工程や部材の不具合で、出荷済みの製品の対象範囲を決める手順と記録のガイドです。参照した資料の改版があれば書き直します(確認日:2026年11月6日)。
- 場面
- 工程や部材で不具合が見つかり、出荷済みの製品のどこまでを対象にするかを決める場面。客先への一次回答や、社内の報告の前に使う
- 対象
- 製造業の品質保証・生産技術・出荷管理の担当者。範囲を区切る手順と、決めた根拠の記録までを扱う。原因の掘り下げ、特採の判断、効果の確認は別の記事に任せる
- 使うもの
- 変化点の記録、ロット番号と製造日の記録、識別記号、材料の入荷ロットと使用記録、検査記録、在庫と出荷先の一覧
- 要点
- 始まりは変化点か、最後に良品と確かめた時点。終わりは、対策後に良品と確かめた時点か、ロットの切れ目。記録が途切れた区間は範囲の中に入れる。範囲、根拠の記録、範囲の外に出す理由は、1枚の「対象範囲の決定記録」に並べる
不具合の対象範囲は、始まりと終わりを記録で説明できる点に置いて決めます。始まりは、変化点か、最後に良品と確かめた時点です。終わりは、対策のあとに最初に良品と確かめた時点か、ロットの切れ目です。
記録が途切れた区間は、範囲の外に出さず、中に入れます。決めた範囲、根拠にした記録、範囲の外に出した理由は、1枚の「対象範囲の決定記録」に並べて残します。
公表されたリコールの範囲の区切り方
公表資料の3例で、範囲の区切り方を確かめます。数字は公表された値で、この記事の作例の数字とは別です。
| 例 | 区切りの軸 | 公表されている範囲 |
|---|---|---|
| タイヤのリコール(2026年11月5日届出) | 識別記号と製作期間 | 12型式(7商品)。識別記号は型式ごとに別で、製作期間は全型式で2026年5月31日から6月6日。合計7,029本(国土交通省の公表資料) |
| 建設機械のリコール(2026年10月28日届出) | 型式、車台番号の範囲、製作期間 | 2型式。型式ごとに車台番号の範囲と製作期間を示し、合計558台(国土交通省の公表資料) |
| チェーン用スプロケットの品質問題(2026年10月30日お知らせ) | 商品と問題内容 | 対象商品は2つ。水処理装置用は寸法と材質、HY-VOチェーン用は寸法。対象範囲は確認中で、期間と数量はお知らせに載っていない(椿本チエインのお知らせ) |
タイヤの届出書の備考欄は、2026年8月27日付の前回の届出のあとに新たな不具合原因が判明したため、対象範囲を拡大して新たに届け出た、としています。前回の範囲は、この資料に載っていません。範囲を広げた理由は、原因が追加で見つかったことです。
建設機械の届出書の備考欄は、車台番号の範囲に、対象とならない車両も含まれる場合がある、としています。番号の範囲で区切った境界の内側には、対象外の物が入ることがあります。
スプロケットのお知らせは、子会社が製造の一部を外部に委託していた製品に、寸法・材質に関する不適合と不適切な行為があったとしています。対策委員会が事実関係と対象範囲の確認を進めている段階で、公表の時点では、期間と数量は示されていません。
国土交通省の資料では、リコールの対象を、同一型式の一定の範囲の自動車または特定後付装置としています。特定後付装置には、タイヤとチャイルドシートが入ります。
3例に共通するのは、時期と、物の識別の2本で範囲を言っていることです。時期だけでは同じ期間に作った別の型式が混ざり、識別だけでは製作の始まりと終わりを説明できません。私は、範囲を決めるときも、この2本をそろえて書くのがよいと考えています。
範囲を決める前に集める記録
JIS Q 9001:2015 の 8.5.2 は、トレーサビリティが要求事項となる場合の決まりです。アウトプットの一意の識別と、文書化した情報の保持を求めています。経済産業省のリコールハンドブック概要版は、事実関係の把握の項で3つを挙げています。製品の特定(ロット、販売経路など)、出荷先・販売ルートの特定、流通及び販売数量の特定です。
社内の不具合でも、範囲を決める前に集める記録は同じ種類です。
| 記録 | 範囲を決める使い方 | 例(架空) |
|---|---|---|
| 変化点の記録 | 始まりの候補。人・設備・材料・方法のどれが、いつ変わったか | 金型交換記録、材料の切り替え記録、設備修理の記録 |
| 検査記録 | 最後に良品と確かめた時点と、対策後に最初に良品と確かめた時点 | ロットごとの抜取り検査記録、初物検査記録 |
| ロット番号と製造日 | 範囲の端をロットの切れ目に合わせる | ロット L0310 は3月10日製造、というロット台帳 |
| 識別記号 | 現物から範囲に入る物を見分ける。客先にも示す | 刻印、ラベル、シリアル番号 |
| 材料と部品の入荷ロット | 部材が原因のとき、使った製造ロットへ対応づける | 材料ロット M-22 を使ったロットの使用記録 |
| 在庫と出荷先 | 範囲に入る物の置き場所と数量を数える | 棚卸記録、出荷伝票、出荷先ごとの数量 |
識別記号が現物に付いていない製品は、日付と出荷先でしか範囲を区切れません。範囲を決める作業の前に、現物のどこに何が付いているかを確かめます。
測定器の校正外れが原因のときの遡り方は、校正周期の決め方と、校正切れ・校正外れが見つかったときの遡り方が詳しいです。変化点の記録の欄と知らせ方は、社内の変更管理の進め方にあります。
始まりと終わりの決め方
始まりと終わりは、記録の状況で決めます。次の表で、状況ごとに範囲の端を置く位置を選びます。
| 端 | 記録の状況 | 端を置く位置 |
|---|---|---|
| 始まり | 原因の変化点が記録で特定でき、直前の良品の記録もある | 変化点のあとの最初のロット |
| 始まり | 変化点を特定できない | 最後に良品と確かめた時点の、次のロット |
| 始まり | 良品と確かめた記録が残っていない | 記録が残る最も古いロット(記録の無い区間は範囲に含める) |
| 終わり | 対策のあとに初物で良品を確かめた | 対策前の最後のロット |
| 終わり | 対策の記録が日付だけで、ロットと結びつかない | 対策日の1日分を、すべて範囲に含める |
| 終わり | 材料や設備の切り替えでロットが切れている | 切り替えの前のロット |
ロットの切れ目になるのは、ロット番号の切り替え、材料ロットの交換、設備の停止と段取り替え、型や治具の交換です。切れ目の前後で、残材や手直し品が次のロットに混ざっていないかを、作業記録で確かめます。
端を置く位置には、根拠の記録の名前と日付を添えます。「最後に良品と確かめた時点」の根拠は、検査記録の番号と日付です。私は、端ごとに、その外側が良品だと言える記録を1つ以上挙げておくのがよいと考えています。
範囲を広げることになる典型
決めた範囲があとで広がる場面は、記録の欠けや混ざりで起きます。次の表は、一般的な場面を並べたものです。
| 典型 | 範囲が広がる理由 | 先に残す記録 |
|---|---|---|
| 記録が無い区間がある | 良品と言える根拠が無いので、その区間を範囲に入れ直す | 日報、検査記録、梱包日の記録 |
| ロットが混ざっている | 残材、再投入、手直し品が隣のロットに入り、端が動く | 残材の扱いの記録、再投入のロット番号 |
| 識別記号が読めない | 現物で見分けられず、期間と出荷先で広めに区切る | 刻印の位置と読み方、ラベルの写真 |
| 変化点の日付が実際より遅い | 始まりが前へずれ、前のロットが範囲に入る | 変化点を記録した日と、実際に変えた日の両方 |
| 別のライン・型式にも同じ原因がある | 同じ型、同じ材料、同じ設備を使う別の製品が範囲に入る | 型・材料・設備の使用の一覧 |
| 原因が追加で見つかる | 新しい原因に対応する期間や識別の範囲が加わる | 原因ごとに別の行で書いた範囲 |
最後の行は、上のタイヤのリコールで実際にあった経緯です。原因が複数あり得るときは、原因ごとに範囲を別の行に書きます。1つの範囲に混ぜると、どの原因で広がったかが記録から読めません。
同じ原因が起こり得るほかの品番や設備へ広げる手順は、横展開の進め方が詳しいです。この記事は、出荷済みの物のうち、いま不具合の対象になる区間を決めるところまでを扱います。
「対象範囲の決定記録」の作例
決めた範囲は、1枚の表に残します。列は、根拠の記録、範囲の始まり、範囲の終わり、除外の理由の4つです。次は、樹脂成形品の寸法外れで、金型の交換が原因と推定された架空の例です。日付、ロット、記録の番号はすべて作例とします。
| 根拠の記録 | 範囲の始まり | 範囲の終わり | 除外の理由 |
|---|---|---|---|
| 金型交換記録 M-031(3月10日)、ロット L0309 の抜取り検査記録 I-0309(規格内)、金型修正記録 M-032(3月18日)、修正後の初物検査記録と続く3ロットの全数寸法記録 I-0318〜I-0320 | 3月10日製造のロット L0310 の最初の1個 | ロット L0317 の最後の1個(3月17日製造。金型修正の前日) | L0309 以前は金型交換の前で、I-0309 が規格内。L0318 以降は金型修正後で、初物と続く3ロットが規格内 |
| 金型台帳 K-07、第2ラインの金型使用記録 | 範囲に入れない | 範囲に入れない | 第2ラインは別の金型を使い、K-07 の対象外。第2ラインの寸法検査記録で確認した |
| 梱包記録(梱包日とロットの欄が空の箱が12箱) | L0309 の梱包分(境目の前のロット) | L0318 の梱包分(境目の後のロット) | 除外しない。欄が空の12箱は、境目の前後のどのロットか記録で言えないため、範囲に含める |
| 出荷伝票と出荷先一覧 | 3月11日の出荷分 | 3月19日の出荷分(L0317 の最後の出荷) | 3月10日以前の出荷は L0309 以前のみ。出荷先ごとの数量は別表 |
除外の理由は、記録の名前と日付で書きます。「問題なし」「たぶん大丈夫」は、記録を持たない除外です。除外しないと決めた物も、同じ表に理由つきで書きます。
範囲の端に使った記録の名前は、客先への説明にそのまま使えます。空欄があるうちは、範囲が決まっていません。
決めたあとに客先へ伝える項目
JIS Q 9001:2015 の 8.7.1 は、製品の引渡し後に検出された不適合な製品にも、不適合なアウトプットの管理を適用するとしています。処理の方法の1つは、顧客への通知です。8.7.2 は、不適合の内容、とった処置、取得した特別採用、処置を決定した権限をもつ者を記録に残すよう求めています。
客先に伝える項目は、次の6つです。客先の指定の様式があれば、そちらに従います。
- 範囲の定義:製作期間、ロット、識別記号、型式、数量
- 識別の方法:記号が付いている位置と、読み方
- 範囲の根拠:始まりと終わりを区切った記録の名前
- 範囲の外に出した物と、その理由
- 置き場所ごとの数量:社内の在庫、出荷待ち、輸送中、客先の在庫
- 範囲が変わり得る条件と、次に連絡する日
最初の書面に流出品の処置を書く手順は、一次回答とは:クレームで最初に出す書面の4つの欄と期限の決め方が詳しいです。範囲が確定していない時点では、決まった部分に「確認中」の印をつけて先に伝えます。
手元の1件で確かめる点
直近の不具合の記録を1件開き、範囲を決めた根拠が残っているかを確かめます。
- 範囲の始まりに、根拠の記録の名前と日付がある
- 範囲の終わりに、根拠の記録の名前と日付がある
- 範囲の外に出した物のすべてに、記録で言える理由がある
- 記録が無い区間が、範囲の中に入っている
- 識別記号と、現物での見分け方が書いてある
欠けている欄があれば、その場で記録を探し、見つからない区間は範囲に含めて決定記録を書き直します。
範囲を客先へ伝える欄は、ものづくりポータルで配っているクレーム一次回答の様式(Excel)にあります。事実、流出品の処置、推定原因、次回連絡の期日の4欄と、次回連絡用のシートがついています。
次に読む
範囲を決めたあと、客先への最初の書面に、流出品の処置を置き場所ごとにどう書くかの手順です。

原因が分かったあと、同じ原因が起こり得るほかの品番や設備へ、どこまで広げるかの決め方です。

出典
- 国土交通省「リコール届出一覧表」横浜ゴム株式会社(届出日 2026年11月5日・装22)(識別記号、製作期間、本数、備考欄。PDF の画像で確認した)
- 国土交通省「リコール届出一覧表」日立建機株式会社(届出日 2026年10月28日・届出番号 5897)(型式、車台番号の範囲、製作期間、台数、備考欄。PDF の画像で確認した)
- 株式会社椿本チエイン「当社および子会社における品質管理上の問題について」(2026年10月30日)
- 国土交通省「自動車等のリコールの現状」(リコール検討会の資料3)(リコールの定義、特定後付装置にタイヤが入ること)
- 経済産業省「リコールハンドブック概要版」(2024年3月)(アクション1の、製品の特定・出荷先・流通及び販売数量。消費生活用製品の手引きで、産業用の製品には、そのまま当てはまらない)
- 日本規格協会「JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」8.5.2、8.7.1、8.7.2(規格票の原本は開いていない。条文は全文を写した解説で照合した)
免責:このページは、製造現場でよくある場面をもとにした事例と、書式・手順の作例です。数値は説明のための例です。ただし、国土交通省の公表資料の値と、JIS Q 9001 から引いた条文の番号と文言は、資料の記載のとおりです。規格の文面は、原本で確かめてください。範囲の決め方と客先への連絡は、客先の要求書と社内の手順書で確かめてください。