切れない。

現品の品質は別で確認した
伝票の誤りとは切り離して、現物四十八個の外観と寸法も念のため再確認した。抜取りではなく全数、担当者二人で目視と簡易ゲージによる寸法確認を行い、結果はすべて規格内、外観不良もゼロだった。ラベル違いの騒ぎのなかで「現品も怪しいのではないか」という空気が広がりかけた。しかし品質不良と表示不良は別の不適合であり、混同して扱うと本来の原因究明がぼやける。今回は現品の品質を独立して確認し、記録として残した。おかげで後日の是正処置報告でも「現品への影響はなし」と明確に書くことができた。使った道具はいつものノギスと、寸法チェック用のシックネスゲージだけで、特別な検査設備を持ち出したわけではない。特別な対応に見せないことも、実は大事だと思っている。大げさに構えると、現場は「今回だけ特別に厳しくやっている」と受け取り、次に似たことが起きたときに同じ丁寧さで確認してくれるとは限らない。
なぜ気づけなかったのかを辿る
再発防止を考えるときにまず辿ったのは、なぜ転記ミスが起きたかではなく、なぜ出荷前にそのミスに誰も気づけなかったかという点だ。出荷前のダブルチェックの欄は伝票の様式にあった。しかし実際には最終出荷者一人の判断で押印されており、二人目の確認は形だけになっていたわけだ。チェック欄があること自体が「確認している証拠」に見えてしまい、実態が伴っていなかった。これは以前、5S点検表が点をつけるだけになっていた件と同じ構造だと気づいた。仕組みはあるのに、仕組みが仕組みとして機能していない状態だ。
最初のやり方は失敗した
実を言うと、最初に考えた再発防止策はうまくいかなかった。当初は「品番転記時にダブルチェック欄へ二人目のサインをもらう」という、既存の欄をそのまま活かす案を出した。ところが翌週には早くも、サイン欄に最終出荷者本人の印が二つ並んで押されている伝票が見つかった。忙しい時間帯には、隣の担当者を呼びに行く数十秒すら惜しく感じられ、結局は自分で確認したことにして片方の欄を埋めてしまう。これは以前の担当者を責めるべき話ではなく、仕組みの設計が甘かったのだと思う。二人目の確認を「サイン」という結果だけで管理していたため、実際に確認したかどうかを後から見分ける手段がなかった。
現場から出た反対の声
二度目の案として、現物ラベルの指差し確認を終えてから梱包テープを貼るという順番の入れ替えを提案した。すると出荷担当のリーダーから「一件あたり一分は延びる、繁忙期はきつい」という率直な反対が出た。数字で示してほしいと言われたので、実際に一週間だけ試してもらった。結果は平均で一件あたり四十秒の増加にとどまり、一日の出荷件数二十件強で計算しても十五分程度の増加で収まることが分かった。この数字を持ってもう一度話し合い、繁忙期は担当を一人増やすことと引き換えに、通常運用にはこのまま入れることで合意した。反対意見を数字で受け止め直したことが、結果的に定着につながったと感じている。
伝票の並びを一つ変えた
最終的に落ち着いた再発防止策はこうだ。伝票の品番欄の隣に、現物ラベルを指差し確認したことを示すチェック欄を新設した。最終出荷者とは別の担当者が確認欄に記入するまで、梱包を出荷エリアへ移動させない運用に変えている。順番を「梱包してから伝票を書く」から「伝票の品番を指差し確認してから梱包を締める」へ入れ替え、確認者の欄には日付入りの認印を使うことで、後から「本当に確認したか」を追えるようにもした。この三か月、同種の品番相違は発生していない。もっとも、母数がまだ小さいので、この対応が本当に効いているのか、単に運が良かっただけなのかは、もう少し時間をかけて見ていく必要があると思っている。

三か月後に数え直した
運用を変えてからちょうど三か月が経った時点で、確認欄の記入状況をあらためて数え直してみた。対象期間の出荷伝票二百十四件のうち、確認欄が空欄のまま出荷エリアに送られていたものはゼロ件だった。確認者と最終出荷者が同一人物になっていたものも見当たらない。数えている間、正直なところ「またどこかで空欄が見つかるのではないか」と身構えていたが、結果を見る限りは定着していると言ってよさそうだ。ただし三か月という期間はまだ短く、繁忙期の年末を一度経験しないと本当の意味での定着とは言い切れないとも思っている。

記録に残すという発想
今回の一件をまとめる過程で、以前読んだ畑村洋太郎の『失敗学のすすめ』を思い出した。失敗を個人の恥として隠すのではなく、組織の記録として蓄積するという考え方だ。誤出荷やラベル違いは、原因を辿ると単純な転記ミスであることが多く、報告書にすると「不注意でした」の一言で終わらせてしまいたくなる。しかし今回は、発覚から連絡、現品確認、再発防止までの経緯を、あえて時系列で細かく書き出してみた。すると、二人目の確認が形骸化していたという構造上の弱さが、初めて言葉になった。個人の注意力の問題として片づけていたら、同じ弱さは半年後にまた別の形で表面化していたと思う。
誤出荷やラベル違いは、現品そのものは良品であることが多い分、通常の不良対応とは違う難しさがある。品質は問題ないのだから大ごとにしなくていい、という空気と、記録が違えば後々まで尾を引く、という警戒感の両方を同時に持っておく必要があると、この一件で実感した。
本記事は筆者個人の経験に基づく一般化した記述であり、特定の企業・製品を示すものではない。誤出荷・回収の判断基準は業種・製品特性・社内規程によって大きく異なるため、実際の対応は自社の基準に従っていただきたい。
誤出荷・ラベル違い発生時の一般的な対応の型は、ものづくりポータルの誤出荷・ラベル違い発生時の対応にまとめている。
参考書籍
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次に読む
- 特採を出すかどうかで一番迷った日の話 — 規格外れをどこまで許容するか、線引きに迷った判断談。
- 校正シールが切れた測定器を朝いちで見つけたときにやったこと — 現品と記録の食い違いにどう向き合ったかが今回の話と重なる。