校正シールが切れた測定器を朝いちで見つけたときにやったこと

期間
2026年8月17日(発見当日の対応)
対象
デジタルノギス1台(NG-014)・検査記録9件・ロット3件
体制
管理表の見直しは4人(班長・品証・検査員2人)
結論
全部止めてから数えて絞り込む順番が効いた。

月曜の朝7時40分、検査室の電源を入れた。ノギスの棚を眺めていたら、いつも一番手前にあるはずのデジタルノギスが見当たらない。探してみると隣の作業台に置きっぱなしになっていて、拾い上げた瞬間、グリップ部分の校正シールの色が妙に薄いことに気づいた。日付は先週の金曜、有効期限切れだった。土日を挟んで3日、誰かがこれで何かを測ったかもしれない。心臓が少し跳ねたのを、私はいまでも覚えている。

目次

朝いちで気づいた違和感

校正シールは有効期限の月に色が変わる仕組みで、今回は黄色から赤への切り替わりを見落としていた。管理番号はNG-014、前回校正は5か月前の3月で、周期6か月なら本来あと1か月の猶予があるはずだ。ところが台帳を確認すると、購入時の初回校正日を基準に周期を数え間違えたまま転記していて、実際の期限は8月14日の金曜だった。3日間、誰かの手に渡っていた可能性がある。棚に戻す前に写真を撮っておいたのだが、後で見返すとシールの角がめくれかけていて、色の変化にも気づきにくくなっていた。

劣化と見落としが重なった格好だった。

まず止めたこと3つ

最初に手を付けたのは、その測定器を使用禁止の赤いタグで縛って検査室の外に出す作業だった。直近3日間の検査記録も洗い出し、NG-014の管理番号が記録欄に書かれている作業を止めた。その測定器で確認した製品が含まれるロットの出荷も一時保留にした。

止めた対象は現物1台、記録9件、ロット3件になる。

どこまで広げていいのか手を止めた時点では正直迷ったが、疑わしいものは全部止めてから絞り込むほうが後で楽だと以前の現場で学んでいた。実際、出荷担当からは「保留の範囲が広すぎないか」と聞かれたが、そこは譲らず3件とも止めたままにした。

気づいてから対応までの流れ ※筆者の運用記録(対象:当日の対応手順)
気づいてから対応までの流れ ※筆者の運用記録(対象:当日の対応手順)

校正切れの怖さを数えた

落ち着いてから、被害の範囲を数字で洗い出した。3日間で記録に残っていた測定は9件、対象ロットは3件、1ロットあたりの数量は120個から180個で合計およそ430個。すべてを再測定するとなると検査員1人で丸1日はかかる規模だった。数えてみて初めて、感覚で「たいしたことない」と思っていた自分の見立てが甘かったことに気づいた。数字にする前と後では、同じ出来事でも重みがまるで違って見える。土曜に出勤していた別の班の担当者にも確認を取ったところ、金曜の遅番でこの測定器を使った記憶があるとの返事で、記録に残っていない使用が1件増えた。記録に残らない使用があること自体、今回初めて知った。

数えてみた被害の範囲 ※筆者の運用記録(対象:検査記録・期間3日間)
数えてみた被害の範囲 ※筆者の運用記録(対象:検査記録・期間3日間)

上司と品証への連絡順

連絡はまず班長への口頭報告を優先し、その5分後に品証の担当者へ内線を入れた。2人へ同時に伝えることも考えたが、現場の一次情報を先に班長へ入れておかないと、後から「聞いていない」という食い違いが起きやすい。過去の失敗で学んでいる。品証への連絡では、管理番号・前回校正日・使用禁止にした時刻・対象と思われる記録件数の4つだけを先に伝えた。詳しい経緯は書面を整えてから追って報告する形にしている。要点だけを先に渡す短い連絡のほうが、結果として品証側の初動も早かった。

品証の担当者からは開口一番「まず何を止めましたか」と聞かれ、止めた3つをそのまま答えられたのが救いだった。

疑わしきロットの選別

対象ロットの絞り込みには、検査記録に押してある測定器の管理番号印を1件ずつ確認する作業が要る。9件の記録を見比べたところ、実際にNG-014を使っていたのは6件で、残り3件は別の測定器の番号だった。思い込みで9件全部を疑わしいロットにしていたら、余計な再測定と出荷遅延を招くところだった。数える作業は地味だが、ここを飛ばすと被害の見積もりそのものが狂う。

管理番号の印は小さく薄いことが多く、老眼鏡を借りて確認したのも今回初めてだった。1件だけ印がかすれて判読できず、記録した本人に直接聞きに行く手間もかかった。

代替器と再測定でつまずいた話

再測定には、前月に校正が済んでいる予備のノギス(管理番号NG-021)を使うことにした。保管棚の奥から予備器を出すのは今回が初めてで、思ったより埃をかぶっている。6件分の寸法を測り直そうとしたところ、1件目でいきなり手が止まった。予備器の電池残量表示が点滅していて、測った値がどこまで信用できるのか自信が持てなかったからだ。電池を交換してから測り直すという、余計な一手間が増えた。仕切り直して測定した結果、規格内であることを確認できたのは4件、残り2件は規格の下限に近い値が出たため、念のため三次元測定機での追加確認に回した。結果はどちらも規格内だったが、ノギスだけの判断で終わらせなくてよかったと思っている。予備器の電池まで見ていなかったことのほうが、今回の本当の反省点かもしれない。

予備器で測り直した結果 ※筆者の運用記録(対象:再測定6件)
予備器で測り直した結果 ※筆者の運用記録(対象:再測定6件)

校正期限管理表を見直した

一連の対応が終わったあと、原因になった管理表を見直すことにした。これまではExcelの一覧表に次回校正日を手入力し、色分けは目視で毎月更新する運用だった。今回、初回校正日からの周期計算を1か月分間違えたまま表に転記していたことが分かる。対応として、次回校正日を関数で自動計算する列を追加し、期限の14日前で黄色、期限当日で赤になる条件付き書式に変えた。あわせて、棚に置く測定器そのものにも大きめの期限シールを貼り直し、台帳と現物の両方で確認できるようにする。表だけ直しても現物を見なければ同じことが起きると分かっていたので、この2本立てにこだわった。

見直しの場には班長と品証、それに測定器を実際に使う検査員2人を呼び、4人で表の項目を1つずつ確認しながら決めている。会議は40分の予定が70分に延びたが、後から手戻りするよりましだと思う。

管理表を見直した前後 ※筆者の運用記録(対象:校正期限管理表)
管理表を見直した前後 ※筆者の運用記録(対象:校正期限管理表)

他の測定器も全部見て回った

管理表を直しただけでは不安が残ったので、その日のうちに検査室にある測定器18台のシールを1台ずつ目視で確認して回った。結果、NG-014のほかにもう1台、期限まで残り4日というノギスが見つかった。こちらは黄色のシールがまだ貼られたままで期限内ではあったが、危うく次の見落としになりかけていたと言っていい。18台のうち2台に問題があった計算になり、比率にすると1割を超える。この数字を見て、シールの色分けだけに頼る仕組み自体に無理があったのだと納得した。

検査室18台を点検した結果 ※筆者の運用記録(対象:検査室内測定器18台)
検査室18台を点検した結果 ※筆者の運用記録(対象:検査室内測定器18台)

後日の是正処置書で書いたこと

3日後、品証から正式に是正処置報告書の提出を求められた。原因欄には3つを分けて書いた。初回校正日を基準にした周期計算の誤り、シールの色劣化への気づきにくさ、月次の目視確認が形だけになっていたこと、の3点だ。対策欄も3つに分けている。Excelの自動計算列の追加、期限シールの貼り替え、月初1週目の朝礼で当番を決めて台帳と現物を突き合わせる5分間の確保、である。報告書は1回、品証から「劣化への気づきにくさという原因が抽象的だ」と差し戻された。シールの角がめくれていた具体的な写真を添付して書き直したところ、2回目で通っている。抽象的な言葉のまま提出していたら、また同じ指摘を受けていたと思う。

もう1台の期限間近な測定器のその後

検査室を見て回って見つかった、期限まで残り4日だったもう1台のノギスについては、その場で校正業者に連絡し、通常1週間かかる校正を3日で対応してもらえないか相談した。結果は4日で校正済みの証明書が届き、ぎりぎり期限を切らさずに済んでいる。もし依頼が半日遅れていたら、同じ月に2台目の校正切れを出すところだった。急ぎ対応をお願いした分、通常より割増の費用がかかったことは、あとで班長に正直に報告した。急がば回れとはよく言うが、今回ばかりは急いで正解だったと思う。

今回学んだこと3つ

1つ目は、シールの色だけを頼りにせず、月に一度は台帳と現物を突き合わせる時間を決めて確保することだ。2つ目は、予備器を「あるはず」で済まさず、実際に取り出して電池残量まで含めて使える状態か定期的に確かめておくこと。3つ目は、被害の範囲を数字で洗い出すまでは連絡や判断を急ぎすぎない、という順番を守ることにしている。この3つを守れば同じ失敗は防げると思っているが、シール自体を見落とす可能性がゼロになったわけではないので、次はどこか別の見落としをしていないとは言い切れない。

この一件のあと、後輩から「そこまでやる必要があったんですか」と聞かれたことがある。正直に言えば、3件のロット保留も18台の総点検も、やりすぎだったかどうかは今でも分からない。ただ、あとになって「あのとき止めておいてよかった」と思えることはあっても、「あのとき止めすぎた」と後悔したことは今のところない。

『なぜなぜ分析 実践編』という本を以前読んだとき、「原因を数えずに感覚で語るな」という一節が印象に残っていたが、今回まさにそれを体で思い知らされた形になった。感覚で「たいしたことない」と判断しそうになった自分を、数字が止めてくれた格好だ。

測定器の校正管理そのものの基準や周期の決め方については、ものづくりポータルの校正管理ページにまとめているので、台帳のフォーマットから見直したい人はそちらも参考にしてほしい。

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本文で触れた一冊。原因を数えずに感覚で語らない、という考え方をこの本で確認した。

なぜなぜ分析実践編 [ 小倉仁志 ]

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本記事は筆者個人の体験に基づく記録であり、特定の企業や製品を推奨するものではない。測定器の校正周期や台帳の運用方法は、事業所ごとの品質マネジメントシステムの規定に従って判断してほしい。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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