仕入先との品質の取り決め:受入検査を省くと、不良品でも返品できない

発注する側の品質保証が、仕入先と品質の取り決めを結ぶとき、見直すときのガイドです。受入検査のやり方ごとに、返品とやり直しをいつまでできるかを、取適法の運用基準と公取委の Q&A から整理しました。運用基準や Q&A の改訂があれば書き直します(確認日:2026年10月21日)。

場面
仕入先に部品や材料の製造を頼み、自社で受入検査をしている。仕入先との品質の取り決め(品質保証協定書など)を結ぶとき、見直すときに使う
対象
発注する側(委託事業者)の品質保証。物品の製造を委託する取引で、取適法の対象になるかどうかは公取委の簡易診断ツールで確かめる
使うもの
発注時の明示(4条明示)、品質保証協定書などの取り決め、受入検査の基準書、公取委の運用基準と Q&A
要点
返品とやり直しの期限は、受入検査をどう行ったかで決まる。検査の方法、合否の基準、返品の条件を、発注の前に書面で決めて、発注時の明示と結びつけておく

受領した物を仕入先に返せるのは、受入検査で不良とわかった物を、受領後すぐに引き取らせる場合などに限られます。いったん合格にした物は、すぐには見つからない不適合があとから出たときに限り、受領後6か月以内なら返せます。一般消費者に6か月を超える保証期間を定めているときは、最長1年までです。

検査を省略した場合と、自社で検査せず文書でも仕入先に任せていない場合は、不良品でも返せません。仕入先が了解していても、違反になります。

取適法(中小受託取引適正化法)は、下請法を改正した法律で、2026年1月1日に施行されました。発注する側は委託事業者、受ける側は中小受託事業者と呼ばれます。この記事は、公取委の運用基準と Q&A に沿った整理です。個別の判断は、公取委・中小企業庁の相談窓口へ持ち込んでください。

目次

対象になる取引

物品の製造を委託する取引は、資本金で対象かどうかが決まります。委託事業者の資本金が3億円を超えるなら、資本金3億円以下の相手(個人を含む)が中小受託事業者です。委託事業者が1千万円超3億円以下なら、資本金1千万円以下の相手(個人を含む)が当たります。

従業員数の基準は、資本金の基準が適用されない取引に使います。常時使用する従業員が300人を超える委託事業者に対して、300人以下の相手(個人を含む)が中小受託事業者です(数字は公取委・中小企業庁の取適法テキストの対象取引の表による)。自社と仕入先がどちらに当たるかは、公取委の簡易診断ツールで確かめられます。

仕入先の側でこの記事を読んでいる方は、公取委の取適法の相談窓口に、取適法の考え方を相談できます。中小企業庁の取引かけこみ寺では、取引上のトラブルを、専門の相談員や弁護士に無料で相談できます。

取り決めに入れる欄

品質の取り決めは、品質保証協定書でも、基本契約の別紙でも構いません。入れる欄を、取適法との関係と並べました。

欄 書くこと 取適法との関係
品質の要求 図面、規格、仕様、検査項目。変更するときの手順 発注のたびに明示する給付の内容(品目、品種、数量、規格、仕様など)と同じものを指す(運用基準 第3)
受入検査の方法と合否基準 全数か抜取りか。仕入先に文書で任せるか。合格と不合格の線 基準が明確でないと、委託内容と異なるとは言えず、返品できない(運用基準 第4・4(3)ア)
不良の連絡と引取り 連絡の期限と連絡先。引き取る方法 不良品の返品は、受領後すぐに行う(Q106)
合格ロットから出た不良 抜取検査の合格ロットから、すぐ見つかる不良が出たときの扱い 返品には、発注前の書面の合意と、4条明示との結びつけが要る(Q107)
保証期間とやり直し 仕入先に求める保証期間。やり直しの費用の分け方 費用を負担せずに求められるのは、受領後1年までが基本(Q126)
検査にかかる期間 受領から検査完了までの日数 支払期日は受領した日から数える。共通の事項は先に書面で明示できる(運用基準 第3、第4・2)
変更・記録・監査 4M変更の連絡、記録の保存、監査への協力 発注内容の変更や明確化は、仕入先に明示して記録を残す(運用基準 第4・8(5))

一定の期間、共通になる事項は、先に書面で明示しておけば、発注のたびの明示を省けます。運用基準が例に挙げているのは、支払方法と検査期間です。発注のたびの明示には、共通事項を何月何日付けの文書で通知したかを入れて、両方を結びつけます。

私なら、7つの欄のうち、受入検査の方法と合否基準、合格ロットから出た不良、保証期間の3つを先に埋めます。返品とやり直しの期限に、直接かかわる欄だからです。

受入検査を全数・抜取・成績書の確認のどれで行うかの決め方は、受入検査の進め方にまとめています。

検査のやり方と返品の期限

返品の期限は、検査のやり方と、不良がいつ見つかったかで変わります。運用基準と Q&A の記述を、検査の場面ごとに並べ直しました。

検査と、不良が見つかる場面 返品 期限 根拠
自社の受入検査(全数でも抜取りでも)で、不良と判定した物。抜取りでは、不合格にしたロット できる 受領後すぐ。放置したあとの返品は違反 運用基準 第4・4(2)ア、Q106
受入検査で合格にしたあと、すぐには見つからない不適合が出た物 できる 受領後6か月以内。一般消費者に6か月を超える保証期間を定めていれば最長1年 運用基準 第4・4(3)エ、Q106
合格にしたあと、すぐ見つかる不適合が出た物 原則できない 例外は、抜取検査の継続的な取引で、事前の書面の合意と4条明示との結びつけがあるとき。受領後の最初の代金の支払時まで 運用基準 第4・4(2)イ、Q106、Q107
検査を仕入先に文書で任せた物 明らかな検査の過失がある物は、期限内ならできる 受領後6か月。過ぎると返品できない 運用基準 第4・4(3)ウ、公取委 中部事務所の資料
検査を省略した物。自社で検査せず、文書でも任せていない物 できない 不良品でも返せない 運用基準 第4・4(3)オ・カ

ここでいう「受領」は、検査をするかどうかを問わず、物を受け取って自社の占有下に置くことです。検査が終わった日ではありません。支払期日も、受領した日から数えます。検査に日数がかかる仕組みなら、その期間を見込んだ支払条件が必要です。運用基準には、検査の完了をもって納入とみなしたために、支払が遅れた事例(2-1)が載っています。

運用基準が挙げる返品の違反事例には、次のようなものがあります。以前は問題にしていなかった色むらを、受領後に指摘した返品(4-3)。受領の10か月後に、委託内容と異なるとして機械部品を返した例(4-4)。検査をしていないのに、不良を理由にした返品(4-5)です。あとで受け取り直す約束をしていても、いったんの返品は違反です(Q105)。

抜取検査の合格ロットの扱い

抜取検査に合格したロットからも、あとで不良が出ます。すぐ見つかる不良は、原則として返品できません。例外の条件は4つです。

  1. ロット単位の抜取検査をしている、継続的な取引であること。
  2. 発注の前に、すぐ見つかる不良の返品を認めると、書面などで合意していること。
  3. その書面などを、発注時の4条明示と結びつけていること。
  4. 返品は、受領後の最初の代金の支払時までに行うこと。

この場合は、合格ロットの中の不良を返品することを前提に、代金の額を十分に協議する必要があります。協議せずに、従来と同じ単価を一方的に決めると、買いたたきにあたるおそれがあります(Q107)。

この条件を欠いた例が、2025年8月7日に公取委が勧告した岩機ダイカスト工業です。ロット単位の抜取検査で合格にした製品に、すぐ見つかる瑕疵(目視や簡易な検査で見つかる不良)があったとして、引取りの条件を事前に合意しないまま返品していました。期間は2023年4月から2025年1月、仕入先は16名です。返品した代金相当額と加工費などの総額は、815万5,630円でした。

勧告では、返品した製品の代金相当額に加えて、返品までに仕入先が負担した加工費などの支払いと、発注担当者への研修などの社内体制の整備が求められました。令和7年度上半期の勧告には、佐藤商事の事例もあります。品質検査をしていないのに、瑕疵を理由に返品したものです。返した代金相当額は、仕入先19名分で総額1,434万5,140円でした。どちらも下請法の時代の勧告です。取適法の運用基準にも、同じ条件が残っています。

抜取検査の数と判定基準の決め方は、別のガイド「抜取検査の考え方と手順」に書きました。

やり直しと保証期間の線

やり直しは、返品とは別の禁止行為(不当なやり直し)で見ます。費用を負担せずにやり直しを求められるのは、給付が明示された委託内容と異なる場合に限られます。必要な費用や損失を自社が負担するなどして、仕入先の利益を不当に害さないなら、やり直しは問題になりません(運用基準 第4・8(2)(3))。

期限の線は、受領後1年です。返品の6か月とは、線が違います。すぐには見つからない不適合でも、受領後1年を過ぎると、費用を負担せずにやり直しを求めることはできません。自社の顧客への保証期間が1年以下なら、仕入先と3年の保証期間を契約していても、この線は動きません(Q126)。

自社が最終顧客に1年を超える保証をしているときは、仕入先との間でも、それに応じた保証期間を事前に定めます。最終顧客への保証が5年で、仕入先とも事前に受領から5年と定めていれば、その期間内にすぐには見つからない不適合が判明したとき、費用を負担せずにやり直しを求めても、不当なやり直しにあたりません(Q127)。

やり直しが認められない場面は、ほかにもあります。検査基準を恣意的に厳しくした場合です。事例には、従来の基準で合格していた金型を、検査基準を一方的に変えて無償でやり直させたもの(8-3)があります。

依頼の出し方と定例の品質会議

日々の依頼と会議の記録が曖昧だと、あとで委託内容と異なるかどうかを争うことになります。運用基準は、委託内容を満たしているか双方で争いが生じないよう、委託内容を明示することを求めています(第4・8(5))。

依頼の先頭に置く4項目

不良の連絡や是正の依頼は、メールの先頭に4項目を置きます。期限と回答の形式を先に書くと、読む側は何をいつまでに返すかが最初にわかります。

  1. 期限:返事がほしい日。日付で書き、暦日か営業日かを添える。
  2. 回答の形式:返してほしい様式と中身。原因と対策の様式があれば名前を挙げ、無ければ書面で求める。
  3. 現象:どの品番のどのロットで、何がどう外れていたかの事実。写真や測定値を添える。
  4. 宛先:返事を書く人と、送り先。担当が不在のときの代わりの人。

仕様を明確にしてほしいという求めには、返事を出します。受領の前にそう求められたのに、正当な理由なく答えず、作業を続けさせたとします。あとから委託内容と異なるとして、費用を負担せずにやり直しを求めることは認められません(運用基準 第4・8(3)ア)。

議事録を先に送る

定例の品質会議では、議事録の案を、会議の数営業日前に先に送ります。議題ごとに、仕入先に確かめたい点を入れます。決定事項の欄は空欄です。

会議では、決定事項の欄を埋めていきます。終わりに、埋めた内容を読み上げて、その場で双方が確認します。食い違いは、その場で直せるので、あとに残りません。

議事録で決めた内容が、発注内容の変更や明確化にあたるときは、運用基準が求める明示と、記録の保存の対象になります(第4・8(5))。議事録がその明示になるかどうかは、相談窓口で確かめてください。私なら、発注内容にかかわる決定の行に印を付け、議事録とは別に、明示の手続きへ回します。

取り決めを見直す場面

仕入先の4M変更

仕入先が工程や材料を変えるときの連絡の期限と、承認前の扱いは、取り決めに書いておきます。申請の範囲と記録の残し方は、別のガイド「4M変更申請書の書き方と記入例」にあります。

顧客の要求と保証期間

自社が顧客への保証期間を延ばしたときは、仕入先との保証期間も、事前に定め直します。Q127 の5年の例は、保証期間を事前に定めていることが条件でした。取引先から発注内容を変えられたことを理由に、仕入先にやり直しをさせ、その費用を負担しなかった例(8-4(3))も、運用基準にあります。

最初に確かめること

手元の品質保証協定書を開き、受入検査の方法と合否基準が書かれているかを見ます。抜取検査の合格ロットを返品する条件が、発注前の書面になっているかも確かめます。保証期間が顧客への保証と合っているかは、最後の確認です。足りない欄は、次の発注の前に、仕入先と協議して加えます。

次に読む

受入検査の抜取数と判定基準を、どう決めて、どう見直すかの手順です。

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出典

免責:このページは、仕入先との品質の取り決めの手引きと、項目の作例です。公取委の運用基準と Q&A に沿った整理で、個別の取引が取適法の対象になるか、返品ややり直しが認められるかは、公取委・中小企業庁の相談窓口と、運用基準の最新の全文で確かめてください。

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この記事を書いた人

素材メーカーに勤めて10年以上。検査員から始めて、生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは品質保証の責任者です。クレーム対応と是正処置、ISO・客先・仕入先の監査、製品含有化学物質の調査回答(chemSHERPA・REACH など)、部下の教育まで担当しています。QC検定2級、ISO 9001 内部監査員。座右の銘は「ピンチはチャンス」。

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