新人の検査教育を不良サンプル20個から始めた年、判定テストで減ったものと減らなかったもの

期間
2026年3月23日〜5月22日(不良サンプル20個を集め始めた週から、今年の新人の独り立ち後1か月を数え終えるまで。比較対象は2025年4月の去年の新人)
対象
樹脂成形品の外観検査の新人教育。去年はベテラン検査員の横で見るOJT10日、今年は不良サンプル20個で5日+OJT5日。到達確認は同じ30個の判定テスト
体制
品質保証の管理職である私と、検査を教えるベテラン検査員1人。新人は去年1人、今年1人
結論
見逃しは6個から1個に減ったが、過検出は3個から2個で変わらず。サンプルは見逃しに効き、判定の速さと過検出にはOJTの時間が要る

今年の新人が、白いトレーの部品を1個つまみ上げて、蛍光灯に向けてゆっくり回した。3回ほど回してから、右側の箱に置く。不合格の箱だ。それから私の顔を見た。私は何も言わないことにしていたので、新人はもう1度その部品を取り上げて、今度は左側の箱に移した。4月8日の水曜、教育3日目の朝の検査室で、トレーの上にはまだ17個が残っていた。

私が持っているのは、赤い油性ペンで20と書いた、A4が入る大きさの箱だ。中身は不良サンプル20個。この箱を作ると3月に言ったとき、ベテラン検査員は「私のときは、そんな箱ありませんでしたよ」と笑った。私のときも無かった。無いまま、去年の新人を送り出した。

目次

去年の新人に、私が持たなかったもの

去年の4月、私は新人の検査教育を、それまでどおりベテラン検査員に預けた。10営業日、横に座って検査を見て、後半は自分でも判定して答え合わせをする。私が若手のころに受けた教え方と同じで、疑ったことがなかった。

10日目の翌週、去年の新人に30個の判定テストをした。不良18個と良品12個を混ぜたトレーを渡して、合格と不合格に分けてもらう。トレーの30個は、今年も1個も入れ替えていない。結果は30個中21個が正解で、見逃しが6個、過検出が3個。時間は42分。ベテラン検査員は同じ30個を9分で分ける。

見逃した6個の内訳を見ると、4個が打痕だった。理由を探して10日間の検査記録をめくると、その間にラインへ流れた打痕の不良は1個。教える側に、見せる物がなかった。ベテラン検査員は「打痕は出るときは出るんですけどね」と言い、私はその言い方に、去年は納得してしまった。

テストの42分の間、去年の新人は打痕の部品を手に取るたびに、蛍光灯に向けて角度を変えていた。見ようとはしていた。何を見ればいいかを、教わっていなかった。

去年の私は、見逃しを新人の目のせいにしていた。

独り立ちしてからの1か月で、去年の新人が見逃した不良が後工程で見つかった件数は2件。2件とも打痕だった。

隔離箱から20個を選んだ週

今年の新人が4月1日に来ると決まったのは2月で、私は3月23日の週に、隔離箱と不適合品の棚から不良サンプルを集めた。選んだ基準は2つ。うちの外観検査基準書に載っている不良の種類を全部そろえること。それぞれの種類で、はっきりした物と、限度に近い物の両方を入れること。

集まったのは20個。キズ4個、打痕4個、汚れ3個、バリ5個、変形4個。それぞれにラベルを貼り、種類と不合格の理由、基準書の該当ページを書いた。ラベルは折り返せば隠せる形にした。写真も撮って、A4に20個ぶん並べた紙を1枚作った。集めるのに3日、ラベルと紙で半日。写真の紙は検査台の引き出しに、箱は棚に置き、どちらも新人が自分で出し入れできる場所にした。

ベテラン検査員には、集めた20個を1度全部見てもらった。「これは限度ぎりぎりで合格側ですね」と言われた物が1個あって、その1個は外して19個にするか迷った。迷った理由は、合格側の物が1個だけ混ざっていると、新人が「箱の中は全部不合格」と覚えてしまいそうだったからだ。それでも、限度の両側を見せずに限度は教えられないと思い直し、ラベルに限度に近い合格と書いて残した。20個のうち19個が不合格、1個が合格側の限度見本ということになる。

今年の教育は、この20個で5日、そのあとベテラン検査員の横でOJTを5日。合わせて去年と同じ10営業日にした。テストも去年と同じ30個を使う。それ以外の条件は去年にそろえ、変えたのは前半の5日だけだ。

去年と今年の教育の条件 ※筆者の運用記録(対象:新人検査員の外観検査教育2回・期間:2025年4月と2026年4月の各10営業日)
去年と今年の教育の条件 ※筆者の運用記録(対象:新人検査員の外観検査教育2回・期間:2025年4月と2026年4月の各10営業日)

3日目に答えを覚えられた

1日目と2日目は、新人に20個を1個ずつ見せて、ラベルを開いて理由を読んでもらった。ラベルを閉じて、もう1度自分で理由を言う。1日に20個を2周。2日目の終わりには、20個の判定は全部合っていた。

早すぎる、と思った。

3日目の朝、私は20個の順番を入れ替え、ラベルを全部折って隠した。冒頭に書いた朝はこの日で、新人は20個中20個を正しく分けた。ところが、1個ずつ理由を聞いていくと、言えたのは14個だった。残りの6個は「これは前に見た不合格の物です」という答えで、物を覚えていて、基準を覚えていなかった。

ここは私の見込みが外れたところだった。20個を覚えるのに5日かかると思っていたが、物を覚えるだけなら2日で足りる。3日目からは、判定ではなく理由を言わせる練習に変えた。基準書のどの行に当たるか、限度に近い物はどこが限度側かを、20個ぶん自分の言葉で言う。5日目の終わりに、理由を言えた数は20個中19個。言えなかった1個は、合格側の限度見本だった。

4日目と5日目の新人は、基準書を開いたまま20個を見ていた。基準書には青い付箋が9枚貼られていて、付箋の数は種類の数より多い。バリの行に3枚、打痕の行に2枚。どこで迷ったかが、付箋の場所でそのまま分かった。私は付箋を剥がさないように言った。

不良サンプル20個の内訳 ※筆者の運用記録(対象:不良サンプル20個と教育5日間・期間:2026年3月23日〜4月10日)
不良サンプル20個の内訳 ※筆者の運用記録(対象:不良サンプル20個と教育5日間・期間:2026年3月23日〜4月10日)

同じ30個で、6個が1個になった

4月20日の月曜、今年の新人に去年と同じ30個の判定テストをした。結果は30個中27個が正解で、見逃しが1個、過検出が2個。時間は31分。

終わってから新人が最初に言ったのは「打痕は全部見えました」だった。打痕は18個の不良のうち5個あって、5個とも右の箱に入っていた。去年の新人が4個見逃した種類だ。

見逃した1個は汚れで、サンプルの3個より薄い汚れだった。過検出の2個はどちらもキズで、良品に付いた成形時のかすかな線を、キズと判定していた。去年の新人の過検出3個も、2個はこの線だった。

独り立ちしてからの1か月、4月21日から5月22日までに、後工程で見つかった今年の新人の見逃しは0件。ただし、良品を不合格の箱に入れて、ベテラン検査員が合格に戻した件数は5件あった。去年の新人の同じ数字は、記録を遡ると3件。

同じ30個の判定テスト、去年と今年 ※筆者の運用記録(対象:新人2人の判定テスト30個・期間:2025年4月21日と2026年4月20日)
同じ30個の判定テスト、去年と今年 ※筆者の運用記録(対象:新人2人の判定テスト30個・期間:2025年4月21日と2026年4月20日)

サンプルが効いたものと、効かなかったもの

数字を並べると、見逃しは6個から1個、後工程での発覚は2件から0件で、サンプル20個は見逃しに効いた。打痕の見逃しが0になったのは、去年ラインに1個しか流れてこなかった打痕を、今年は4個、5日間毎日見ていたからだと思っている。

効かなかったのは過検出と速さだ。過検出は3個が2個で、独り立ち後の戻しは3件が5件に増えた。時間は42分が31分で、ベテラン検査員の9分にはどちらも遠い。不合格の物ばかり20個を見続けると、良品の側の幅を知る機会がない。良品がどこまで良品かは、ラインを流れる大量の合格品を横で見る時間の中でしか身につかないのだと、5件の戻しを見て思った。

比較としては弱いところがある。去年と今年で新人は別の人で、去年の新人のほうが飲み込みが遅かっただけという見方もできる。1人ずつしか比べられない教育の話は、いつもこの弱さを抱えている。それでも、打痕4個の見逃しが0になった理由を、人の差だけで説明するのは無理があると私は考えている。

来年の新人には、20個のサンプルを5日、OJTを5日という同じ形で続ける。変えるのは1点だけで、20個の中に良品側の限度見本を1個ではなく5個入れる。過検出の2個と戻しの5件が、その5個で動くかどうかを見る。良品側の5個は、ラインの合格品の中から、成形時の線が付いている物を選ぶつもりでいる。過検出の2個が引っかかっていたのは、この線だった。

20個の箱は今、検査室の棚の1番下にある。ラベルの折り目は、5日間で全部やわらかくなった。

かかった手間も書いておく。箱を作るのに私が使ったのは3日半、教育の5日間は毎朝30分、私が検査室に付いた。ベテラン検査員の負担は、去年の10日から今年は5日に半分になった。この5日ぶんが、私の3日半と5回の30分で買えたのなら、安い買い物だったと思っている。

独り立ち後1か月と、来年に変える1点 ※筆者の運用記録(対象:新人2人の独り立ち後1か月・期間:2026年4月21日〜5月22日と2025年の同時期)
独り立ち後1か月と、来年に変える1点 ※筆者の運用記録(対象:新人2人の独り立ち後1か月・期間:2026年4月21日〜5月22日と2025年の同時期)

去年の私は、教えたあとに何を根拠に到達したと見るかを、ベテラン検査員の「もう大丈夫」という一言に任せていた。ものづくりハンドブックのE8 教育を「やった」で終わらせない到達確認の設計には、実演と口頭と記録の3種類を組み合わせて到達を見る、と書いてある。3日目に理由を言わせる練習へ切り替えたのは、口頭の確認を先にやっていた形だ。来年は最初から3種類を並べて計画に入れる。

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去年の新人の2件の流出を数えていたころに読み返したのが、細谷功『具体と抽象』だった。20個の物を覚えることと、基準を覚えることの違いを、この本は具体と抽象の往復として書いている。3日目の朝、20個中20個を正しく分けた新人が理由を14個しか言えなかった場面は、具体だけが先に入って抽象がまだ来ていない状態そのもので、この本を読んでいなければ、20個中20個で満足して次へ進んでいた。

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検査基準書の限度見本を作り直した3週間 — 袋の中に1個しかなかった黄ばんだ限度見本を、合格側と不合格側の2個1組に作り直し、検査員3人の判定の割れが30個中8個から1個になった記録。良品側の見本を持つという結論は、来年の私が20個の箱に5個を足す理由そのものだ。

異動してきた後輩と、初めて意見がぶつかった日にしたこと — 出荷判定が割れた朝に現物5点を並べて限度見本の使い方をすり合わせ、判定の割れが3週間で2回から2週間で0回になった記録。数値の前に基準の運用を手で確かめさせるという点で、今回の20個と同じ側に立っている。

免責: 本記事は筆者個人の経験に基づく記録です。検査員の教育方法と到達確認の基準は、製品・工程・職場によって異なります。件数と時間は自社の検査室で数えた値で、新人はそれぞれ1人ずつの比較です。実際の教育計画は各社の基準に合わせてご判断ください。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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