抜取検査の考え方と手順のガイドです。私は品質保証の仕事で、抜取検査の数を客先の指定に合わせて決め、指定の無い品は自社で決めた固定数で回しています。規格の改正があれば書き直します(確認日:2026年10月10日)。
- 場面
- 出荷検査や受入検査で、ロットから何個抜き、何個の不良までを合格にするかを決める。客先の指定が無い品で、自社の固定数(例:ロットごとに5個)を見直す場面にも使う
- 対象
- 計数値の抜取検査(1個ずつ良・不良を判定し、サンプルの中の不良の数でロットの合否を決める検査)と、JIS Z 9015-1(ISO 2859-1:1999 に対応)の AQL 指標型の考え方、ISO 2859-1:2026 の変更点
- 使うもの
- 客先の図面・仕様書・品質契約、自社の検査基準書、JIS Z 9015-1 の規格票、合格の確率を計算する表計算ソフト
- 要点
- 抜く数 n と合格判定数 c から、不良率ごとの合格の確率を計算して確かめる。JIS の表は規格票で引き、表の値はこのページに載せない
抜取検査の数は、客先の指定があればそれに従い、無ければ自社で決めます。私は、図面・仕様書・品質契約に指定がある品はその数と判定基準で検査し、指定の無い品はロットごとに同じ数を抜く固定数で回しています。JIS Z 9015-1 の表で検査水準と AQL から抜取数を決める運用は、選んでいません。
固定数で回すなら、その数がどの不良率のロットまで通すかを一度計算しておきます。計算例として、5個抜いて不良0個なら合格とする決め方では、不良率10%のロットでも合格の確率は59%です。数を見直すときは、JIS Z 9015-1 の考え方(ロットの決め方、検査水準、AQL、なみ・きつい・ゆるい検査の切替え)を物差しにします。
抜取数の決まり方は2通り
抜取数の決め方は、客先の指定と自社の固定数の2つに分かれます。それぞれ、書いてある所と先に確かめることが違います。
| 決め方 | 書いてある所 | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 客先の指定 | 図面の注記、仕様書、品質契約(品質保証協定書など) | 準拠する規格と版、AQL、検査水準、ロットの定義、不合格ロットの扱い |
| 自社の固定数 | 自社の検査基準書(例:ロットごとに n=5、c=0) | その n と c で、不良率ごとのロットがどれだけ合格するか |
固定数は、ロットの大きさや不良の出方にかかわらず同じ数を抜くので、手順が簡単で記録も揃います。そのかわり、どの不良率までを止められるかは、n と c から計算しないと分かりません。JIS Z 9015-1 の方式は、ロットの大きさと検査水準からサンプル文字を決め、サンプル文字と AQL から抜く数と合格判定数を決めます。
客先指定で確かめる所
客先の指定がある品は、私はその数と判定基準をそのまま使います。指定の文書では、次の6つの項目を見ます。欠けている項目は、検査を始める前に客先へ問い合わせ、答えを文書で残してください。
- 準拠する規格と版:規格番号に加えて、JIS なら「:2006」、ISO 2859-1 なら発行年まで書いてあるかを見る
- AQL:不良の区分(重欠点・軽欠点など)ごとの値と、区分の定義
- 検査水準と抜取の形式(1回抜取・2回抜取・多回抜取)
- ロットの定義:製造日、材料ロット、設備、出荷の単位のどれで区切るかを決めた文言
- 検査の切替え:なみ検査から始め、きつい検査・ゆるい検査への切替えルールを使う取り決めの有無
- 不合格ロットの扱い:全数選別して再提出するのか返却するのか、判断する人、再提出ロットの検査の仕方
版は、ISO 2859-1 と書かれた指定でとくに確かめます。1999年版と2026年1月発行の第3版では内容が違います。JIS Z 9015-1:2006 は1999年版を技術的内容を変えずに翻訳した規格で、確認日の時点で有効な版です。第3版の変更点は、後ろの節にあります。
n=5が通す不良率の計算例
固定数の抜取は、抜く数 n と合格判定数 c の2つで決まります。c は、サンプルの中の不良がこの数以下ならロットを合格にする数です。ロットの不良率を p とすると、合格の確率は二項分布で計算できます。
合格の確率 = Σ(d=0〜c) nCd × pd ×(1−p)n−d
d はサンプルの中の不良の数です。c=0 なら式は(1−p)n だけになり、n=5、p=10% なら 0.95=0.59 で、合格の確率は59%です。Excel なら BINOM.DIST 関数に =BINOM.DIST(c, n, p, TRUE) と入れると同じ値が出ます。この式はロットが抜く数よりずっと大きいときの近似で、小さいロットでは実際の確率が計算値より少し低くなります。
計算例を表にします。値は上の式で計算した説明用の例で、JIS の表から写したものではありません。
| ロットの不良率 | n=5、c=0 | n=20、c=0 | n=50、c=0 | n=50、c=1 |
|---|---|---|---|---|
| 1% | 95.1% | 81.8% | 60.5% | 91.1% |
| 5% | 77.4% | 35.8% | 7.7% | 27.9% |
| 10% | 59.0% | 12.2% | 0.5% | 3.4% |
| 20% | 32.8% | 1.2% | 0.1%未満 | 0.1%未満 |
n=5、c=0 では、不良率10%のロットの59%、不良率20%のロットでも33%が合格します。不良率37%で、ようやく合格の確率が10%まで下がります。この決め方で止められるのは、不良が大量に混じったロットです。数%の不良を止める役は、工程の管理(管理図や工程能力の確認)と組み合わせて持たせます。管理図(X̄-R)と工程能力指数(Cp・Cpk)は、ものづくりポータルの道具で計算できます。
抜く数を増やすと、悪いロットは止まる一方で、良いロットも落ちます。n=50、c=0 では、不良率1%のロットでも合格は60.5%です。同じ n=50 でも c=1 にすると、不良率1%のロットの合格は91.1%に上がり、不良率10%のロットの合格は3.4%にとどまります。
OC曲線で読む2つの点
不良率を横軸、合格の確率を縦軸にとり、上の計算をつないだ線が OC 曲線(検査特性曲線)です。抜取の方式は、この線の上の2つの点で比べます。
- AQL(合格品質限界)の点:作る側が「この不良率なら、ほとんどのロットを合格にしてほしい」とする不良率。この点で不合格になる確率を生産者危険という
- 消費者危険品質の点:受け取る側が「この不良率のロットは、ほとんど合格させたくない」とする不良率(英語の文献の LTPD)。この点で合格してしまう確率を消費者危険という
| 方式 | 合格の確率が95%になる不良率 | 合格の確率が10%になる不良率 |
|---|---|---|
| n=5、c=0 | 1.0% | 36.9% |
| n=20、c=0 | 0.26% | 10.9% |
| n=50、c=0 | 0.10% | 4.5% |
| n=50、c=1 | 0.72% | 7.6% |
固定数を決め直すときは、止めたい不良率を先に決め、その不良率での合格の確率が10%以下になる n を逆算します。c=0 なら n ≧ log(0.1) ÷ log(1−p) で、不良率10%なら22個、5%なら45個、2%なら114個です。c=0 のまま n だけを増やすと、AQL の側の点が左へ動き、良いロットの不合格が増えます。両方の点を満たすには、n と c を組にして動かします。
JISの考え方で見直す手順
JIS Z 9015-1 の表(サンプル文字の表と抜取方式の表)は、このページに載せていません。日本規格協会は、規格の一部でも無断で複製・転載することは著作権法で禁じられていると表記しています。表は規格票を手元に置いて引いてください。規格票が無ければ、日本産業標準調査会(JISC)の JIS 検索で本文を閲覧できます(閲覧にはログインが要り、印刷はできません)。
- ロットを決める。同じ材料・設備・条件で作った物を1ロットにし、材料ロットの切替えや段取り替えの所で切る。
- 不良の区分(重欠点・軽欠点など)を決め、区分ごとの AQL を客先と合意する。
- 検査水準を決める。検査水準は、ロットの大きさと抜く数の関係を決めるもので、規格票の箇条10.1にある。
- ロットの大きさと検査水準から、サンプル文字の表でサンプル文字を読む。
- サンプル文字と AQL から、なみ検査の抜取方式の表で、抜く数 n、合格判定数 Ac、不合格判定数 Re を読む。矢印のある欄に当たったら、規格票の説明に従って矢印の先の方式を使う。
- 読んだ n と Ac で上の式から合格の確率を計算し、いまの固定数と同じ不良率の行で並べる。
- なみ検査から始め、切替えルールに従ってきつい検査・ゆるい検査へ移る。切替えの条件と検査を止める条件は、規格票の箇条9で確かめる。
7番目の切替えを省くと、品質が落ちたときにきつい検査へ移る仕組みが働きません。AQL 指標型の方式は、なみ・きつい・ゆるいの3つの検査と切替えのルールを組にして使う前提で作られています。規格票の序文は、JIS Z 9015-0(抜取検査システム序論)を併せて使うことも強く勧めています。
ISO 2859-1:2026 の変更点
ISO 2859-1 の第3版は2026年1月22日に発行され、1999年版を置き換えました。主な変更点は4つです(第3版の前書き)。
- なみ検査(またはゆるい検査)からスキップロット検査へ切り替える手順が加わった。スキップロット検査は、決めた確率で選んだロットだけを検査し、残りは検査せずに合格にして手間を減らす方法である
- スキップロット検査を使える生産者と製品の条件の指針が加わった
- スキップロット検査の効果の指針と、ロットの無作為な選び方が加わった
- 方式ごとの OC 曲線をやめ、OC 曲線と平均サンプル数(ASN)の曲線の作り方を附属書E(参考)に入れた
JIS Z 9015-1:2006 の対応国際規格は、日本規格協会の一覧では1999年版のままで、2026年版に邦訳版はありません。スキップロット検査の手順は、JIS では JIS Z 9015-3 に別立てです。
2026年版の指定では、スキップロット検査を使うかどうかを客先に確かめ、表は2026年版の規格票で引きます。表の値が1999年版と同じかは、このページでは確かめていません。
見直しでよくある失敗
AQLを出荷してよい率と読む
AQL は、続けて出すロットの平均の不良率として許せる上限を表す値で、1つのロットの品質を保証する値ではありません。上の表のとおり、AQL より悪いロットも一定の確率で合格します。抜取検査はロットを受け入れてよいかを決める手続きで、ロットの不良率を推定する手続きではありません(NIST の e-Handbook)。
条件の違う物を1ロットにする
条件の違う物を1ロットに入れると、一部に固まった不良がロット全体の不良率の中で薄まります。たとえば不良率10%の部分がロットの1割なら、ロット全体では1%になり、n=5、c=0 での合格の確率は95%です。ロットは、材料ロットや段取り替えの所で切ります。
取りやすい所から抜く
箱の上の段など、取りやすい所の物だけを抜くと、計算の前提(ロットからランダムに抜く)が崩れます。抜く位置(箱の段、列、作った時刻)を先に決め、検査記録に残します。
不合格ロットの扱いが未定
不合格になってから全数選別か返却かを話し合うと、そのあいだ出荷が止まります。誰が判断し、選別したロットをどう再提出するかを、検査基準書か品質契約に先に書きます。JIS Z 9015-1 では、箇条7.2が不合格ロットの処置、7.6が再提出ロットです。
手元の検査基準書を開き、品番ごとに n と c が何で決まっているかを書き出してください。客先の指定なら上の6項目が文書にあるかを、固定数なら不良率5%と10%での合格の確率を、上の表か同じ式で確かめます。
抜取の水準を客先と決め直すときの進め方(根拠をたどる、実績のデータで示す、移行期間は新旧の判定を並べる、正式な文書に残るまで切り替えない)は、ものづくりハンドブックのT32 抜取検査の水準を顧客と決め直すときの進め方にあります。
次に読む
自社の出荷検査を通ったロットが客先の受入検査で落ちたとき、双方の検査を突き合わせる手順です。

客先と合意した抜き取り数で立会い検査を受けるときの、前日と当日の段取りです。

出典
- 日本産業標準調査会「JIS 検索」JIS Z 9015-1(計数値検査に対する抜取検査手順-第1部:ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式。制定1999年5月20日、最新改正2006年11月20日、最新確認2021年10月20日)
- 日本規格協会「JIS Z 9015-1:2006」(対応国際規格 ISO 2859-1:1999(IDT)、状態:有効)
- 日本規格協会「著作権・ウォーターマークについて」
- ISO「ISO 2859-1:2026 Sampling procedures for inspection by attributes, Part 1」(第3版、2026年1月発行)
- ANSI Webstore「ISO 2859-1:2026」無料プレビュー(前書きの主な変更点、目次、適用範囲)
- 日本規格協会「ISO 2859-1:2026」(発行2026年1月22日、邦訳版:無)
- 日本規格協会「JIS Z 9015-3:2011」(スキップロット抜取検査手順。対応国際規格 ISO 2859-3:2005(IDT)、状態:有効)
- NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods「6.2 Lot Acceptance Sampling」(AQL、LTPD、OC 曲線、二項分布による合格の確率の式)
免責:このページは、製造現場でよくある場面をもとにした事例と、書式・手順の作例です。数値は説明のための例です。抜取検査の方式と表の値は JIS Z 9015-1 の規格票で、求められる検査の中身は客先との取り決めで確かめてください。