是正処置の期限に間に合わないと分かった日、いつ何を連絡したか

月曜の朝7時40分、窓を打つ雨の音を聞きながらカレンダーを見て、私は思わず二度見した。客先への是正処置報告書、提出期限まで残り2営業日。先週、客先の組立ラインで部品の寸法不良が見つかり、その原因究明と再発防止をまとめて報告する約束になっていた。担当の若手が土曜の朝に送ってきた進捗メモには、まだ「工程要因は特定中」の一文が残っていた。

背筋が伸びた。

私は品質保証部の管理職として、10人ほどの部下と一緒に工程の品質を見ている。是正処置報告書は、客先からの指摘を受理した日を1日目として数え、10営業日以内に提出するのが社内の標準ルールだ。もともと客先の購買部門から求められた基準で、遅れが続くと取引の与信評価にも影響すると聞かされている。今回の案件は受理から数えて、その朝がちょうど8日目にあたっていた。

是正処置報告書の標準期限10営業日と8日目時点の進捗を示す図
是正処置の標準期限と経過日数 ※筆者の運用記録(対象:客先是正処置報告書・期間:受理日〜提出日の10営業日)

この客先とは10年以上の付き合いがあり、是正処置の依頼自体は年に数件ある。これまでは期限内の提出が続いていて、遅れそうになったのは今回が初めてだった。だからこそ、ここで信頼を崩したくないという気持ちが強く働いた。

不良の内容は、組立ラインでの寸法不良だった。客先の受入検査で数点が規格外と判定され、同ロットの全数を客先側で選別してもらう事態になっていた。選別にかかった人件費や納期への影響を思うと、こちらの調査の遅れがそのまま迷惑の上乗せになる。焦りは、そこからも来ていた。

調査を担当していたのは、入社3年目の部下を含む3人のチームだった。金曜夕方の進捗会議では「あと少しで工程要因が絞れそうです」と聞いていた。週末を挟んで、その「あと少し」は動いていなかった。原因調査の完了度は、チームの自己申告でおよそ6割。測定機は別ラインの検査とも共用しているため、順番待ちの列に並ぶ必要があり、そこで足が止まっていた。

土曜の昼に一度、担当者へ電話を入れていた。「月曜には見通しを立てられそうか」と聞くと、返事は歯切れが悪かった。その時点で、私は最悪のケースも頭の片隅に置くようになっていた。週末のうちに一報を入れるべきか迷ったが、確度の低い情報を先に流して現場を混乱させたくもなく、結局は月曜の朝まで様子を見ることにした。

目次

期限まで2日、何が足りなかったか

足りなかったのは、工程要因を裏づける現物データだった。疑わしい治具は特定できていたが、摩耗量を数値で示す測定がまだ終わっていない。測定機の順番待ちで、あと1日はかかる見込みだという。

ここで私が最初に考えたのは、期限に間に合わせるために原因を決め打ちしないということだった。過去に一度、原因の裏づけが甘いまま是正処置報告書を出し、後から客先の技術担当に指摘されて差し戻された経験がある。その時は摩耗が疑わしいという感触だけで書いてしまい、数値が管理限界内に収まっていたことが後日の実測で判明した。書き直しに追われた2週間は、今でもよく覚えている。あの気まずさを、また味わいたくはない。

是正処置の受理から提出までの時系列フロー図
是正処置の受理から提出までの時系列 ※筆者の運用記録(対象:客先是正処置報告書・期間:受理日〜提出11日目)

社内には、是正処置の期限遵守率を毎月の会議で報告する仕組みもある。この数字を落としたくないという気持ちも、確かにあった。だが数字を守るために事実を曲げれば、いずれもっと大きな形で返ってくる。それは過去の失敗で分かっていたことだった。

三つの選択肢と、譲れない基準

選べる道は三つあった。①客先に延長を申し入れる。②原因が確定していない段階のまま、途中経過だけを先に伝える。③期限を守るために、現時点で最も疑わしい要因を仮の確定として報告書に書く。正直に言えば、③がいちばん楽だった。締切さえ守れば、その場は丸く収まる。

迷いながら、私は判断基準を紙に書き出した。優先順位をつけると、こうなった。まず譲れないのは事実の正確性だ。次に客先との信頼関係を損なわないこと。そのうえで社内の再発防止に実効性を持たせる。最後に部下の残業を最小限に抑える。事実の正確性を信頼関係より上に置いたのは、過去の差し戻しで痛感したからだ。取り繕った事実は、遅かれ早かれ信頼を削る。この四つの重みは、この順番で動かさないと決めた。

工場長にも短く相談した。「期限より中身を優先していい」という一言をもらえたのは、正直ありがたかった。

是正処置の判断で使った4つの基準を優先順位順に示す表
是正処置の判断基準の優先順位一覧 ※筆者の運用記録(対象:客先是正処置報告書・期間:8日目の検討時)

基準に当てて、選択肢を評価する

③の「仮に確定」案は、最初の基準である事実の正確性で早々に脱落した。裏づけのない原因を書けば、報告書の体裁は整っても、再発防止の実効性がついてこない。過去の差し戻しと同じ轍を踏む。

①の「延長申し入れ」案は、信頼関係の基準で評価が割れた。誠実ではあるが、何も進捗を示さずに延長だけを求めると、客先には調査が止まっているという印象を与えかねない。実際、若手のひとりは「延長をお願いするなら、理由もセットで伝えるべきです」と言っていた。私も同じ考えだった。

②の「途中経過を先に伝える」案は、四つの基準すべてで及第点だった。原因は書かず、進捗と残作業だけをありのまま伝える。延長が必要なら、その場で相談すればいい。手元の紙の上では、これが唯一の残り方だった。

三つを並べて見比べると、③は最初の基準で落ち、①は二番目の基準で引っかかった。手元に残ったのは②だけだった。

この評価をしたのは、私一人の頭の中だけではない。若手2人と、この案件を最初から見ていたベテランの部下にも同じ三択を見せ、それぞれの意見を聞いた。全員が②を選んだわけではなかったが、①を選んだベテランの部下も「②の方が角が立たないなら、それでいい」と最後は同意してくれた。

三つの選択肢を四つの判断基準で評価したマトリクス図
三つの選択肢と四つの判断基準の評価マトリクス ※筆者の運用記録(対象:客先是正処置報告書・期間:8日目の検討時)

決めたのは「途中経過の先出し」

私は8日目の午前中に、客先の品質担当へ電話を入れた。調査の進捗はおよそ6割であること、疑わしい治具は特定できているが摩耗量の裏づけ測定に1日を要すること、そのうえで提出は3営業日の延長をお願いしたいことを、順番に伝えた。手元のメモには、伝える順番を三つの番号だけ振って持っていった。

電話口は数秒、静かだった。

先方の担当者からは「状況が分かっているなら問題ない。むしろ黙って期限だけ守られる方が困る」との返事をもらえた。延長は条件付きで認められた。条件は、当初期限の日にもう一度、電話で中間状況を共有すること。電話のあとすぐ、同じ内容をメールでも送り、記録として残した。

受話器を置いたあと、隣の席にいた若手に「延びたよ」とだけ伝えた。安堵の表情が返ってきた。

延長申し入れの前後で期限と提出日がどう変わったかを示す比較図
延長申し入れ後の期限と提出日の実際 ※筆者の運用記録(対象:客先是正処置報告書・期間:8日目〜11日目)

提出後にどうなったか

結局、原因は治具の摩耗だった。摩耗量が管理限界の1.3倍まで進んでいたのに、日常点検の基準がその手前までしか見ていなかった。是正処置報告書は、当初期限の翌営業日、受理から数えて11日目に提出した。延長は3営業日もらっていたので、結果としては2営業日を残して出せたことになる。客先はその内容を受け入れ、以降の取引に目立った影響はなかった。点検基準は、摩耗量の測定間隔を従来の月次から週次へ改めた。改定後、半年ほど経つが同じ工程要因での再発は起きていない。

社内では、この一件をきっかけに一つルールを変えた。是正処置の残り期限が3営業日を切った時点で、原因が確定していなくても客先へ状況を共有する。部内の朝礼でこの運用を説明したとき、部下から「早めに白状するみたいで気が引ける」という声も出た。それでも、黙っていて後から信頼を失うより、早く伝えて相談する方がいいと話し、これを部の標準運用に加えた。

この新しい運用は、その後の是正処置で二度使った。どちらも延長を断られてはいない。

当初期限の日には、約束どおりもう一度電話をかけた。原因が確定し、あとは報告書の体裁を整えるだけだと伝えると、先方は「では予定どおり待っています」とだけ返してきた。あの一言で、こちらの肩の力も抜けた。

客先への説明とは別に、社内向けの報告書にも「なぜ8日目まで完了度6割だったのか」という一節を残した。測定機の共用で待ち時間が発生する構造は、この案件に限らず他の是正処置でも同じ壁になりうる。次に同じ壁にぶつかったとき、今回の記録を読み返せるようにしておきたかった。

是正処置の残り期限3営業日時点で状況共有する新しい社内運用フロー図
是正処置の新しい社内運用フロー ※筆者の運用記録(対象:品質保証部の標準運用・期間:本件以降)

あの判断が唯一の正解だったとは、今も思わない。もっと早く測定機を押さえていれば、延長そのものが要らなかったかもしれない。それでも、黙って期限だけを守ろうとしなかったことは、間違っていなかったと思っている。基準を先に紙へ書き出しておいたことも、後から振り返ると効いていた。迷っている最中にその場の空気で決めていたら、①か③のどちらかに流れていた可能性もある。

現場の是正処置の進め方や社内ルールの作り方は、現場改善ポータル(genba-tameshita.com/portal/)にも整理している。期限が迫った時にどう動くかという実際の判断は、基準を決めたあとの運用の話として読んでもらえたらと思う。

参考書籍

是正処置の考え方を整理し直したいときは、『トヨタの問題解決』(OJTソリューションズ)を読み返すことが多い。

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報告書の組み立てで迷ったときは『考える技術・書く技術』(バーバラ・ミント)も手元に置いている。

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次に読む

「原因が腑に落ちない」と是正処置報告を差し戻された話 ― 今回とは逆に、原因の裏づけ不足を客先に指摘された時の記録。

顧客監査の指摘事項をどこまで横展開するか迷った話 ― 期限ではなく横展開の範囲で迷った、別の意思決定の記録。

本記事は筆者個人の体験と判断に基づく記録であり、社内の実額・固有名称はぼかして記載している。同様の場面で判断する際は、自社の基準に照らしてご判断いただきたい。

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この記事を書いた人

製造メーカーに10年以上。検査員から始めて生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは管理職。若手のころの失敗も含めて、現場で見たこと、試したことを書いています。座右の銘は「ピンチはチャンス」

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