横展開と水平展開の違いと進め方:「類似」の決め方、範囲の選び方、記録に残す欄

横展開(水平展開)の進め方をまとめたガイドです。参照した資料の改版があれば書き直します(確認日:2026年10月27日)。

場面
是正処置の原因が分かり、同じ原因が起こりうるほかの設備・品番・工程をどこまで調べるかを決めるとき
対象
不具合の対策を類似の所へ広げる横展開(「類似」の決め方、範囲の決め方、記録の欄)。うまくいっているやり方を広げる意味の横展開は、違いの説明だけ
使うもの
是正処置報告書の原因の欄、設備・品番・工程の一覧、横展開の記録(作例の表)、決裁に添えるメモ1枚
要点
原因から「類似」の条件を先に決め、範囲を4つの基準に当てて選ぶ。調べた範囲、対象外の理由、見つかった件数を記録に残す

横展開は、不具合や監査の指摘の原因が分かったあとに、同じ原因が起こりうるほかの設備・品番・工程を探して、手を打つ作業です。

進め方は、「類似」の条件を先に決める、範囲を基準に当てて選ぶ、調べた結果を記録に残す、の3段です。根拠は、JIS Q 9001:2015 の10.2.1 b) 3) です。

目次

横展開と水平展開の違い

横展開と水平展開に、決まった使い分けはありません。日本品質管理学会の品質管理用語に見出し語があるのは水平展開だけで、横展開は載っていません。東京労働局のサイトに載っている労働災害再発防止対策書の様式は、再発防止の対策を事業場内のほかの機械・設備や作業へ広げる欄を「水平展開」と呼んでいます。仕事の中身が分かれるのは、何を広げるかによります。

横展開(水平展開)という言葉には、向きの違う2つの意味があります。一方は、不具合の対策を、同じ原因が起こりうる類似の所へ広げることです。もう一方は、うまくいっているやり方に学んで、自分の所を改善することです。

前者の根拠は、JIS Q 9001:2015 の10.2.1 b) 3) にあります。b) は、不適合が「再発又は他のところで発生しないようにするため」に、原因を除去する処置の必要性を評価する項目です。3) は「類似の不適合の有無,又はそれが発生する可能性を明確にする」ことを求め、直前の2) は原因の明確化を求めています。10.2.1 の条文に、「横展開」「水平展開」という語はありません。条文は、規格票の原本ではなく、条文を引いた解説サイト2件で確かめた文言です。

後者は、日本品質管理学会の用語規格 JSQC-Std 00-001:2023 の6.7 にあります。水平展開を、組織の内外で効果的・効率的に機能している製品・サービス、プロセス、システムに学び、必要に応じて独自の工夫を加えて改善する活動と定義しています。

この記事が扱うのは前者です。ものづくりポータルの是正処置報告の様式も、水平展開の欄を前者の意味で作っています。依頼の文面に「展開」とだけあって、どちらか分からないときは、依頼者に1行で確かめます。

ISO 9001 は2026年9月16日に第6版が発行されました。JIS Q 9001 の2026年版は、この記事の確認日の時点で発行を確認できていないため、条文は JIS Q 9001:2015 のものです。ISO 9001 の第6版の本文は確認していません。

是正処置の中での位置

横展開は、原因が分かってから探します。10.2.1 b) では、原因を明確にする2) のあとに、類似を明確にする3) が並びます。原因が違えば、探す先が変わるからです。その原因をどこまでたどるかは、なぜなぜ分析の進め方にあります。

たとえば、記入漏れの原因が交代時の引き継ぎなら、探す先は交代のある設備です。原因が記録用紙の欄の位置なら、同じ用紙を使う設備すべてが探す先になります。

暫定処置(封じ込め)とは、範囲が違います。暫定処置は、すでに出た物への処置で、在庫、仕掛品、出荷済みの物が対象です。横展開の対象は、これから同じ原因で出うる設備、品番、工程で、そこへ手を打つ処置になります。IATF 16949 の10.2.3 でも、封込め処置は b)、類似プロセス及び製品に及ぼす影響の考慮は d) と、別の項目に分かれています。

ISO 9001 Auditing Practices Group の手引き(第1版、2016年1月)も、場合によっては、原因を突き止めることが、ほかの領域の類似の不適合を見つけて減らす助けになる、と述べています。

何が同じなら類似か

「類似」の線は、先に決めます。日本品質管理学会の用語規格は、再発防止(6.5)の注記で「“同じ”の定義は,組織・業種によって異なる」としています。自社の「同じ」は、自社で決めるしかありません。

線を決める材料は、原因の欄にあります。原因ごとに、次の「同じ」を当てて、探す先を拾います。

同じ 探す先の例 見る物
設備・型式 同型の設備、同じ治具 設備台帳、点検記録
作業手順 同じ手順書で動くライン 手順書の適用範囲
様式・記録 同じ用紙を使う工程 記録用紙の一覧
材料ロット 同じロットを使う品番 受入記録、使用先
仕入先 同じ仕入先の材料 仕入先の一覧
検査の仕組み 同じ方法、基準の品番 検査基準書

症状の名前で探すと、原因の違う物が混ざり、症状の名前が違っても原因が同じ物が漏れます。たとえば、寸法外れが出たからと寸法外れの履歴だけを見ると、同じ治具の摩耗で別の寸法が外れる品番は対象に入りません。探す条件は、症状でなく原因から作ります。

私なら、原因の欄に書いた原因ごとに「類似と見る条件」を1行ずつ書き、その条件に当たる設備、品番、工程を、設備台帳や品番の一覧から拾います。拾った物が、範囲を決める候補になります。

範囲は4つの基準で選ぶ

候補が多いときは、全部を同じ深さで調べるか、絞るかを決めます。たとえば、客先監査で、恒温槽1台の温度記録に記入漏れが3件あると指摘された場面です。原因は、担当が交代するときの引き継ぎに、記入の確認が入っていないことです。社内には同型があと4台あり、2台は同じ交代方式で動き、2台は記入者が固定で交代がありません。数字は説明のための例です。

範囲の案は、次の3つになります。

  1. 全数:5台すべてを調べる
  2. 条件の近い所まで:指摘の1台と、同じ交代方式の2台を調べる
  3. 指摘の1台だけ:ほかは通常の見回りで様子を見る

案を並べたら、選ぶ前に判断の基準を紙に書きます。基準は4つです。

  • 条件の近さ:類似の条件に、どこまで当たるのかを見る
  • 影響の重大さ:同じ不具合が出たときの、品質保証上の重さを見る。安全、法規、客先の重要特性に関わるかも含める
  • コスト:広げたときの稼働停止と人員の負担を見積もる
  • 説明のしやすさ:なぜその範囲なのかを、決裁者や客先に筋道立てて答えられるかを確かめる
基準 全数 近い所まで 1台だけ
条件の近さ △ ○ ○
影響の重大さ ○ △ ×
コスト × ○ ○
説明のしやすさ × ○ ×

○△×は、この例での見立てです。全数は、交代のない2台まで入るので条件の近さが△で、説明も弱くなります。生産計画に2日分の遅れが出るので、コストは×です。条件の近い所までは、半日で収まり、「同じ交代方式だから」と説明できます。指摘の1台だけは、残りの4台が手つかずで、あとで同じ記入漏れが見つかると、知っていて放置したと受け取られるおそれがあります。

基準が同じ案に揃うことは、少ないです。この例では、条件の近さと説明のしやすさが「条件の近い所まで」を指し、影響の重大さは全数に傾きます。私の決め手は、「なぜそこまで含めるのか」に筋道立てて答えられる基準です。この例では条件の近さがそれにあたるので、「条件の近い所まで」を選びます。

客先監査の指摘を受けてから、回答書で横展開の範囲を書くまでの流れは、客先監査を受ける準備と指摘の受け方の「指摘への回答と横展開」の節にあります。

10.2.1 の末尾の一文は、「是正処置は,検出された不適合のもつ影響に応じたものでなければならない」です。この文は、範囲を絞る理由にも、絞らない理由にも使えます。影響が小さければ絞る理由になり、安全や法規に関わる特性なら、条件の近さに関係なく広げる理由になります。

説明のしやすさは、監査向けの基準に見えます。それでも私なら、全部残します。説明できない範囲は、現場にも伝わらないからです。

筆者の実例

私の職場では、横展開の範囲を品質保証が条件の近さで決めることも、関係部署と相談して決めることもあります。客先から横展開の結果を求められたときは、調べた範囲と結果の表、件数と写真、是正処置報告書の欄に一文、のどれかを出しています。

決裁メモと対象外の扱い

範囲を決めたら、決裁に添えるメモを1枚つけます。項目は次のとおりです。

  • 指摘の内容と原因
  • 先に決めた判断基準と、評価の表
  • 対象にした設備、品番、工程
  • 対象外にした物と、その扱い
  • 見直す時期

基準を先に書いたメモがあれば、「範囲が甘いのでは」と聞かれたときも、同じ紙で答えられます。

対象外にした物を見回りの強化だけで済ませると、直接の是正が無いまま終わります。私なら、対象外にも、手間の小さい処置を1つ入れます。たとえば、記録用紙に交代時刻の欄を足す処置です。

3か月後に再発が無くても、線引きが正しかったとは限りません。対象外の物で同じ問題が出たときに、どの基準の見立てが甘かったかを確かめられるよう、メモは是正処置の記録と一緒に残します。

記録に残す欄

横展開は、「済み」の一言で終わらせず、次の欄で残します。作例は、上の恒温槽の例です。数字は説明のための例です。

欄 書くこと 作例
原因 不適合と確かめた原因 引き継ぎに確認なし
類似の条件 何が同じなら類似か 同じ交代方式
調べた範囲 対象と方法 2台、3か月分を全数
対象外と理由 外した物と理由 記入者が固定の2台
件数 何を何件見て何件か 2台で記入漏れ4件
処置 見つけた所への処置 用紙に交代時刻欄
期限と担当 処置ごとに 11月末、保全担当
確認の結果 処置後に確かめた日と結果 3か月後、2台で0件

見つかった件数が0件のときは、何を何件見たかも書きます。「2台・3か月分の記録を全数見て0件」の形です。見た数が分からない0件は、調べていないことと区別がつきません。読み方は、是正処置の有効性の確認にまとめました。

自動車向けの追加

IATF 16949:2016 の10.2.3 は、問題解決の文書化されたプロセスに、システム的是正処置の実施を含めています。その d) は「システム的是正処置の実施(類似プロセス及び製品に及ぼす影響を考慮することを含む)」で、f) は「該当する文書化された情報(例:PFMEA,コントロールプラン)のレビュー及び,必要な場合その更新」です。どちらも IATF の公式解釈 SI 20 に載った条文です。

IATF 16949 の認証を受けている組織は、上の表に2つの欄を足すと、d) と f) に答える形になります。

  • 類似プロセスと製品への影響:調べた結果。影響なしと判断したときは、その理由
  • PFMEA とコントロールプランの見直し:見直した版と日付。見直さないときは、その理由

SI 20 の「変更の理由」は、再発防止のステップが欠けた是正処置がしばしば見受けられることです。そこで、再発防止が要求事項に追加されました。

同じ公式解釈集の SI 21 は、6.1.2.1 のリスク分析に少なくとも含める物を挙げています。a) は、製品リコール、製品監査、フィールドからの返品・修理、クレーム、スクラップ、再処理から学んだ教訓です。横展開で見つけた件数と処置は、この教訓に入れる材料になります。

確かめられない書き方

次の5つの書き方だと、読み手が横展開の中身を確かめられません。それぞれに直し方を添えます。

  1. 「横展開済み」とだけ書く。調べた対象の一覧と、対象ごとの結果を添える。
  2. 対象外の理由が無い。外した物ごとに、条件に当たらない理由を1行書く。
  3. 調べた数が無い。件数の前に、何を何件見たかを書く。
  4. 症状の名前で探している。原因の欄の原因から、類似の条件を作る。
  5. 期限と担当が無い。処置ごとに置く。

いま是正処置の案件があれば、原因の欄の隣に「類似と見る条件」を1行書き足し、その条件で設備台帳や品番の一覧から対象を拾ってください。拾った数が多いときは、判断の基準を紙に書いてから、範囲を選びます。

ものづくりポータルの是正処置報告の様式(Excel・8D のシートつき)には、「5. 水平展開」の欄があります。同じ原因が起こりうる品番・ライン・工程と、そこへ入れる対策、入れない場合の理由を書く欄です。上の表の項目は、この欄に収まらない分を別紙に書くときに使えます。

次に読む

横展開の結果を書く欄を含む、是正処置報告書全体の書き方です。原因の欄が、類似の条件の元になります。

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処置を入れたあとに、同じ原因の不具合が止まったかを確かめる手順です。0件の読み方もここにあります。

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出典

免責:このページは、製造現場でよくある場面をもとにした事例と、書式・手順の作例です。数値は説明のための例です。ただし、JIS Q 9001、JSQC、IATF から引いた条文の番号と文言は、資料の記載のとおりです。範囲の決め方と記録の形は、客先の要求書と社内の手順書で確かめてください。

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この記事を書いた人

素材メーカーに勤めて10年以上。検査員から始めて、生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは品質保証の責任者です。クレーム対応と是正処置、ISO・客先・仕入先の監査、製品含有化学物質の調査回答(chemSHERPA・REACH など)、部下の教育まで担当しています。QC検定2級、ISO 9001 内部監査員。座右の銘は「ピンチはチャンス」。

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