- 場面
- 測定器の購入稟議が、決裁の途中で差し戻された
- 対象
- 測定器の購入稟議を起案する品質保証・検査の担当者
- 使うもの
- 候補の比較、耐用年数の間の金額の内訳、来期まで待つ場合の手当ての比較
- 要点
- 機種の根拠、金額、時期の順に直し、目的の欄は最後に書き換える
測定器の購入稟議に決裁者が入れる赤字は、機種を選んだ根拠、金額の中身、今期に買う理由の3か所に振り分けて直す。目的の欄への赤字は、この3か所を直してから書き換える。
書き直すときは、機種の根拠から直す。機種が決まれば金額の中身が決まり、金額が決まれば、借りる・外に頼むといった買わない場合の手当てと比べられる。
たとえば、新しい品番の外径が公差±0.01mmになり、手元のデジタルノギスでは合否を決められないので、工程に置くデジタルマイクロメータ3本の稟議を出したとする。戻ってきた稟議書には「なぜこの機種か」「これで全部か」「今期でないと困るのか」と書かれた付箋が付いている。
赤字が入る欄と書き足すもの
| 欄 | 書き足すもの |
|---|---|
| 機種の欄 | 公差と最小目盛りの比べ、候補の比較 |
| 金額の欄 | 付属品、校正証明書、買ったあとの校正費、経理での扱い |
| 時期の欄 | 来期まで待つ間の手当てと、その費用と日数 |
どの欄も、比べた相手を書き足して答える。機種なら手元の測定器、金額なら買ったあとにかかる費用、時期なら来期まで待つ場合が、比べる相手になる。
機種の根拠は公差から書く
機種の欄には、測る寸法の公差と、その公差に対して最小目盛りが足りる理由を書く。私は、最小目盛りが公差幅の10分の1以下かどうかで線を引く。これより粗いと、測った値が2〜3種類の数字にしかならず、合否の境目で値の揺れが目盛りの中に隠れる。
例の外径なら、公差幅は0.02mmで、その10分の1は0.002mmになる。最小目盛り0.01mmのデジタルノギスはこの線より粗く、0.001mmのデジタルマイクロメータなら線の内側に入る。候補は次のように並べて稟議書に付ける。
- 手元のデジタルノギス(最小目盛り0.01mm):線より粗い
- デジタルマイクロメータ(最小目盛り0.001mm):足りる
- データ出力付きのデジタルマイクロメータ(最小目盛り0.001mm):足りる
足りる候補が複数あるなら、高いほうを選ぶ理由を書く。例なら「測定値をそのまま検査記録へ送れるので、転記の欄が要らなくなる」が理由になる。同じ機種を扱う販売店が複数あれば、見積もりもそれぞれから取って付ける。
客先が機種を指定しているときは、指定が書かれた仕様書の該当ページを添える。見積もりを取れる先が限られていても、選んだ理由はそのページで説明がつく。
金額の欄に入れるもの
金額の欄には、本体の価格のほかに次のものを並べる。
- 付属品:スタンド、データ出力のケーブル、測定面の保護具
- 納入時の校正証明書:付けるかどうかで見積もりの額が変わる
- 耐用年数の間の校正費:毎年、外部の校正事業者に出す場合の額(1本の年額×本数×耐用年数)
- 設置と教育の時間:測る人への説明と、作業標準の書き換え。額にしないなら、時間だけを欄の下に1行で書く
見積もりの期間は耐用年数にそろえる。ノギスやマイクロメータのように持ち運んで使う測定器は、法定耐用年数の表で測定工具・検査工具に入り、耐用年数は5年になる。据え置きの測定機は別の区分に入ることがあるので、経理に確かめる。
例の3本なら、設置と教育の時間を除いた合計は次の額になる。
| 内訳 | 額(例) |
|---|---|
| 本体(3本) | 135,000円 |
| 付属品と校正証明書 | 15,000円 |
| 校正費(5年分) | 120,000円 |
| 合計 | 270,000円 |
耐用年数の間で見ると、校正費は本体の額に近づく。本体だけを書いた稟議書は、この校正費の説明が抜けたまま決裁に回る。
経理の扱いは先に聞く
経理の扱いは、取得価額が10万円未満かどうかで分かれる。10万円未満なら、事業に使い始めた年度の決算で費用として処理すれば(損金経理)、税金の計算でも全額をその年度の費用にできる。判定は「通常1単位として取引されるその単位ごと」に行う。例の3本は、1本ずつ見れば10万円未満、組で見れば10万円以上になる。どちらで見るかを経理に確かめ、金額の欄に「1本単位で判定する想定(経理確認済み)」のように1行添える。10万円以上なら一括償却資産や中小企業者等の特例などの扱いがあり、税制改正で線が動く年もあるため、区分の判断は経理に任せる。
時期の欄は待つ場合と比べる
「今期でないと困るのか」には、来期まで待つ間の手当てと並べて答える。測定器の手当ては、同じ測定器を借りるか、外部の試験所に測定を頼むかになる。例で、来期まで半年待つとして比べる。
- 今期に買う:150,000円(買うときだけ)。結果はその場で出る。校正の管理が社内で増える
- 借りる:半年で144,000円。結果はその場で出る。来期に買う費用は別にかかる
- 外に頼む:半年で288,000円。結果が出るまで3日かかり、その間は出荷の判定が止まる
待つ手当ての費用は、来期に買う額に上乗せになる。例なら、借りるだけで、買う場合に近い額が半年で消え、外に頼めば出荷の判定もロットごとに遅れる。この比べを時期の欄に書けば、今期に買う理由を決裁者の側でも計算できる。
書き直す順番
赤字を欄ごとに振り分けたら、次の順で直す。
- 機種の欄:公差と最小目盛りの比べと、候補の一覧を足す。
- 金額の欄:付属品、校正証明書、耐用年数の間の校正費を並べ、経理に確かめた扱いを1行添える。
- 時期の欄:来期まで待つ間の手当てと、その費用と日数を並べる。
- 目的の欄:1から3で書いたことを2文にまとめ、稟議書の冒頭に置く。
例なら目的の欄は「新しい品番の外径を工程で合否判定するため、デジタルマイクロメータを3本買う。来期まで借りて待つと、買う額とは別に半年で144,000円かかる。」の2文になる。目的の欄を先に直すと、機種や金額が変わるたびに冒頭も書き直すことになる。再提出の稟議書には、付箋ごとに、どの欄のどの行で答えたかを表紙に1行ずつ添える。
差し戻された稟議書が手元にあるなら、付箋の赤字を機種・金額・時期の欄に振り分け、機種の欄から直す。金額の欄を書く前に、校正を頼んでいる先へ1本あたりの校正費を問い合わせ、経理には10万円未満の判定をどの単位で見るかを聞く。
今期の決裁が下りず、書き直した稟議を来期の予算要求に回すときは、ものづくりハンドブックのA13 品質保証の年間計画・予算要求の立て方にある「現状の課題→対策→必要金額→期待効果」の順で並べ替える。機種の根拠は対策、耐用年数の間の金額は必要金額、待つ場合との比べは期待効果の行に入る。
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決裁者を買う側の1人と見るなら、ジョセフ・シュガーマン『シュガーマンのマーケティング30の法則』が手がかりになる。人がものを買うと決めるときの心理を30の項目に分けた本で、金額の欄に何を並べるかを決める前の下読みに使える。
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1人が印を付けた同じ1個を同じ測定器で10回測り、範囲の2倍を公差幅と比べる確かめ方。届いたデジタルマイクロメータを合否判定に使い始める前に、この記録表を1枚埋める。

年度の予算の中で測定器以外の案件と並べるなら、下の記事で、出荷や認証が止まるか、すでに払った・失った金額があるか、効果を数字で言えるか、担当者がやりたいだけか、の順に基準を当てて根拠を付ける並べ方が読める。

免責: 本記事は、製造現場でよくある場面をもとにした事例と、書式・手順の作例です。数値は説明のための例です。稟議の決裁基準や資産・費用の経理処理は会社と年度によって異なるため、実際の手続きは自社の規程と経理部門の判断に沿って進めてください。