客先監査を受ける準備と指摘の受け方:根拠の確かめ方から回答まで

客先監査(第二者監査)を受ける側の、準備から指摘への回答までのガイドです。参照した資料の改版があれば書き直します(確認日:2026年11月2日)。

場面
客先から監査の連絡が来て、日程が決まるころ。何を確かめ、何を準備し、当日と終了の会議でどう受け、指摘にどう答えるかを決める場面
対象
顧客など取引先が、自社の工場と品質の仕組みを確かめに来る監査(第二者監査)を受ける側。認証機関の審査、内部監査、自社が仕入先へ行く監査の手順は含めない
使うもの
客先の監査の通知とチェックリスト、発注の書類と品質の取り決め、前回の指摘とクレームの是正の記録、4M変更・校正・教育の記録
要点
受ける根拠は規格の箇条でなく、客先との取り決めにある。日程が決まったら目的・範囲・基準・見せない物を確かめ、当日は聞かれた物だけを出し、答えられない質問は期限を付けて持ち帰る。指摘は終了の会議で、文・根拠・区分・回答の期限を確かめる

客先監査は、顧客など取引先が、自社の工場と品質の仕組みを現場で確かめる監査で、ISO 19011:2026 の分類では第二者監査に当たります。受ける根拠は、規格の箇条ではなく、客先との取り決めと発注の書類にあります。

進め方は4段です。日程が決まったら、目的・範囲・基準・見せない物を客先に確かめます。次に、前回の指摘とクレームの是正の状態を点検し、記録の置き場を決めます。当日に出す記録は、聞かれた物だけです。答えられない質問は、期限を付けて持ち帰ります。終了の会議では、指摘の文・根拠・区分・回答の期限をその場で確かめます。

目次

客先監査は第二者監査

ISO 19011:2026 は、序文の表1で監査を3つに分けています。第一者が内部監査、第二者が外部提供者の監査と組織の外部の利害関係者による監査、第三者が認証審査、認定審査、法令などによる監査です。

第二者監査は、顧客など組織に利害のある者か、その代わりの個人が行います(3.1 注記2)。監査の依頼者の定義(3.13)の注記1は、外部監査の依頼が、規制当局、契約の相手、今の顧客や見込みの顧客などから来るとしています。見込みの顧客も挙がっているので、取引を始める前の監査も、客先監査として受けることになります。

監査 行う人 基準にするもの 受ける根拠
内部監査(第一者) 自社、またはその代わりの人 自社の手順書と、ISO 9001 などの規格 ISO 9001 の内部監査の要求
客先監査(第二者) 顧客、またはその代わりの人 客先の要求事項(図面、仕様書、品質の取り決め、客先の様式、業界の規格) 客先との取り決めと、発注の書類
認証審査(第三者) 認証機関 認証の規格(ISO 9001 など) 認証機関との契約

客先監査の特徴は、基準も、指摘の区分も、回答の期限も、客先が決めることです。数字は客先ごとに違います。公開されている要領の例は、仕入先監査の進め方の表に並べています。

自社が仕入先へ行く監査も第二者監査で、この記事の裏返しに当たります。年間の内部監査の組み方は、内部監査の進め方にあります。

私の職場では、客先監査を年に3〜5回受けています。客先は半導体関連、自動車、医療の業界で、定期の監査がいちばん多いです。

受ける根拠は取り決めにある

客先が自社の所で何を見るかは、客先から受け取った要求事項に載っているはずの物です。JIS Q 9001:2015 の 8.4.3 f) は、組織が外部提供者へ要求事項を伝える事項の1つに、「組織又はその顧客が外部提供者先での実施を意図している検証又は妥当性確認活動」を挙げています。外部提供者は、客先から見た自社です。

通知が来たら、発注書、品質保証協定書、取引基本契約の別紙を開き、監査、立入り、記録の閲覧、協力の語がある箇所を探します。

航空・宇宙・防衛向けの JIS Q 9100:2016 は、同じ 8.4.3 の l) で、組織、その顧客、監督官庁が、サプライチェーンのあらゆるレベルで、施設の該当区域への立入りと、該当する文書化した情報の閲覧を行う権利も、伝える事項に挙げています。業界によっては、立入りの権利まで取り決めに入ります。

取り決めに監査の欄を入れる書き方は、発注する側から書いた仕入先との品質の取り決めに作例があります。「変更・記録・監査」の欄に、4M変更の連絡、記録の保存、監査への協力を入れています。自社の取り決めに同じ欄があるかが、確かめる点です。

条項が見つからないとき、私なら、日程の確認と一緒に、通知を出した客先の担当者へ、どの取り決めに基づく監査かを聞きます。範囲と基準を、取り決めの文で確かめるためです。

条文は、規格票の原本ではなく、条文を写した解説で照合した文言です。この記事の条番号は JIS Q 9001:2015 のものです。ISO 9001:2026 での 8.4.3 の扱いは、規格票で確かめていないため書いていません。2026年版の全体は、ISO 9001:2026 の変更点と移行の段取りにまとめています。

日程が決まったら確かめる7項目

通知が来たら、日程の連絡と一緒に、次の7項目を客先に聞きます。電話で済ませた物は、メールで復唱して文で残します。

項目 聞くこと 書き留める形
目的 新規取引の前、定期、クレームのあとのどれか 通知にある理由の1行
範囲 見る工程、製品、拠点、期間 工程名と品番
基準 使う様式やチェックリスト、業界の監査様式の名前。事前に見られるか 様式の名前と版
参加者と時間割 客先の人数と役割、自社で立ち会う人、工程ごとの時間 時間割の表
見せない物の線引き 他の取引先の図面や仕様、価格、人事の情報。秘密保持の取り決めの有無 見せない物の一覧と、客先へ伝えた日
写真と持ち出し 撮影、記録のコピー、持ち出しの可否 可否と条件
前回の指摘の扱い 前回の指摘を、今回あらためて見るか 前回の指摘の番号と状態

目的で、準備の重みが変わります。私なら、新規取引の前は会社と工程の全体を説明する資料、定期は前回の指摘の回答、クレームのあとはそのクレームの是正報告と効果の確認を、厚くします。

見せない物の線引きは、監査の原則にも出てきます。ISO 19011:2026 の4.5は、秘密保持を原則の1つに挙げ、監査で得た情報を被監査側の正当な利益を害する形で使わないとしています。ただし、ISO 19011 は要求事項でなく手引きです。客先が従うかは客先の要領で決まるので、見せない物は、取り決めか事前のメールで文にします。

私の職場では、価格と原価を、見せられない物として断ったことがあります。品質の監査の範囲の外なので出せないと伝え、納得してもらえました。

準備する記録と現場の整え方

準備の中心は、前回の指摘とクレームの是正の状態を、数えられる形にすることです。開いている物には期限と担当を付け、閉じた物には効果の確認の記録を付けます。効果の確認の考え方は、是正処置の有効性の確認にあります。

準備する物 先に確かめること
前回の指摘の回答 開いている物に期限と担当があるか。閉じた物に効果の確認の記録があるか
クレームの是正 直近の是正報告の提出日と、効果の確認の予定日
4M変更の記録 客先へ連絡した変更が、記録と現物で同じか。客先の承認が要る変更の承認日
校正台帳 期限が切れた測定器が現場に無いか。校正の表示が台帳と合っているか
教育・力量の記録 作業している人が記録に載っているか。新任者の教育の日付
現場 案内する道順、通路の物置き、掲示と作業標準の版

書類は、すぐ出せる場所を決めておくのが先です。記録の名前、置き場、取りに行く人を1枚にして、当日の係が持ちます。作り方は、内部監査の進め方の「記録の所在を1枚にする」の節にあります。

現場は、普段の姿のまま見せます。直せる物(通路の物置き、古い版の掲示)は直し、直せない物は、理由と期限を言える状態にします。

私の職場では、準備で現場を整えるのにいちばん時間がかかりました。監査の前に全員で片づけ、表示と置き場を直しました。

当日は聞かれた物だけを出す

当日の流れは、開始の会議、現場の案内、記録の確認、終了の会議の順です。ISO 19011:2026 は、開始の会議を6.4.3、終了の会議を6.4.10の項にしています。開始の会議では、事前に確かめた7項目に変更が無いかを、もう一度言葉にして合わせます。

記録は、聞かれた物を、聞かれた分だけ出します。聞かれていない記録を出すと、その記録も確認の対象です。出す前に、記録の名前と期間を、聞いた人に確かめます。

答えられない質問は、その場で推測で答えず、持ち帰りにします。次の5項目をその場で書き、相手に読み上げて合わせます。

項目 書くこと
質問 聞かれた文をそのまま
聞いた人 客先の氏名と役割
回答する人 自社の担当
回答の期限 日付で。客先と合意した日
回答の出し先 メールの宛先か、終了の会議で聞いた窓口

持ち帰りの一覧は、終了の会議の前に1度読み合わせ、回答できた物と残る物を分けます。

筆者の実例

ほかの部署のことを聞かれて、その場で答えられずに持ち帰ったことがあります。担当の部署に確かめて、期限までにメールなどで回答しました。

終了の会議で指摘を読み合わせる

終了の会議は、指摘を受け取る場です。読み合わせる点は、指摘の文、根拠、区分、回答の期限の4つです。

確かめる点 確かめる中身 曖昧なときの聞き方
指摘の文 対象の工程、見た記録、見た件数が文に入っているか どの記録の、どの欄の指摘か
根拠 何に反しているか。客先の要求書の箇条、取り決め、規格 どの要求に対する指摘か
区分 重大、軽微、観察などの区分。回答が要る指摘か、助言か 回答書は要るか
回答の期限 日数、暦日か営業日か、数え始めの日、出し先と様式 何日までに、どの様式で出すか

指摘の文は、紙かメールで受け取るのが確実です。その場で書き写し、相手に読み上げてもらう方法もあります。後日届く報告書の文と食い違ったときに、照合できます。

事実が違うときは、その場で記録を示して伝えます。ISO 19011:2026 の4.3は、監査チームと被監査側の解決していない意見の相違を、報告するものとしています。私の勧めは、食い違いが残ったときに、自社の見解を伝えた事実を、持ち帰りの一覧へ1行残すことです。

指摘の文が曖昧だったときは、終了の会議のその場で、直す範囲と根拠を聞き返しました。

指摘への回答と横展開

回答の期限を決めるのは客先です。効果の確認の時期は、対策を入れたあとの期間で決まります。この2つは、回答書で分けて書きます。

段階 書く物 詳しい書き方
回答の期限まで 是正処置報告。発生原因と流出原因、暫定処置と恒久対策、効果の確認の計画 是正処置報告書の書き方
同じ期限まで 横展開の範囲と、対象外にした物の理由 横展開の進め方
対策のあと 効果の確認の結果と、案件を閉じる条件 是正処置の有効性の確認

客先の様式が指定されていれば、それに従います。指定が無いときは、自社の様式で出してよいかを客先に聞きます。

期限に間に合わないと分かった時点で、理由と新しい期限を、期限が来る前に客先へ相談します。

当日の口約束は、回答として扱いません。「やります」と言った内容は、終了の会議で文にして、回答書に入れる物と入れない物に分けます。回答書に書いた物が、客先との約束です。

失敗しやすい3つの場面

準備と受け方で外しやすい所は3つあります。どれも、上の節で防げます。

  • 準備の時間を現場の見栄えに使い、記録と現物の突き合わせが残る(準備する記録と現場の整え方)
  • 当日の口約束が、そのまま回答になる(指摘への回答と横展開)
  • 指摘の文を写さずに帰り、意図と違う方向へ直す(終了の会議で指摘を読み合わせる)

通知が来ていれば、今日のうちに、発注書類と品質の取り決めを開き、監査、立入り、記録の閲覧の語に印を付けます。条項が無ければ、日程の確認と一緒に、客先へ根拠を聞きます。

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出典

  • ISO「ISO 19011:2026 Guidelines for auditing management systems」(第4版・2026年5月。序文の表1、3.1 注記2、3.13 注記1、4.3、4.5、6.4.3・6.4.10の項名。規格の冒頭15ページが読める公開の試し読み版の文面で確認した。規格票の全文は開いていない)
  • 日本規格協会「JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」8.4.3 f)(規格票の原本は開いていない。条文は全文を写した解説で照合した)
  • 日本規格協会「JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム-航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」8.4.3 l)(同上)

免責:このページは、製造現場でよくある場面をもとにした事例と、書式・手順の作例です。数値は説明のための例です。ただし、ISO 19011、JIS Q 9001、JIS Q 9100から引いた条文の番号と文言は、資料の記載のとおりです。監査の範囲・区分・回答の期限・様式は、客先の要求書と社内の手順書で確かめてください。

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この記事を書いた人

素材メーカーに勤めて10年以上。検査員から始めて、生産技術・品質保証・品質管理・新規事業開発を経験し、いまは品質保証の責任者です。クレーム対応と是正処置、ISO・客先・仕入先の監査、製品含有化学物質の調査回答(chemSHERPA・REACH など)、部下の教育まで担当しています。QC検定2級、ISO 9001 内部監査員。座右の銘は「ピンチはチャンス」。

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